表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/95

本当の戦い 2

男の説明が終わった。宿の主人に出してもらった飲み物を何とか啜っているがまだ顔色が悪い。それだけショッキングだったのだろう。

しかしその三つ目の猿ードゥドァというのはそんなに危険な怪物なのだろうか。

皆の顔からはただならぬ雰囲気がするのでかなり手強いのだろうが、僕には知識が無い。


「バーナム隊長、そのドゥドァですか、どんな怪物何ですか?」

「そうか、カイトは知らなくても無理無いな。ドゥドァてのはな、聞いた通りの馬鹿でかい猿の怪物だ。とんでもない腕力で丸太でもへし折っちまうし、牛や馬ならイチコロだよ。

おまけに図体の割には俊敏ときてやがるし剛毛で覆われているせいか防御力も高い。

滅多にこんな人里近くには出てこねえんだがな、群れからはぐれたか」

その説明だけでだいたいどんな怪物か分かった。

目が三つあるというのさえ別にすれば凶悪化したゴリラと思えばいいらしい。

ただし相当に強化され人を襲うゴリラだが。


ふん、とバーナム隊長が鼻で笑う。それだけ恐ろしい相手らしいのにこの人だけは表情に緊張感こそあれ恐れは無い。どれだけ図太いのか。


いや、実力に裏打ちされた自信か、と僕は考えを改めた。


村長が口を開く。いてもたってもいられないという様子がありありと伺える。

「どうしましょう、村人全員ここから待避させた方がいいですか。今ならまだ逃げられるかもしれませんし」

「逃げる準備だけなら間に合うだろうよ。だがもしドゥドァが森を抜けて待ち伏せしていたら奴の懐に飛び込むことになる。そうなればアウトだ」

冷静にバーナム隊長は村長に答える。

「迎え討ちますか」

「ああ。パネッタの言う通り俺らは村でドゥドァを撃退する。村人全員、自分の家に篭って鍵をかけろ。この男の連れと馬を食ってまだ肉が足りないならどっちみち奴は追撃してくるはずだ。馬の匂いを追ってな」

いち早く冷静さを取り戻したパネッタに答えながらバーナム隊長は全員を見回した。

逃げてもドゥドァの追撃を振り切れる望みは低いから倒すしかないようだ。

それにもし村から逃げることを選んでも家畜までは連れていけないだろう。貴重な家畜が凶悪な巨猿の餌食になるのは痛すぎる。


「森の中だとやはり俺らには不利っすよね」

「それこそ奴の思う壷だよ、トマス。僕の魔法も木々に邪魔されるし剣も容易に振れない」

ラークがトマスの確認を肯定した。とりあえずこの緊急事態にも関わらずこの短時間で冷静さを取り戻しただけでも凄いと思う。

ドゥドァを初めて聞いた僕はその恐ろしさがあまり実感出来てはいないからか恐怖で身がすくむという程でも無い。


そこからの展開は早かった。バーナム隊長の指示を受けて村長と宿の主人が手分けして村の家一軒一軒に事態の説明と家の中へ閉じこもることを強く言い渡す。牛や馬も放牧を止め厩舎に閉じ込められた。

ドゥドァに襲われた男は宿の主人に任せ、いつ来てもおかしくない怪物に僕らは備えた。



バタバタしているうちに夜は明けていく。深い森に包まれたこの村にも朝日は差し込み、暗闇は切り払われていく。

だが怪物を迎え撃つ為、村と森の境界辺りに待機する僕らは緊張感に包まれたままだった。

村長らと別れてから30分、警戒しながら宿の主人が出してくれたパンと水だけを胃に流し込みながらの待機は神経を擦り減らす。


先程バーナム隊長は「ドゥドァが出たらおまえらは手を出さなくていい」と強気な指示を出した。一人で何とかなる、と踏んでのことか僕ら新入りでは足手まといになると考えてか分からないが隊長にはそれを言うだけの資格と実績は十分あるのは全員が知っている。


“大剣“ことバーナム・アトキンス。身長程もある両手持ちのグレートソードにそれを使いこなす体力と剣技。そして不屈の精神力。

ラトビア王国に勇名を馳せる者は多いが彼もまたその中で存在感を放つ著名な戦士だった。


「隊長、ほんとに一人でよろしいのですか」

パネッタの強張った声に森から目を離さずにバーナム隊長は不敵に笑った。

「心配か?伊達に大剣の二つ名は背負ってないぜ。おまえらは油断せずに見ていてくれればいいさ」

声に溢れた闘志が湯気のように立ち上るのがわかる。思わず息を呑んだ。


「おまえらじゃちょっと手強すぎる相手だ。任せとけ」

そう言って背中に吊した鞘からグレートソードを抜き放った。

その切っ先が森を向く。

「来るのか」トマスが呟いた。一筋たらりと冷や汗が額を伝っている。

僕とパネッタが彼の後ろ、防御力に劣るラークは最後方だ。


明確な気配は感じとれない。だが何となく森の方が騒がしい気はする。ざわり、と枝が風も無いのに揺れ葉の間から小鳥が数羽飛び立った。


木々が折り重なる重い森の闇の中からぞわり、と獣の気配がこちらに届いたのはその時だった。

皆感じたのだろう、表情がぎり、と引き締まり武器が掲げられる。


「まさかドゥドァにこの任務で会うとはね」横でパネッタが呟くのと巨獣が姿を現したのは同時だった。


ばさり、と一際太い木の枝を押しのけた怪物が森から村へ一歩踏み込みそこで止まった。僕達の姿を認めたのだろう、警戒するように身構える。


(大きい、、!ゴリラなんてものじゃない!)

想像を上回るドゥドァの巨体に心の中で絶句した。頭の位置が予想より高い。バスケットボールのボードくらいの高さにゴリラに似た頭部がある。

額に開いた三つ目の目がぎょろりと周囲を見渡すのが分かった。

全体的なフォルムはゴリラにそっくりだがまるで丸太のような太い腕とゴリラには無い鈎爪が狂暴な印象を更に強める。


しかも背を丸めてその高さだ。もしちゃんと立てば身長4メーターを上回る計算になる。

「まるで小山だな、でかぶつが」

ラークが魔法杖を握りながら敵を仰ぐ。初めて間近で見るドゥドァの迫力に皆、気圧されていた。


いや、ただ一人バーナム隊長を除いて。


ウォオオオンとドゥドァが吠えた。頭上から降り注ぐ吠え声に威圧されそうになるがバーナム隊長はものともしていないようだ。

「ふん、雑魚共相手じゃ俺の出番が無かったからな。本気出してやるぜ、エテ公」

ドゥドァがずん、と踏み出した。

土埃が巨体の体重を示すかのように舞う。

ミリミリと音を立ててその巨大な両腕が開かれ攻撃の構えを取ろうとする。


だが黙って見ている隊長では無かった。

素早い足捌きで詰め寄り振りかざした大剣を撃ち込む。

ギャウ!とドゥドァも爪撃で応戦した。

ギン!と甲高い金属音が響き、それが消えないうちに更に金属音が響き渡る。


「あの怪物と互角に撃ち合っているだって、、!?」

驚いたのは僕だけでは無い。トマスもパネッタもラークも口をあんぐり開けたまま、バーナム隊長とドゥドァの苛烈極まる激闘をただ見つめるばかりだ。

バーナム隊長も大柄な方だがその相手は自分の倍以上の体格の巨大な猿だ。体重という意味ならもっとあるだろう。


そんな化け物と真っ向から力勝負を挑んで負けていないなど、有り得る話では無い。


「おらあ!」

隊長の大剣が旋回する。嵐のような斬撃はドゥドァの左腕を掠めざっくりと切り裂いた。

鮮血がほとばしるがそれで止まる相手では無い。

怒りの咆哮と共に叩き潰すように振り下ろされたハンマーのような相手の右の一撃をバーナム隊長の大剣が受け止める。


とてつもない質量同士のぶつかり合いの迫力に声すら出ない。

「これが“大剣“、、凄すぎるぜ、隊長、、」トマスが畏怖をこめて呟いた。

「凄いわね、ほんとに。あのドゥドァを一人で押し切ろうとしている」

パネッタも感嘆の表情だ。その言葉の通り、戦いは徐々にではあるがバーナム隊長が押しはじめていた。


一撃食らわしたかと思えば相手の反撃をぎりぎりでかわし、その引き際に軽く突きを入れる。

イライラしたドゥドァが両の拳を固めて放った打撃を大剣の一撃で弾き飛ばす。


相当疲労しているのは明らかだし、幾つか手傷も負ってはいる。だが小山のような巨大な猿の方がそれ以上に傷を負っていた。


ザン!と袈裟がけの斬り落としが綺麗に敵の巨大な肩から脇腹にかけて入る。浅い傷口だがピシャピシャと血がほとばしった。

「ガアアアアッ!!」

ドゥドァが吠えた。それだけで失神しそうな恐怖を煽る叫びに乗せるかのような両の爪が連弾でバーナム隊長に迫る。


「そいつはもう見切ったんだよ」

振り回された大剣が鉄壁の防御を築き上げ、嵐のようなドゥドァの爪を防ぎきった。ガツンガツンと爪と大剣がぶつかり合う。

しっ、と気合いの声をあげて隊長が爪を弾き上げる。

一瞬ドゥドァの体勢が崩れたのを見逃さずに強烈な横薙ぎをその巨大な胴に叩きこんだ。


身の毛のよだつようなドゥドァの叫びに血飛沫が重なる。剛毛と柔軟な筋肉の束のせいで一刀両断とはいかないが、かなりの深手を与えたようだ。

「行ける!」トマスが目を輝かせた。

ダッとドゥドァが後ろに跳ぶ。巨体に似合わぬすばしこい動きだが流石にスピードも落ちている。

「逃がすかよ!」バーナム隊長が止めとばかりに大剣を振りかざして突っ込んだ。


だがその足がぴたりと止まった。様子がおかしい。隊長、と僕が呼びかけると同時にぐらりとその大きな背中が揺れ、地に片膝が落ちる。


「バーナム隊長!どうしたんですか!」パネッタが叫んだ。ドゥドァが後ろに下がっていたこともあり、トマスとラークが隊長の横に走り込む。

「ちっ、、抜かったぜ、、」

バーナム隊長が呻いた。少し遅れて駆け寄った僕の目に映ったのは、鎧を貫通してその脇腹に突き刺さった一本の赤い棘だ。だが太さが子供の手首程もある特大サイズである。棘というよりはナイフといった方がしっくりくるか。

ヌラリと不吉な光沢を放つその棘を伝ってポタリポタリと血が滴り落ちていく。ドゥドァの攻撃には有り得ない。


その時だった。僕達の耳にしわがれ軋んだ声が響いてきたのは。

「ぐっくっく、、いかな戦士でもわしの刺は避けれぬか。。良い気味よ」

慌てて声の主を探す。がさりと茂みを掻き分けながらそれが出てきた。


むわりと大気が揺れる。ドゥドァと同等かあるいはそれ以上の不気味な魔の気配が肌に伝わってきた。


奇妙な生き物だった。赤いライオンに良く似た四足歩行の体に白い乱れ髪の老人の顔がついている。そして尾の代わりに蠍のような赤黒い甲殻類の尻尾が高々と天を指し、胴からは大きな蝙蝠の翼が二枚。

この怪物が先程の声の持ち主なのか。怪物の中には人語を話す知性があるものもいる、とは聞いてはいたが。


不気味としか言いようが無い新手の怪物の出現。

そして先程からドゥドァが後ろに下がりきりでグルグル唸っているだけなのはもしかして。


「マンティコアまでお出ましか、厄日かよ今日は?」

パネッタに急いで回復魔法をかけてもらったバーナム隊長が立ち上がる。まだ傷が塞がりきっていないのか、少し足元が覚束ない。


(どうもこの怪物の方がドゥドァより強い、て感じがする)

何となく勘でそう判断した。ドゥドァがこの新手の魔物に従うようにその巨体を縮めていること、気を取られていたとはいえあのバーナム隊長に攻撃を加えているのだ。

それに何より現れた時の威圧感が凄まじい。

もし僕の推測が事実ならほぼこの事態を乗り切るのは不可能だろう。


滅多にこんなところでは出ないクラスの魔物が二体同時出現か。

自分の呼吸が乱れるのが分かる。視野が恐怖のせいかブラックアウトしそうになる。


シュウシュウと呼吸音を歯の隙間から漏らしながらマンティコアと呼ばれた怪物がその尾を振り上げた。

「喰らうてみるか」

「伏せろ!」

隊長の叫び声とマンティコアが尾を振り回したのはどちらが早かったか。

僕らが反応する暇も無く、その蠍のような尾から撃ち出された刺が散弾銃のようにこちらに襲い掛かる。


「うおっ!」咄嗟に構えた盾に重い衝撃、だが足に二発くらいたまらずよろけてしまった。

トマス達もダメージがある。一撃一撃は重くは無いが攻撃が広範囲で避けるのは至難の技だ。

そして高らかに吠えながら再びドゥドァがバーナム隊長に向かってきた。


空気を切り裂きながら迫る剛腕を何とか大剣の刃で受け止めたバーナム隊長だが、脇腹の傷のせいか踏ん張りきれない。体が浮いたところに次の一撃が襲う。

「バーナム隊長!」パネッタの悲鳴が上がった。

まるでピンポン球のように隊長が地を転がる。地を削りながら村の中央辺りまでバーナム隊長の体は吹っ飛んだ。

声にならない呻きが隊長の口から漏れた。内臓を痛めたか口から吐血しているのが見える。


「無様無様、非力な人間ども。。さあ、抵抗してみい。それとも気力まで失ったか?」

「舐めんなあ!」「止せ、トマス!」

マンティコアの嘲笑に恐怖で凍りついていたトマスが激発した。

パネッタの制止も聞かず武器の戦斧をかざして怪物に突っ掛かる。


その間にラークも行動を開始していた。倒れたバーナム隊長に更に攻撃を加えようと近寄るドゥドァ目掛けて攻撃魔法を唱える。

魔法の発動に必要なワードを発しながらその杖が巨猿を指した。

「凍てつく刃よ、我が敵を襲え!アイスブレード!」

ラークが得意としている氷系の攻撃魔法だ。その名前の通り零下を遥かに下回る冷気で形成された刃がドゥドァを狙って飛んだ。


上手くいってくれ、という僕の願いは果して叶えられなかった。

高速で飛来する氷刃をドゥドァは煩そうに片手で払い落とす。相手が巨体過ぎてまるで届かない。

ラークの顔が青ざめる。


「ちっ!」パネッタが舌打ちしてマンティコアへ攻撃を仕掛けたトマスの援護へ駆け出した。見ればマンティコアはトマスの戦斧を軽々と避けている。

速さの絶対値が違う。先の刺のダメージでこちらの動きが落ちているのもあるか。回復魔法をトマスにかけたパネッタも攻撃を繰り出すが、二対一でも当たる気配がまるでしない。

このままでは二人がなぶり殺されるのも時間の問題だろう。


そして僕とラークも危機に立たされていた。

倒れたバーナム隊長を放っておいたドゥドァがその三つ目をこちらに向けたのだ。


金縛りにあったように足が止まる。恐怖で思考が回らない。


「カイト!君も攻撃魔法を使え!」

ラークが再び氷系の攻撃魔法を放ちながら叫ぶ。だがその声が聞こえはしても脳内に虚ろに反響するだけで意識がはっきりしない。


(動かなければ)と思う。だが体が言うことを聞かない。

目の前の巨大な猿がいたぶるように放った軽い平手打ちが僕の胴を撃った。

腹にとてつもない重みがかかり、肺の空気をすべて押し出された体が宙に浮く。


「ごっ、、!がっ、、」とんと弾いただけの一撃なのに恐ろしい威力だ。

激痛にのたうつ僕の視界に三発目の攻撃魔法もかわされ、ローブの裾を指でつままれぶん投げられたラークの姿が映った。

衝撃音をたてて家の壁に激突しそのまま動かない。


どうすれば、、いい。


全員が窮地に立たされていた。マンティコアの予想外の参戦でこちらのペースを完全に覆されてしまった。


痛む腹をかばいながら必死で立ち上がる。だがドゥドァがずん、と音を立てて僕の前に立ち塞がった。

その凶悪な顔を歪めて腕を振り上げる。


ぷちんと自分の中で何かが切れた。巨猿の攻撃より早く唯一使える攻撃魔法を唱えきり、右手を敵に向ける。

「燃え盛れ、火炎。全て焼き尽くし灰と化せ、ファイアボール!」

シャリーから学んだ僕の攻撃魔法。火炎系の初歩の初歩。これで倒せるような相手では無いが、もう考えるより先に夢中で動いていた。


追い詰めたはずの鼠がいきなり牙を向いたのが意外だったのか、ドゥドァが怯む。顔の辺りに飛んだ火球の爆発は大したダメージでは無いだろうがとにかく後先考えずにもう一度唱えた。

「グアアアッ!」狙いが外れ、火球は奴の腰の辺りに当たった。火の粉が剛毛に散らされ赤々と爆ぜる。


だがまぐれもここまでだった。もともとファイアボール程度ではドゥドァを倒し切るには足りるはずが無い。怒りの形相で伸ばしてきた奴の右手にあっさりと掴まってしまい、五体が宙に浮く。

「が、があ、、」

みき、みき、と肋が音を立てる。このまま握り潰されるのかと全身を貫く激痛の中で嫌な考えがよぎった。


もう打てる手は全部打った。相手が悪すぎた、それだけだ。


諦め更に脱力した自分の体をドゥドァが更に力をこめて握り潰しにかかる。酸素不足なのか視界が白く霞む。目が飛び出そうな痛みが走った。絶望に心が染まる。限界、終わりか。。



(諦めるな、マスター)

突然、声がした。自分の右手の方からしたような気がして必死で目だけをそちらに向ける。

うっすらと右手が青く光っている。強い光では無い、だが確かな透明感のある青い光が僕の右手を包んでいた。

(我を使え。助かりたければな)


聞き覚えの無い声と共に不意に視界が青くなる。それはこの世界に飛ばされてすぐに見た夢と同じ青。

どこまでも透き通った空の青だった。


そうか。この青の源がもしアレだとするならば。自分のスキルを信じるべき、と言ったレーブ医師の言葉が脳裏をよぎった。迷う-必要は-もうどこにも無い。



(信じる。来い、僕のもとへ) 声にならない祈りは、だが確かに通じたのか。夢の中の青と同じ光が右手から強く輝く。それは一気に輝きを増していきドゥドァの握力をも緩める強烈な圧力を生んだ。力強い青い奔流がクサビから解き放たれたように僕の右手から飛翔した。




「これが、ドラゴン。。?」

巨猿の拷問から脱出した僕は呆然としていた。僕の遥か真下でドゥドァが警戒したように両手を上げる。点滅するような青い光が空中に投げ出された僕を救った一匹の生き物から放出され、陽光と混じり幻想的な煌めきを放っている。


口の短い鰐のような頭部、そこから生えた二本の角。

すっきりと長い首に続く胴体は思ったより華奢でそこから短めの前足と強靭そうな後ろ脚が生えていた。

二枚の翼で力強く羽ばたきながら長い尾で空中でのバランスを上手くとっている。そしてその全身を深い青色の鱗が覆い神秘的な美しさと威圧感を同時に放っていた。



この未知の生き物の背に何とか振り落とされないように乗りながら僕は下を見た。凡そ50メーター程の高度はあるだろうか、ドゥドァもマンティコアも見下ろす高みをこの青い竜は僕を乗せて悠々と旋回している。

翼が一降りされる度に巻き起こる風が頬を叩く。


これがドラゴンか。これがドラグーンのスキルか。あまりの驚きに言葉が出ない。飛びながら首だけ振り返った竜がまるで笑うように目を細めた。


だがぼーっとしている暇は無い。真下から見上げていたドゥドァがガアアと吠えながら無理矢理森の木を引っこ抜いた。土くれがばらばらと根っこからこぼれ落ちる。

「投げつける気か!?」緊張感が全身を駆け抜けた。あの腕力なら大木をミサイルのように発射することも十分可能だろう。空中で叩き落とされれば命が無い。


「案ずるな、マスター。我に任せておけばいい」

いきなり竜が喋った。ほんとはビックリするところなんだろうがこの際疑問は後回しだ。

「避けられるか?」「その必要すら無い。あんなもの、燃やし尽くす」

竜が自信満々に答える。カッと開いた顎から覗くのは鋭い牙、そして煌々と燃える白熱だ。背中に乗る僕にまで届く熱波に顔をしかめた。


「ギャアオッ!」掛け声と共にドゥドァが思い切りこちらに大木を投げつけてきた。回転しながら迫る幹の太さに背筋が凍ったがそれも一瞬に過ぎない。

コッとガスバーナーの栓を開くような音、そして青い竜の大きく開いた口から放たれた白色にまで純化された高熱ブレスが瀑布となった。

空中を上から下へと貫く白い獰猛な炎は一瞬にして投げつけられた大木を消滅させたのみならず、そのまま地上の巨猿に炸裂した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ