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分裂日本  作者: 三等兵P
3/5

北サイド第3話  

これから北サイドと南サイドを分けます。

東京陥落を祝うバカ騒ぎが北日本仙台空軍基地で行われた翌日。


バカみたいに酔いつぶれて起床時間の午前6時になっても公共スペースのベッドに基地付き政治士官、佐久大尉のもとに1人の男が現れた。



「よう、同志佐久大尉。」

その男は真新しい中佐の階級章を胸に輝かせながら右足に包帯を巻いたままやってきた。


「同志、杉菜少佐じゃないですか!」


だが、その男は答えない。

ここで佐久はその男が少佐ではなく中佐に昇進した事に気付いた。


「も、申し訳ありません同志中佐!!」


共産主義者の親玉ソ連とは違い、北日本では政治士官は党の意向を伝えるメッセンジャーのような役割は変わらないがソ連軍のように現場司令官にそれを強制したり更迭する権限は無い。


第一そんな権力は北日本の支配者である日本人民党が望んでいない。


「まあまあ気にするな大尉。そんな事じゃあ怒らん。………………あっ、そうだ。大事な用事が有って来たんだ。」



普通の上官なら鉄拳制裁を食らっているが杉菜は戦場で死にかねないヘマをした部下にしか鉄拳を振るわない。


故に佐久は助かった。


「はい、これ。俺の転属命令書。東京の軍政長官補佐だとさ。」


「おめでとうございます同志中佐!!これでエリートコースまっしぐら、将来は人民国防省長官も夢ではないですよ!」


佐久は必死に失点(杉菜は階級を間違えた位では怒らない)を回復しようとなかなか写真写りのよい顔に笑みを浮かべて彼に祝いの言葉を述べる。


だが彼の顔は浮かない。


「うーん、俺は空軍総司令とかはいらないから戦闘機に乗りたいのに………まぁ、仕方ないか。」


これを聞いて更に顔が青ざめる佐久。


「そこでだ、同志佐久大尉。」


「はいっ、何でございましょうか!!」


いきなり名字で呼ばれ、飛び上がらんばかりに佐久は驚く。


「相談があるんだが。」









同日、午後。


『レッドタイフーン』隊11機の乗員22人は杉菜少佐改めて中佐に格納庫前に呼び出されていた。


「………というわけで俺は『レッドタイフーン』隊を離れなくてはならなくなった。」


その言葉で22人に大きな動揺が走る。


だが、彼はざわめく彼らを制すると、



「落ち着け同志たち。そこでまごついている暇はない。よって今から新隊長を決めたいと思う。」


と高らかに宣言した。



「と言うわけで推薦しろ。」


いきなり口調がぶっきらぼうになる杉菜。


「因みに俺は白根中尉がオススメだな。」


「ええぇぇぇぇぇ!!」





結局、推薦されたのは白根ともう一人はなんと杉菜の去った後の機体不足を埋める補充要員、それも女性の白倉絵梨佳という年若い少尉の2人だけであった。


現在の次席指揮官の桑原大尉は、

「隊長やって幼女と結婚できるならやるフィ。」


と抜かす始末。


第二、第三小隊長は推薦すらされなかった。

いや、意図的に推薦しなかっただろう。




「なら、模擬空戦で勝負を決めようか。技量の高いほうが隊長な。ほら、白根中尉、白倉少尉、さっさと機体に乗りな。」




不機嫌そうに言うが、にやけを隠せない杉菜中佐。


「隊長になれば少佐の肩書きと特別俸給月25万、それに配給が二割増しになるぜ。」








30分後、白根中尉ペアと白倉少尉ペアは共に深紅と黒で彩られたMiG-31へ乗り込み、模擬空戦に指定された海域へと到着していた。


公平を期すため機体の装備は訓練用短距離ミサイル四発、それと訓練モードにした23㎜機関砲だけ。


現隊長曰わく、

「BVR戦闘など後ろの仕事だ。パイロットの技量を測るのにはやはり一機での格闘戦がものをいう。」


というため中距離ミサイルは搭載していない。





やがて訓練空域である日本海上空に達した二機は、


『タイフーン2、エンゲージ。』


『タイフーン12、エンゲージ。』



と距離30キロに互いの機体を認め、交戦を宣言する。

タイフーン2は白根中尉、タイフーン12は白倉少尉の無線のコールサインである。




それは端から見ればシュールであった。


深紅と黒に彩られたMiG-31同士が相手の後ろにつこうとクルクル旋回し、宙返りまでやってしまうからだ。







「さすがは杉菜隊長の一本釣り、なかなか強いな。」

白根中尉は白倉機の機関砲から逃れるため得意のS字カーブで右へ左へと機体を傾ける。


新米では真似することすらままならない機動で白倉機の銃撃を空振りさせる。


「ほいよっと。」


そのまま減速しながらバレルロール。


機関砲の射程に白根機を入れていた白倉機はたちまちオーバーシュート、白根機の前に姿を現した。


「ほい、おしまいっ。」


白根は訓練用短距離ミサイルを一発、白倉機のエンジン目掛けて放つ。


実際にミサイルは飛ばないが本当に赤外線センサーが白倉機を捉え、模擬追尾を開始した。


当然白倉も予想していたのでフレアをバラまき熱源センサーを欺瞞する。


「………まぁ、コレくらいはかわすよな。」


フレアに釣られて短距離ミサイルは命中判定が出ず、空しく一発を消費した白根中尉。


「なら高空の機動で叩くか。」


白倉機の追尾を止め、アフターバーナー全開で高度を上げてゆく。




当然、白倉少尉にとっては背後を取って短距離ミサイルを撃ち込むチャンスとなる。


「むぅ、やっぱり現役二番機さんなだけあるの。でも、赤いお尻が丸出しなのっ!!」


白倉機は右旋回から急上昇、たちまちマッハ3に達し高度をとる白根機を追い掛ける。


だが、機体性能は全く同じ為追い付く事は出来ない。

「ええぃ、メンドーなの!ミサイル発射!!」


ここがチャンスと考えた白倉少尉は短距離ミサイル二発を発射した。


短距離ミサイルの速力はマッハ4なのでマッハ3で飛行する白根機には充分追い付ける。



だが白根機はいきなりアフターバーナーを切り、フレアをバラまきながら最大機動で宙返りを開始した。


「ウソ…………」


短距離ミサイルはフレアを追いかけたと判定され外れ、二発失ってしまった。


しかし白倉も推薦されるだけはあり、すぐさまエアブレーキを展開した。


デジタル式速度計の表示が3600から3000を切り、すぐさまマッハ2となるがそう簡単についた勢いは殺せない。


2300………


2180………



(お願い、早く減速してほしいの!)


だが、宙返りを終え白倉機の背後についた杉菜機は容赦なく機関砲を放つ。


それは訓練モードのため弾は出ないが光が機体に反射して命中判定が出る。


「まだまだ新米だな。」


結果は命中、白倉機の被害甚大で脱出不可能のまま墜落すると判定が出た。


『ぷぅ、やっぱり現役二番機さんは強かったの。絵梨佳の完敗なの。』



「流石に航空学校出たての奴には負けん。」



そして二機は編隊を組むと仙台基地へと戻ってゆく。

もちろん、勝った白根がリーダー、負けた白倉はウイングマンのポジションで。







しばらく飛行していると、二機の長距離レーダーに真東から北日本領空へと侵入する機体が数機映る。

IFF信号は『否』。


(変な侵犯機だな。東からなんて。ソ連機は北から、南の連中やたまにいるアメリカ機は南か南西から侵入してくるんだが………。)

白根はそんな事を思いながらまたスロットルを全開にするとマッハ3の高速で不明な反応のある空域へと向かっていった。


「あっ、二番機さん待って!!」


慌ててアフターバーナー全開で後を追う白倉機。


その光景は曇り空にバーナーの火炎が映えて綺麗な光景であるが、それを見ることが出来るのは同じ戦闘機パイロットだけだ。


時を同じくして地上からも、


『訓練が終わったなら侵入した機体を迎撃してほしい』


とまだ酔っている佐久大尉の声で通信が来る。



「タイフーン2、了解。」

『タイフーン12、了解。』


何事かを酔いに任せてグチる佐久がうっとうしいため2人とも無線のスイッチを切る。


地上では佐久が痴情に関する事を酔いに任せて叫んでいたが杉菜中佐の呼んだ憲兵に連行されていった。


「彼の部屋に押し込んどいて。」


「「ハッ!!」」


「ふざけるなぁー。」


佐久は必死に抵抗するが屈強な憲兵2人に担がれ彼自身の部屋に押し込められた。


佐久大尉の父親は日本人民党の幹部だが、軍務に支障を来す場合…………日本共産少女団の幼女を執務室に連れ込んだり…………した場合には憲兵に連れられて反省部屋に閉じ込めても何も言わない。

人民党の人間には常識は一応有る。





その頃には白根、白倉の機体は肉眼で領空侵犯をした機体を捉えることが出来るまでにその機体に接近していた。


「何故こんな所にトムキャットが!?」


『しかも白星じゃなくて日の丸がついてるの!』


その機体は4機、それらは全てアメリカ海軍の艦載防空戦闘機として有名なF-14トムキャットであった。

運動性能が良く、航続距離が長いため後発のF/A-18E/Fスーパーホーネットが就役しても当分は改良されながら現役に留まるであろう優秀な戦闘機と北日本やソ連では評価されている。


「だが何故南日本の標識が!?」


『きっと白根さんを落とそうとして買ったに違いないの!』


謎のF-14部隊も彼らのMiG-31を確認すると反転、襲撃態勢を取り始めた。


その胴体下には短距離ミサイルのサイドワインダーと中距離ミサイルのスパローが四発ずつ搭載されている。


対して白根機、白倉機が使える武装は実戦モードに戻した23㎜機関砲と赤外線追尾の短距離ミサイルR-73が二発だけだ。


当然トムキャットも20㎜バルカン砲を装備している。つまり、白根部隊は圧倒的不利だ。


「仕方ない、潰すか。」


『さすが白根さんなの。絵梨佳もついていくの。』



2人の機体はトムキャット4機と真っ正面からぶつかり合う形で最大速度で進入する。

対するトムキャット隊も最大速度のためマッハ6近いスピードでお互いが近付く。


15キロ………



13キロ………


「いいか白倉少尉、10キロで全部発射だ。」


『はいなの。』


12キロ………




11キロ……



「短距離発射!!」


『発射っ!』


トムキャットから合計16発のサイドワインダーが発射されるのと同時に二機から合計四発のR-73が飛び、最大パワーを叩き出すトムキャットのエンジンから放たれる多量の赤外線を目標に獲物を狩ろうとする猟犬のように尾部に迫る。


当然トムキャットは多量の赤外線を出すフレアをバラまいて急旋回や横滑り、さらに宙返りでかわそうとするがそれはあまり効果はなかった。

旧式のソ連製ミサイルならば効果はあったかもしれないがR-73は最新型赤外線ホーミング装置が弾頭に付いているためフレアには騙されにくい。


それでも二機は機動性をフルに使ってミサイルを振り切ったが残る二機はR-73にエンジンを粉砕された。


バラバラになって落ちてゆく二機のトムキャット。


しかし、白根機と白倉機にも迫るサイドワインダー。

しかしそこはエース部隊、最大加速で安全速度のマッハ3を超え、さらにフレアをありったけバラまいた。


だがフレアをまく必要はなかった。


サイドワインダーの速力はマッハ2.5。

対してMiG-31は無理をすればマッハ3の突破も可能だ。


全てのサイドワインダーは超高速で逃げる二機に追い付けず燃料切れで空しく落下した。


すると形成不利を悟ったのか、東へと去ってゆく二機のトムキャット。


それらを2人は追わなかった。

機関砲だけでは心もとなかったし、何より燃料が殆ど残っていなかったからだ。

「タイフーン2より仙台基地、侵入したトムキャットは二機を撃墜、二機は東に逃走した。これより帰還する。」


『了解しました、滑走路は一番を使ってください。』


この後着陸した2人は人民党機関誌の報道陣に囲まれ、しばらく取材地獄を味わった。

あ、そうでした。

この間友人に読んでもらった時に機体の説明をつけろと言われましたが……


実際にない機体だけ本文中やあとがきで説明致します。

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