付き合い始めの二人
前がいいと言うパネッタの要望通り、鞍の前の方をパネッタ、後ろの方に僕が座る。コバルトに付けた手綱は僕が持っているのでパネッタを後ろから抱き抱えるような格好に近い。
密着しないように少し体は開けているけど距離の近さに戸惑いそうになる。
それでも案外冷静なのは任務中に危ない場面ではお互い手を貸したりして体に触れる機会があるからだろう。重傷の相手に回復呪文をかける時には素肌に触れながらかけることもある僧侶のパネッタにとっては、ちょっとくらいぶつかるのは意識するようなことでも無いはずだ。
パネッタの肩口からコバルトに号令をかける。
「準備完了、テイクオフスタート」
「了解、マスター」
力強く答えた青い竜はその翼を羽ばたかせて夏の空への飛翔を開始した。
「う、わあ、、」パネッタが感嘆したような息を吐く。コバルトは緩やかに高度を稼ぎつつ、スピードもゆっくりに抑えていた。初めて乗るパネッタを気遣っているらしい。
(ドラゴンたるもの、紳士たれか)
心中感謝しつつ斜め下を見た。西方海岸一帯に広がる丘陵地帯、点在する木々。街道沿いは比較的怪物も少ないため、民家がぽつぽつと建ち牧場や畑もある。
夏を迎えたこの土地は秋の収穫期を前に作物が一番成長している時期なのだろう、緑に力がある。
「上から見るとまた違う感じだね」
同じように景色を見ていたパネッタが言った。声が弾んでいる。
「そうだね。僕も最初はびっくりした。家も人も点みたいだろ」
「うん」
僕達が機嫌が良さそうなのが伝わったのかコバルトもぐるぐると喉を鳴らす。超がつくほどの安定飛行といっていい上下動の無いフライトをスタートからずっと続けてくれているので助かる。
「王都の尖塔から街を見下ろしたことはあるけど、あれよりずっと高いよ。辺りを一望出来るんだね」
「出来るね。しかし初めての割に怖がらないね、大丈夫?」
「そう言われてみれば平気だ。こんなに高い所を飛んでいるのになんでだろう」
僕が改良して鞍に命綱を取り付けそれを二人とも装備してはいるが、安全面確保はそれだけだ。
だけど思い出してみれば僕もコバルトの背に乗って恐怖を感じたことはほとんど無いな。
「落ちないように弱い気流を我の周りに這わせて体が浮くのを抑えているからな。それが効いているのだろう」
「そんな器用な事をしてたのか」
コバルトの説明にびっくりした。しかし確かにそうでもしなければもっと体が揺れるだろう。
コバルト曰く、無理に宙返りでもしなければ大丈夫とのことだった。宙返りするような場面には出くわしたくないな、、
******
一時間ほど空の散歩を堪能した僕達は眼下に少し大きめの街を見つけたので休憩することにした。コバルトが見つかると大騒ぎになるので、街から少し離れた林に着陸し一旦召喚を解く。
「またいつでも呼べ」と言い残した竜は青い光の残像を残して消えた。
林の中から踏みだしながらパネッタの方を向く。疲れた様子も無く元気そうだ。
「楽しかった?」
「勿論!風を切り裂いて飛ぶというのは気持ちいいね。鳥にでもなったようだよ」
ニコニコしている。デートの滑り出しは順調らしい。
「じゃ、あの街でちょっとお茶でもしよう。近くに観光地でもないかなあ」
よっ、と手をとりながら街の方を指差した。そうだね、とパネッタは応じて素直に手を握り返してくれる。
「やー、なんかさ、いちいち躊躇わずに手を握れるのっていいよね」
「分かる。告白される前だとこれって大丈夫なのか?とかいろいろ考えて疲れた」
何ともたわいのない会話だ。でもこれっていいことなんだろうな。
街まではあっさり着いた。ポートセイルよりかなり小さいけどそれでもお茶くらいは飲めるだろう。
手近な茶店を見つけて入り、それぞれ冷たい飲み物を注文した。
「初コバルトおめでとう」
「ありがとう。いい意味で期待を裏切ってくれた」
グラスを合わせて乾杯のまね事をする。気温はだいぶ高くなってきたようだ。氷水にライムっぽい酸味の効いた柑橘系の風味が美味しい。
ふふふ、とパネッタが不意に笑った。悪戯っぽい笑いだ。
「何かついてる?」
「何も。こんな夏休みならもう少し続いてもいいなあ、と思っただけ」
、、かわいいこと言ってくれる。
しかし最初に会った時と全然違うなあ。全く取り付く島も無かったのに。
気恥ずかしくなって僕は横に視線を外した。店には他に一組二人連れの客がいるだけだ。ゆらゆらと天井にはプロペラみたいなファンが回っている。
時間の感覚がおかしくなりそうな緩やかさだった。
「カイトの世界には夏休みはあるのかい」
パネッタが飲み物を横に置いて聞く。
「あるよ。学生の時は40日くらいあるんだ。社会に出たら一週間が精々だけど」
「そんなにあるんだ!いいな、何して過ごすんだ?」
「小さい時はプールで水遊びや友達と虫取りしたり、家族旅行かな。中学ー12歳以上の子が入る学校になると部活動が主」
ん?と首を傾げたパネッタが「ブカツドウって?」と聞いてきた。
「ああ、特定のスポーツや趣味を嗜む集団行動をする団体、、で分かるかな」
「うん、何となく。例えばトマスならロッククライミング部に入ってそれを趣味とする学生と共に楽しむんだね?」
「そんな感じ」
「いいなあ、楽しそうだなあ。私達の世界には学生がそういう団体を作ることは無いからね。そもそも学校に行ける子が限られているから」
「それはそうかもね」
前にパネッタに聞いたことがあった。貧しい村なら口減らしも珍しくないと。寺小屋のように基礎の読み書きを学ぶ小規模な団体はあっても高度な学問を学んだり出来る層は貴族の子弟や裕福な商人の子供に限られ、それだけ学生の数は少ないことになる。
前髪を片手でかきあげながらパネッタがうっすらと目を細める。
「カイトはそのブカツドウは何かしてた?楽しかった?」
その問いは懐かしい暖かさと軽い痛み両方だった。気づかないうちに僕は左膝を撫でていた。
「サッカー部に入ってた。サッカーて分かる?」
まさか分からないだろうと思っていたが、パネッタは「分かるよ」と答えた。
「昔、異世界からやってきた人が伝えたらしい。ボールさえあれば出来るから人気だ」
「あるんだ、、ちょっとやってみてもいいな」
昔のようにボールを扱うのは無理でも体力は今の方があるだろう。
グラウンドを白と黒のボールを追っていた日々が脳裏に甦る。リフティングが何回出来たと喜び、試合に勝った負けたと一喜一憂したあの頃は確かに楽しかった。
ふとパネッタに話してみようかという気になった。時間はたっぷりある。
・・・小学校の頃からサッカーをしていたんだ。漫画の中の主人公みたいにシュートを決めたくて泥だらけになってボールを追いかけて。
最初は下手だったけど練習しているうちに上手くなるのが実感出来るようになると、ますます夢中になった。
夏休みなんか朝から晩まで友達とボールを追っていたよ。
中学生になってからはサッカーで学校を決められるほど上手くは無かったけど地元ではちょっとしたうまい奴として名が知れるようになった。
県大会で最後の大会はベスト4まで進んだ。
高校に入ってからも当然のようにサッカー部だった。プロになるとかは夢のまた夢だったけど、ボールを追っている時はとにかく充実していたな・・・
僕は軽く目を閉じる。瞼の奥には17歳の自分がいた。レギュラーの背番号、7番をもらい目を輝かせた自分の顔は今より若々しくまだ社会に出る前のみずみずしい青臭さがあった。
「でもその時が僕の部活動の頂点だったんだ」
パネッタは真剣に聞いてくれている。天井のファンの回転だけが緩やかに時間の流れを告げる。
「何故?レギュラーってつまりは試合に出る選手だろう。それならそこからが楽しいんじゃないの?」
「そう。その通り。でもね、僕は結局試合には出られ無かった」
また左膝を撫でた。今は全く問題無いけど、あの時は。
「左膝を故障したんだ。練習のし過ぎで膝の腱を擦り減らしていた。痛みは感じていたけど練習から外れたら二度とレギュラーじゃなくなると思うと言い出せなかった」
よくある話だ。もうこれ以上は無理だと感じた時には僕の左膝は手遅れの段階まで痛んでいた。
結局僕は7番の背番号に袖を通すことは一度も無く高校サッカーを終えた。
もし仮に膝が大丈夫だったとしてもインターハイには手が届かなかったとは思うが、やはり悔いは残る。
「それ以来本気のサッカーはやってないんだ。遊びでたまに蹴ることはあってもね」
「そうだったんだ、、何だか悪いことを聞いちゃったのかな」
パネッタは少し気まずそうな顔だ。どちらかというとこんな楽しくもない話をしたこちらに責任があるのに。
「君は悪くないよ。それに故障が無くてもどのみちプロ選手にはなれなかっただろう。僕の将来はそんなに変わらなかったと思う」
「将来が全てじゃない」
僕の言葉に潜む嘘を感じたのだろうか。パネッタの言葉は真剣だった。
「ブカツドウでレギュラーを取るのがどれだけ大変かは私は知らないが、少なくともカイトはその時努力したのは確かだ。その努力を発揮する機会が怪我で失われたのはやっぱり聞いていて残念だよ」
「。。そうだね、自分でもやっぱりそう思う」
分かっている。プロになるには足りない能力とはいえ自分で掴んだあの背番号を着てピッチに立つ瞬間を一度でも味わいたかった。
夢というほど大袈裟では無かったにせよ、小学校の頃からボールを蹴っていたサッカー小僧のひとつの目標はそれが叶う寸前で崩壊した。
「サッカー、王都でもやってるよ。一緒に見に行ってみよう。嫌じゃなければだけど」
「ありがとう。もし試合があれば見てみたいな」
これは嘘じゃない。自分ではやらなくなった分、試合はよく見るようになった。スタジアムに足を運んだことも何回かある。
(サッカーボール買ってみようかな)
それもありかもしれない。リフティングくらいならまだ出来るだろう。
******
「しかし暑いね、今日は。気力まで削られそうだよ」
話し終わった後、僕はうーんと伸びをした。まだ午前中、しかも屋内なのに汗がにじみ始めている。
「この夏一番の暑さかもしれないね。無理に動くことないよ。。とはいえずっとここで粘るわけにもいかないな」
少し考えるように頭上を仰いだパネッタだったが何か思いついたようだ。
「避暑眠でもする?多分この街にもあるだろうし」
「避暑眠?」
「うん、夏のだらだらした暑さを避けたい人にはうってつけだよ。行こう」
そう言ってパネッタは席を立つ。僕もそれに従った。
「これがそう?」
街の大通りから一本曲がった小路は陰がさしている。太陽とベッドが重なる何とも不思議な絵柄の看板の前で足を止めたパネッタに聞いてみた。日差しは益々強くなっている。
「そう、これ。多分カイトがいた世界にも似たような店あるんじゃないかな」
そう言いながらパネッタはさっさと店に入った。日陰のせいもあって少々いかがわしい感じがしなくも無い。
「カイト。最初に言っておくけど」
「はい」思わず背筋が伸びた。
「ここ、至って健全な店だから。いやらしいことするところじゃないからね?勘違いしないで」
パネッタが奥に向かいながらこちらを振り向いている。
「そんなこと、、ごめん、ちょっとだけ考えた」
ごまかしきれず正直に言うと「あぁ、、やっぱり男だね」と笑って見逃してくれたけど、一瞬沈黙したのが怖かった。
細い通路を少し歩くと店番がいた。狭いカウンターの上には店の料金表がかかっており何種類かのコースがあるようだ。
「二人部屋、2時間で」
「はい、お二人で100ゴールドになります」
とりあえず分からないのでパネッタに任せる。パネッタが財布から銀貨一枚を出すと店番は「こちらです」と店の奥へ案内してくれた。
避暑眠という名の通り、店の中は日なたよりかなり涼しい。
部屋の壁に何か断熱材でも入れているのだろうか。
通路の両面が個々の部屋のようだ。扉の代わりに天井から布が垂れ下がっている。壁の代わりに簾のような木製の細い鎖が連なり、部屋と部屋の間を隔てていた。
何人か先客がいるようだ。部屋の中から僅かに寝息が漏れてくる。
「こちらです、それでは二時間後に」
そう言って店番が帰っていく。僕とパネッタは布を払って部屋の中に入った。
(なるほど、確かに避暑眠にしか使えないな)
六畳程の部屋にぽんと二人分の寝床が置かれている。部屋の天井の一部がくり抜かれ、太陽光が部屋の薄暗さを緩和していた。木の簾がシャラシャラと鳴る単調な音が眠気を誘う。
パネッタが小声で囁く。
「皆寝てるから静かに。涼しいのは部屋の直下に井戸水をひいているからだよ。じゃ、おやすみ」
そう言ってさっさと片方の寝床に寝そべった。寝にくいのかポニーテールのリボンをほどくと、肩までその赤茶色の髪がかかる。
僕もそれに倣った。物は試しだ。
確かにシーツの下から冷たい空気が当たる。ほてった体には優しい冷たさだ。
(エアコン無しでもこれなら寝やすいな)
シーツの上に寝そべった。向かいのパネッタはもう寝てしまったようだ。スースーと規則正しい寝息が聞こえてくる。
(いかがわしいことするように見えたんだろうなあ)
さっきの言葉を思い出した。別に怒ってはいなかったけど、そういう面についてどうしたらいいのだろう。
付き合っていく段階でキスがあり、それ以上に相手を求めるようになるのは普通だし、そうしたい。
でもパネッタは多分男性と付き合うのは始めてだろうから、ちゃんと段階踏まないと反応が怖い。
シーツに寝そべる無防備な寝顔。長い睫毛と桜色の唇。シャツの胸の辺りの膨らみをまじまじと見てしまい、慌てて目を逸らした。
(ダメだろ、目閉じよう。まともに見てたらやばい)
悲しい男の性だな、と思ったけど、綺麗な寝顔を見ることが出来ただけでも幸せだ。ゆっくりひんやりとした空気の中で目を閉じると僕は程なく眠りの淵に落ちていった。
「・・イト。カイト、時間だよ。起きて」
ん、と声を上げて目を擦る。横からパネッタが肩を揺らしていた。
「二時間経った?」
「うん。よく眠れた?」
立ち上がり靴を履きながら体の調子を確認する。ずいぶんすっきりした感じだ。
「熟睡してたみたいだ。体が軽い」
「ああ、全然起きなかったね。疲れてたんだろう」
そう言いながら僕達は店から出た。店番のまたご贔屓にという声を背中に受けて外に出ると、日差しが幾分弱くなっている。
いつの間にか空には灰色の雲が立ち込めてきていた。大きな積乱雲だ。
「雨になるかもしれないな」
僕がぽそりと呟くとパネッタが頷く。
まだ若干曇った程度だが天気の先行きは怪しい。
雨が降ればコバルトで飛ぶのはちょっと危ないだろう。雨だけならなんということも無いが、もし雷雨になればコバルトはともかく僕らはまずい。
安全を期してポートセイルに帰ることにした。
コバルトは「もう戻るのか?」と不思議そうだったが天気を見ると納得したようだ。
「せっかくだから少し飛ばす」という彼に全面的に任せて僕とパネッタはただ鞍をしっかり掴むだけだった。
「速いね、、!どんどん草原が後ろに消えていく!」
ギュンと風を唸らせ飛ぶコバルトに掴まりパネッタが叫ぶ。怖いというよりは楽しいようだ。
どちらかというと僕の方がヒヤヒヤしている。
「う、、わあっ!大丈夫なのか、コバルト!?」
「マスター、戦場ではもっと速いだろう。全面的に大丈夫だ、心配無用」
「そりゃあそうだけどさ、、!」
確かにコバルトの言う通りなのだが普段のフライトに比べると荒っぽい。パネッタが楽しんでいるのでサービス精神発揮といったところか。時々ひらりと右に左に向きを変えるのもスピード感に拍車をかける。
「楽しいなー、凄いな、コバルトは!」
キャッキャッと手を叩かんばかりのパネッタに比べると僕の方が必死だ。手綱を握った時にバランスを崩して前に座るパネッタに抱き着くような格好になってしまった。
右手に何やら柔らかい感触がシャツの生地を通して伝わってきた。これ、、まさか。
(結構あるなあ)と思ったのも束の間、パネッタの絶叫が響き渡る。
「キャアアア!もう、カイトの馬鹿!エッチ!」
「ご、ごめん、でも誤解だよ!体勢崩してつい!けしてわざとじゃなくて!」
「でも今、むぎゅって触ったじゃないか!ちょっと触っただけじゃなくて!」
全面的にこちらが悪いので謝るしかない。コバルトも「マスターひどいな。こんなに安全に飛んでいるのにわざとらしい、、」などとため息をついている。
もとはといえばお前がスピード出すからだろ、と言いたかったけど幸せな経験が出来たから流すことにした。パネッタからは「あれ奢ってくれたら許してもいい」と言われ、小さな搭のようなシャーベットを買わされてしまったが食べているうちに機嫌も治ってきたし、まあいいか。。
******
(パネッタ・ライトニッツの手記)
ごめんね、とまだカイトが謝ってくる。とりあえずあれは事故だと私も分かっているのでこれ以上どうこう言うつもりは無い。
無いのだが、気分は良くない。カイトが悪いわけじゃなく、、いや、まあ多少は関係あるのだが、多分彼が考えているのとは違う理由でだ。
小雨が降り始めたのでポートセイルの街の手頃な店に入った。やや遅い昼食時だ。
何となく二人の雰囲気が気まずいのは仕方ないのだが、カイトもあれだけ謝ったのだから私から譲歩することにした。
「カイト、あれは事故だと分かっているからそれについてはもういいよ。君がわざと女の体を触るような人じゃないのは知っている」
それを聞いてカイトはすまなそうな顔を少し緩めた。この人は基本的には誠実だ。男性だから多少色事に欲があるのはむしろ健全だろう。
「ありがとう、でもパネッタ、まだ機嫌悪そうな顔してるよ」
やはり説明が必要みたいだ。私は右手で額を抑えて話し始めた。
「機嫌が悪いのは君に触られたからじゃない。いや、あの直後は怒ったけど今は落ち着いている。
ただ、事故だったとはいえああいうことは段階を踏んでカイトと接したかったよ」
「つまり?」
あー、絶対分かっててカイト聞いてきてる。何でこんな男好きになったんだろう。表情は平静だけどちょっと口元が笑いそうなのがしゃくに触るじゃないか。
自分の頬が怒りなのか笑いなのか分からない感情でぴくぴくするのを感じる。
「つまり、ああいうことって抱きしめたりキスの後に自然とそうなるものじゃないかって言いたいだけ!君とは付き合ってるんだ、別にああいう形じゃなきゃそこまで怒るもんか!」
思わず語調が強くなった。そうだったのかなんてカイトは言ってるけど、絶対お見通しなんだろう。その目が優しい。私の好きなカイトの目だ。
あーもう、なんでこんな時にそんな目なんだ。怒れないじゃないか。
「じゃ、今ここでキスしたらもう怒らない?」
カイトが微笑する。端正な顔に悪戯な笑みを浮かべてとんでもない冗談を投げつけてきた。
心臓に悪い。カッと自分の顔が熱くなるのが分かる。
「そんななし崩し的になんて嫌だよ、これでも女の子だ」
わざとぷいと私は横を向いた。絶対この人もてるんだろうなあ。こんな台詞サラっと言えるんだから。
しかし(それでも許しちゃってもいいかな)とちらりと考えてしまい、あたふたとそれを心の底にほうり込む。
全く、、私の王子様はとんでもなく優しくて悪戯好きで魅力的だ。
男女交際初心者には色んな意味で刺激的過ぎるよ。
カイトがわざとだったのかわざとじゃなかったのかでだいぶ彼への評価が変わりますね。




