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最終戦 ! part 2

何系の呪文なのかも分からない。それを確かめる余裕も無く、僕とコバルトは呪文を浴びた。

身体に強い衝撃と熱、足を踏ん張ってもその重い衝撃を受け止めきれずがくりと膝が落ちた。

コバルトの闘気やアンチマジックシェル、更には対魔障壁付きのチェインメイルという防御があっても尚こちらにダメージが届いていた。

尋常な威力では無い。

「火炎系、か?」

それでも吹き飛ばされることも無く耐え凌いだ。コバルトも手傷こそ負ったが軽傷だ。ちりちりと僕らの周囲の地面が燃えているから分かったが、あれ程の高速で迫ると防御に備えるので手一杯となる。


もう少しはダメージを与えたかったであろう少し残念そうに見下ろすウィルヘルム公の視線。

まさか防げないとはと内心歯噛みしつつ見上げる僕らの視線。

その二つがかちあう。


ここまで双方とも決定打は与えていない。ほぼ互角の展開はどちらにとって予想外か。

(空中戦ならどうだ)

一拍間が空いたのを利用し、コバルトに飛び乗る。察知したウィルヘルム公が闘場の限界ぎりぎりまで高度を上げた。

こちらもそれを追う。

軽々とその青い巨大を宙に舞わせる竜の姿に観客から歓声が上がった。


「高度50メートル。君らからすれば大した高さではないだろうが、なかなかどうして。。こうして見下ろすと自分が鳥になったようだよ」

不敵な笑いを浮かべたウィルヘルム公の左手にはあの細剣は無い。先程の僕らの攻撃を撃退した際に使い切ったらしい。

相手の武器を一つは奪った。


「という割には顔が余裕ですね」

「それほどでもないさ。戦闘開始からもうじき10分経過するがいまひとつしっくりこないのではな」

魔力を纏わせ危なげなく空中に浮かぶウィルヘルム公の声はあくまで冷静だ。だがその中に潜む闘争心もまた真実。

「ドラゴン相手にほぼ互角に渡り合っておいて欲張りよな、だが空でひけをとるわけにはいかんのだよ」

浮遊するようにゆっくりと飛ぶコバルトがいきなりその後ろ足を蹴った。


竜だけに許された空をまるで地面のように利用した高速移動だ。


まるで空気の壁でも蹴ったかのように瞬時にトップスピードに達したコバルトがウィルヘルム公に迫る。その鋭い牙で一撃加えんと唸りをあげた青竜の襲撃に、天下無双を自他共に認める魔術師ですら反応しきれない。

「もらった!!」

観客席から誰かが叫んだのが聞こえた。


******


普通なら間違いなくすれ違いざまの牙で引き裂き、さらに騎乗している僕の振り下ろした剣もまた当たっていただろう。

それだけの自信が持てる会心の攻撃だった。

だからウィルヘルム公が激突の瞬間、後方へ飛びダメージを最低限に逃したのには本当に驚いた。

確かに僅かにその黄金色の服に傷はついたが期待にはほど遠い。


とはいえ相手との間合いを開ける訳にはいかない。

オートシールドを展開しながらかわしつつ攻撃呪文を放つウィルヘルム公、それをかい潜りながら接近した際に攻撃を試みる僕とコバルトという図式が空中で展開される。

次第に消耗戦となる。

闘気を展開して対魔法防御を行うコバルトも、飛行魔法を駆使しつつオートシールドと攻撃呪文を使うウィルヘルム公も楽では無い。


一進一退の空中戦は派手なブレスや上位ランクの攻撃呪文の応酬こそ無いが、神経がひりひりするような攻防の連続だ。

ハイスピードに三次元の動きが重なり、体力の消耗も激しくなる。

そして急に試合が動いた。


******


地上すれすれの超低空戦に移行し、こちらが攻勢に転じた瞬間だった。また逃げ切りながら呪文で応戦するかと予想していたウィルヘルム公が急に反転しこちらに向かってくる。

「好都合だな」

思いの外、僕は冷静だったと思う。

激突の瞬間に僕とコバルトの二段攻撃を繰り出せばどちらかは当たるはずだ。


だがまたもや予想は裏切られた。

ウィルヘルム公の突進の速度が爆発的に上がり、視界から消える。

(!?)

コバルトも同様だったらしく焦って繰り出した攻撃は空振りに終わり、逆にその右肩に魔法杖の一撃を浴びせられた。

「大丈夫か!?」

「ダメージは大したことないが、、何だ!?身体が動かん!」

飛行姿勢の制御もままならず、そのまま闘場に不時着する。

地面を削りながらかろうじて最低限の着地姿勢を取ろうとするドラゴンだったが、土煙りを巻き起こしながら激突するように落ちた。


異常。コバルトの肩を見る。そこに食いついているのは先端が鈎爪のように変化したウィルヘルム公の魔法杖。それが毒々しい紫色の光を明滅させて青い鱗から離れない。

「杖を媒介とし私の魔力を神経に注ぎ込んだ。ドラゴンといえどそうそう簡単には動けまい」

背後からかかる声に振り向く。

オートシールドを全て解除し、もはや無手となったウィルヘルム公が息を荒く吐きながら立っている。


ここに来てこんな技を隠し持っていたのか。


ギ、ギリリ、、とコバルトが身をよじろうとする。だがまさかの麻痺状態だ。上手く動けずただ首だけを向けるのが精一杯だった。

「・・・そうか、僕とコバルトを分断するためにあんな危険な賭けを」

先の急反転からの急加速、そしてこの杖による麻痺攻撃。

それも全てこの状態を作る為か。


そしてこの離れた間合い、これならウィルヘルム公は楽に攻撃呪文を唱えられる。

「まずはカイト、君から倒させてもらおう。怪我くらいで」

その言葉が終わるのを待たなかった。

最初に比べれば飛躍的に上昇した身体能力を限界まで振り絞り、間合いを一気に詰める。せめて一撃ー!

「遅い」

公が軽く突き出した右手から放たれた短縮詠唱による電撃呪文が僕を射抜く。腹にまともにくらい、呼吸が止まった。 膝が落ちるのを踏み止まり、あと一歩を踏み出して繰り出した斬撃は無様に空を切ったのみ。


「カイト、ここまでよくやった」

肩で息をつく僕の後ろに素早く回りこんだウィルヘルム公が首筋に触れるのが分かった。

反転する暇も無く、鋭い痛みが後頭部を襲う。

自分の口から漏れる絶叫、異常に冷えてもはや痛覚すらも凍らされるかというような感覚から冷気系呪文かと思ったのも一瞬、その場で膝をついた。


(まずい、このままでは)

身体が動かない。腹部の電撃と後頭部への冷気が運動神経を停止させたらしい。まだ体力はあるというのに何ということか。

「ここで降参するか?もう十分だろう」

「嫌です」

きっぱりと断る。不快そうに眉をしかめたウィルヘルム公が問う。


「コバルトも封じられ君も満足に動けない。勝ち目はゼロだ。諦めろ」

そうだ、常識的に考えればね。

「こんな程度で諦めるならそもそも離籍なんか考えませんよ。。それにシャリーもアッシュも全力を尽くした。僕はまだ」

萎える五体を気合いだけで動かした。砂漠で散ったランセルさんの亡くなった時の顔が脳裏に浮かぶ。


まだだ。まだ諦めない。せめてここで一矢を繰り出さないとあのドラグーンには届かない。


「気迫だけでどうにかなるほど甘くはない」

たちあがりかけた僕にウィルヘルム公が囁くように言う。

その右手が僕に向けられる。爆発系の攻撃呪文の明滅する光球が幾つも宙に浮かび上がった。

こちらの攻撃に対する壁であり、同時に僕に止めをさす最後の攻撃。


(万事休すか)

だがここで諦めるというのは無理だ。黙って震える両手で構えた剣と盾を見てウィルヘルム公は説得を諦めたらしい。

一つため息をついて、呪文の最後の詠唱にかかろうとしたその時。


「ドラゴンを舐めるなよ、人間」

闘場に響くコバルトの声。そして動きが固まるウィルヘルム公が視線を左右に走らせる。

彼の周囲をぐるりと覆うスイカ大の白い炎熱球。

オートシールドを解除してまで片やコバルトを麻痺させることに集中し、その一方で僕を相手どっていて

はさすがのウィルヘルム公も気づくのが遅れたな、と考えが至ったのは。


動かぬ身体を無理矢理首だけ捩曲げたコバルトのオートホーミングブレスの弾幕が一気に標的目掛けて殺到した後だった。


オートシールドも無い、魔法杖も剣も無い。あるのはただ身に纏う金剛戦衣<ゴールデンコート>のみ。

それだけで殺到するブレスの連弾に抗えるのはさすがだが、それでも爆発の衝撃と高熱の連鎖がウィルヘルム公を襲う。

「く、、誤算だったか!」

相当のダメージにちがいない。あのウィルヘルム公が顔を歪ませ体勢を崩していた。



「これで、逆転だ!」

連鎖爆発に翻弄されているウィルヘルム公目掛けて必死で駆ける。

盾を捨てた。両手で柄を握った長剣の刃に纏わせる魔法の火炎の赤が眩しい。

左下からかちあげ胴に切り込み、そのまま反転して右から横薙ぎを一閃。

魔法の保護の上からでも体に衝撃を伝えるには十分な重い斬撃。


「うぐおおっ!?」

ウィルヘルム公がのけ反る。かなり追い込んでいるのは明らかだ。

顔から脂汗が落ちている。

だがこちらももう剣を握る手が動かない。互いに追い詰め、追い詰められたこの状況からいち早く攻撃を繰り出したのはぎりぎりのところで踏み止まったウィルヘルム公だった。


最も初歩の攻撃呪文、ファイアボールにアイスブレードを立て続けに唱えてくる。

魔力を相当消耗したせいか常よりかなり威力は落ちているはずだが、それでも今の僕にはきつい。

火炎と氷の刃の二連撃が五体を貫く。痛い。苦痛だ。

だがもっと破壊力があるんじゃないかと覚悟していた割には、そこまでじゃない。


(このチェインメイルが効いてるのか)

足がもう動かない。無理せず動かず、ただ右手だけをかざす。

向こうも全力を使い果たしたのか動けないようだ。

あと、あと一発だけなら。

ウィルヘルム公だってあれだけ呪文の大量消費にコバルトを捕縛する芸当までやっているんだ。

最後に放つ呪文次第なら、倒しきれる!


初級のファイアボールでもない。

広範囲に焼き払うファイアストームでもない。

魔法剣のさらに応用、火炎を一点に集中するイメージで。

「・・・連なる炎、鋭き矢の如し。走れ、ただ我が指先のさす彼方へ向けて。炎の矢雨、サジタリウスフレイム」

詠唱は完成した。


僕の残った魔力全てを消費し想像した赤々と燃える魔法の矢が十本出現した。バババババッとマシンガンのような音を立てて緋の直線を描いてウィルヘルム公の金剛戦衣<ゴールデンコート>に突き刺さる。

「これを、耐え切れば、、私の勝ちだ!!」

避けられず直撃されたにも関わらず、無理矢理残った魔力を防具に伝導してこの火炎の矢雨を凌ごうというのか。


だがそれは予測済みだ。

一本目の矢がかろうじて掲げた右手に弾かれる。

そこに正確に過たず二本目、三本目が飛来しウィルヘルム公の防御をこじ開けた。


(一点集中なら、いける!)

意識がクリアになる。超高速で飛ぶ矢の動きをどうにか意識し、残り七本の矢を一点へ。

ウィルヘルム公の体のど真ん中へと叩きつけた。

ファイアボールのように爆発するわけでは無い。だが貫通力に優れる矢を集中して浴びせたこの瞬間の攻撃力は遂に鉄壁の防御を上回った。


信じられないというように歪むウィルヘルム公の顔。

サジタリウスフレイムの集中打を耐えかね、がくんとその膝が落ちる。

僕の目に映ったのは金剛戦衣の破損箇所から火の粉を上げながら倒れる最強の魔術師の姿。


そしてカウントダウンは10を数えた。


「勝った・・・」

「勝負あり!勝者、カイトとコバルト!」

僕の呟きにバーナム隊長の声が重なった。

静寂を破りとんでもない轟音に沸く闘場に、レーブ医師ら治療班が飛び降り駆け寄ってくる。

それを呆然と見る僕の横にいつの間にか近寄ってきていたコバルトが声をかけてきた。

「やったな、マスター。見事だ」

もう一言すら話す気力も無いまま、目を閉じて頼れる相棒の青い鱗に倒れ込んだ。

心底疲れた。。


(勝ったん、だな。これで、認めてくれるかな)



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