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分裂日本  作者: 三等兵P
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北日本、南進す

2001年12月08日。


日本社会主義民主共和国(北日本)の東京への先制攻撃によって南北内戦が始まった。


しかし北日本の宣戦布告直後、ソビエト連邦ウシャコフ書記長とアメリカ大統領リーストンは同時に内戦への直接的な介入はしないと声明を出した。


しかし双方は軍事援助をする気満々であり、実際は米ソの代理戦争の様を呈していた。



south side


南日本、浜松空軍基地

16時37分



乗機を白根中尉のミサイルで撃墜された赤磐大佐と渡瀬軍曹は自軍の救難ヘリに救助されて南日本の中部最大の拠点である浜松基地の医務室にて休養を取っていた。


「………やはり二番機が待ち構えていたか。俺とした事が軽率な作戦であった。」


病室の寝台の上で、赤磐が1人呟く。


幸い渡瀬に怪我は無かったため彼は先に戦闘報告を行っているが、赤磐は背中に大きな傷が有ったため絶対安静を命じられていた。


故に彼は今病室にてジッとしていた。




そして渡瀬は、浜松基地司令官に対して他の戦闘機パイロットと共に戦闘報告をしている真っ最中だった。

「…………赤磐機は結局一機撃墜一機撃破、そして被撃墜と。」


司令官付き武官である大尉の質問に朗々と答える渡瀬軍曹。


その顔は先程までの緊張が嘘のように強張っていなかった。


寧ろ、自らの義務を果たしきったような面持ちであった。


「それで渡瀬軍曹、貴官は確か高等航空学校所属であったな?」



個人記録を書く武官の代わりに浜松基地の司令官が渡瀬に聞く。


「何故あの時赤磐司令と実弾を搭載したファントムに乗っていた?」


それは教育航空隊がある横須賀ならまだしも、実戦航空隊の一大基地である浜松の司令官からしてみれば奇妙な事だった。


「ハッ、小官は赤磐大佐殿とミサイルの実射訓練を行おうと、後席に乗っておりました!」


「ほう、分かった。下がってよい。貴官も休息が必要であろう。」


「ハッ、失礼致します!」

渡瀬はびしりと敬礼を決めると、すぐさま司令官公室から出ることとした。





そして向かった先は医務室。


脱出した際に負傷した赤磐大佐を気遣ってのことだ。


「赤磐大佐殿!大事には至らなくて幸いでした!」


20程のベッドがある病室に入るなり赤磐に駆け寄りデカい声で言う渡瀬。


他のベッドにいた同じく撃墜されて救助されていたパイロットがうるささに顔をしかめるがお構いなしだ。


「…………とりあえず命があったのは幸いだが………最悪だ。」


だが、赤磐の顔が暗いのを見た渡瀬は何か不吉な予感が自らの体内を駆け巡るのを感じた。



よく見れば、周りのパイロットや軍医も暗い顔をしていた。


「何があったんですか!?」

と事情が判らず、彼は赤磐に問い質した。


「……………そうだった。お前は司令室にいたからまだ聞いていないのだな。」


そう口を開くと、傍らにあったテレビのリモコンを取り、電源を入れた。





「!!!!!!!!!!」


テレビに映った人物を見て渡瀬は絶句した。


そこには敵対する北日本の指導者、幸徳冬水が曾祖父の幸徳秋水ばりの弁舌で何事かを喋っていた。


『………我らは資本主義の豚どもに搾取されている南日本人民をこの手で解放し、素晴らしき社会主義によって幸福にするために南征を開始した。豚の搾取に喘ぐ人民よ、今すぐ蜂起して我らが解放した約束の地、東京へ集うのだ!さすれば偉大なる大同志レーニンの思想であるプロレタリア独裁に基づいた理想の生活を約束しよう!!』








north side


東京から北30キロの上空

15時43分



一方、勝利を手にした『レッドタイフーン』隊も隊長の杉菜機が右エンジンに被弾、未だ少し黒煙を吐きながらも白根機や三番機、四番機に守られながらフラフラと飛行していた。



『ぐっ……………ヤバいな、エンジン油圧が限界を下回った。これ以上の飛行は無理だ、ベイルアウトする。そう基地には報告してくれ。』


白根中尉に杉菜少佐が通信を送る。


「…………分かりました少佐、どうかご無事で。」


『なお、臨時の隊長代行には三番機の桑原大尉を当てる。そう彼に伝えてくれ。では、幸運を祈るぞ。』


そう言うなり杉菜機のキャノピーが吹き飛び、二つの座席がロケット噴射で飛び上がる。


そして主を失ったMiG-31はゆっくりと下を向くとバランスを崩す。

その後地表に向かって落下し、小さな爆発をして存在することを終えた。



「杉菜機より桑原大尉、帰投命令をお願いします。」

『了解したフィ。桑原機よりレッドタイフーン全機、これから我が軍が占領した羽田空港に着陸するフィ。我に続けフィ。』


桑原大尉は語尾に意図的に『フィ』をつけるという奇妙な人物だが、操縦の腕は一級品だ。

そして端から見れば痛々しいことこの上ないロリコンである。


だが、杉菜少佐の士官学校時代の同期のためかリア充を忌み嫌う杉菜との関係はかなり良好だ。


「二番機了解。」


一応返事だけはしておく白根中尉。


彼もよく杉菜と桑原の会話に混じっているため、仲はいい。


そのまま杉菜少佐が抜けた第一小隊は三機で三角の編隊を組むと、そのままの位置関係で空挺部隊が占領した羽田空港の滑走路へと進入、南日本のアクロバットチームのように編隊で同時着陸を敢行した。


続く第二小隊と第三小隊は続けざまに4機で着陸、自軍兵士の度肝を抜いた。





「お帰りなさい同志中尉!!」


「よくやった同志中尉!!」


地上では既に北日本のエース部隊である『レッドタイフーン』隊隊長である杉菜機にダメージを与えた南日本のエースパイロットの操るファントムを白根中尉が撃墜した事を南日本機の無線を傍受したりして知っていた。


故に彼は着陸して機体から降りるなり大歓声を以て迎えられたらのだ。


そのまま白根中尉は屈強な整備兵に担ぎ上げられるとわっせわっせと官舎に運び込まれていった。


後には彼の機体の兵器管制員である梶原准尉や僚機のパイロットがその光景に口をあんぐりと開けたまま滑走路に立ち尽くしていた。



south side


『北日本奇襲攻撃で東京を奪取、全南日本国民は団結して国土を奪還すべし』


『………昨日12時00分、北日本空軍機が突如軍事境界線を突破、我が国の首都である東京へと空襲を仕掛けてきた。これに対して我が空軍は横須賀や浜松から戦闘機を出し、陸軍は対空ミサイル部隊が東京市街地に展開、防戦したが敵空挺部隊に要所を占領されると我が軍は総崩れとなり東京を捨てて逃げ出した。現在は北日本軍最前線は横須賀の北25キロであり、兵力比から見て早期の陥落は必至だが港湾施設の破壊や艦船の避難は完了しており、要塞地区を爆破して撤退するのみとなっている。』


(ある佐官から司令への報告書、極秘扱い)





その頃横須賀海空軍基地では軍事施設の爆破が進んでおり、後は燃料タンクを爆破するだけとなっていた。

「総員、艦に退避!」


「北日本軍、砲撃を開始!!我々が仕掛けた爆薬で自ら施設を破壊しています!」

「畜生めアカの手先!日本人のクセに陛下を排撃しおって!!いつか必ず貴様等を皆殺しにしてやる!」



甲板にいる陸軍兵のヤジや怒号で騒がしい南日本海軍イージス巡洋艦『愛宕』は最後まで施設に爆薬を仕掛けていた工兵部隊千人を収容すると、ドックやクレーンが崩壊した桟橋から静かに滑り出した。


港湾設備に舳先を向けていたため後進でしか脱出出来ないが、それでも30ktは出る。



そして艦首にある高性能12.7cm主砲で無人となった横須賀軍港要塞やそれを攻める北日本軍を分け隔てなく叩く。


「………くそう北日本の逆賊め。朕の愛する国を蹂躙しおって。」


「陛下、お気を荒立てないで下され。今に我々南日本海軍は態勢を立て直し逆に奴らの首都札幌を攻め立ててやります。それまで今しばらくご辛抱下さいませ。」



現在、『愛宕』には東京の皇居からヘリで脱出された皇族の面々が乗艦されていた。


そして航海艦橋にて燃える横須賀をご覧になられているのは今上の天皇、つまり峰光天皇であった。



「ぐ………朕の愛した海が…………大地が赤い逆賊に蹂躙されてゆく。」


「取り合えずば京都の御所へと御避難下さい。名古屋付近でヘリコプターを出しますゆえ。」


「うむ。国土を蹂躙した奴らは憎いがそれも命あっての物種だからな。」



イージス巡洋艦『愛宕』は大平洋へ出ると燃料の都合上海軍基地がある呉ではなく名古屋港へと向かう。


怒り、憎しみ、慚愧などを抱えて。





そしてその日の夜遅く、無人となり廃墟と化した横須賀軍港要塞に二個師団が突入した。


彼らは見るも無残な港湾施設の残骸に溜め息をついたが早速工兵旅団が進出、重機や海上クレーン船を使って修復を始めた。


実は北日本の工兵旅団は世界的に評価が高い。


第三世界や東側の災害復興に一役買っており西側からも一定の評価を得ている。


ここでも北日本工兵の名に恥じない機敏さで瓦礫を爆破、海没させると海上クレーン船が吊り上げて離れた陸地へとポイ捨てする。


時々南日本軍機が思い出したように少数で作業を妨害しようとするが濃密な野戦対空火力に阻まれ殆ど遅延させられなかった。






north side


北日本仙台空軍基地


21時55分



今基地では東京陥落記念と称して大宴会が開かれていた。


当然政治士官の許可がいるが、東京陥落に浮かれた仙台空軍基地付き政治士官、佐久夏樹大尉は喜んで許可を出し自らもロシア政治士官の飲み友達から貰ったという高級ウォッカを手に宴席へと繰り出していた。

政治士官としては本来あるまじき行為だが彼は気にしていなかった。


父が日本人民党の幹部であるので並みの党員では手出しすら出来ないのだ。


仮に手出しをすれば返り討ちを食らって北海道の網走や釧路といった辺境へと送られてしまうから。




「ヒャッハー!汚物は爆発だー!」


お世辞にもお酒に強いとは言えない佐久。

故にウォッカを数杯飲んだだけでベロンベロンに酔いつぶれ、パンツ一枚で腹を叩きながら宴席を歩き回っていたのだ。


これには桑原大尉や白根中尉も苦笑するしかなかった。


しかし、佐久は酔っていても女性将兵には手出しをしなかった。


実は彼もロリコンで、18歳以上には興味が全くないのだ。

まぁ、自分の年齢が23のため一概にロリコンとは言えないが。



ピピッ、ピピッ。


ふと、白根中尉の腕時計が電子音のアラームを鳴らす。


「……もう22時か。」


「どうしーた、同志白根ー?」


白根の呟きをたまたま近くにいた佐久が聞き、ベロンベロンに酔いながら聞き返してくる。



「いえ、少し今日は用事が…………といっても一時間位で帰ってきますので。」

お酒には強い体質の白根だが、この後に用事が有るためワザとアルコール弱めのビール二杯で済ませていたいたのだ。


「ほんじゃーにー。宴会は朝までやっへるはら、ひっはり用事はふませてふるんだろ~。」


もはや何を言っているのか分からないが白根は、


「では、一旦失礼します。」



と言って宴席を後にした。


その後、


「同志っ、白根っ、中尉どのっ!」


と佐久がこっそり日本酒に混ぜ込んだウォッカで顔を真っ赤にした梶原准尉が白根にもそれを飲ませようと彼の席へとやってくるがその時彼は既に基地の門を出た後であった。




南日本と北日本、対立する二つの国。


しかし住んでいる民族は同じ。


ある人は言う。

何故こうなってしまったのかと。


そしてまたある人は言うだろう。


それは憎きソ連のせいだと。


また、むやみに兵士を死なせた東條英機のせいだと答える人もいる。



そしてそれはイデオロギーの違いではない。


ただ、彼らの置かれている境遇の違いとなのだ。


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