魔法学校にて シャリー・マクレーンの手記
(ここに来るのって卒業以来か。変わってないわね)
小雨が朝から降りしきるうっとうしい天気の中、私、シャリー・マクレーンはかっての若かりし10代の四年間を過ごした魔法学校の門をくぐった。大きな古めかしい鉄の門扉もその横のモミの木も私が卒業した時ー16歳の春から変わっていないように見える。
近づく私に誰何の声をかける門番に「本日こちらの生徒の方々に出張講義を行いますシャリーと申します。開けていただけますか?」と答えると失礼しました、というキビキビした返答と共に門が開いた。
軽く頭を下げて学校の敷地に入る。土をベースに飛び石が埋め込まれた歩道に朝からの雨で小さな水溜まりが出来ていた。
(完全に石畳にしないのはどうしてかしら、って学生だった時も思ったわね)
費用の問題では無く、自然は極力残した方がより学ぶには適した環境になる、というのが学校側の答えだった。靴が汚れやすいのでその頃は不満だったが、こうして大人になってから来てみるとそれもまた良しかな、と頷ける。
芝生と木々が敷地内に適度に配置されたこの学校の雰囲気を私は好きだ。
「嫌な雨ですね」
連れて来た助手の呟きに私は笑って返す。
「そうね。でも学生が集中するから教える側としては助かるわ。晴れていたら皆終わった後で遊ぶことしか頭に無いんだから」
「魔法学校の生徒でもそんなものですか?」
「ええ、私もそうだったもの。普通の子供と一緒よ。学ぶ教科が違うだけ」
そう言いながら目指す学舎へと歩く。
門番に告げた通り、今日の第一限にかっての卒業生として是非講義をお願いしたい、とリー・フェイレン師父にこの魔法学校の校長が依頼してきたのだ。
時折こういう出張講義はあるので私の上司は二つ返事で引き受け、今日私はここにいるという次第。
覚えのある白髪頭の校長は「基礎の基礎のおさらいとシャリー師父の魔術師とは、魔法とは何かについての考えを教えてあげて欲しい」と頭を下げてきた。
「師父という呼び方は恥ずかしいから止めて下さい」とお願いはしたものの、講義内容としては普通だ。後半の私の考えというのがやや難しいというか哲学的だが、何とか話せるだろう。
「魔法って何だと思う?」
「え、私に振りますか、その質問。。そうですね、魔力を消費、変形して様々な現象を生み出す行為、、ですかね」
私の質問に助手が答える。そうだ、やや簡略化してはいるが直接的にはその答以外に有り得ない。
だが魔法を学び始めたばかりの生徒に伝えるならば、もう少し何か捻って伝えておきたい気もする。
「そうね、それが正解だわ。でも、生徒にはもう少しかみ砕いて伝えようと思う」
教科書では伝わらない事も含めて講義だ。
それを念頭に置いて講義をしようと決め、かっての学舎の扉を叩いた。
雨はまだ降り続いている。
******
いつもの黒いローブ姿、額の銀の鎖、肌身離さない杖。左の中指にはちょっとしたアクセントとしてカイトの初外出記念の紫の石のついた指輪をはめる。
生徒相手なら堅実な格好が一番だ。化粧も必要最低限にする。
(そういえばカイト、まだ帰ってきてないのかしら?)
あのドラゴンを操る友人はふい、と任務に赴き最近姿を見せない。機密情報が関わる任務の場合、どこに行くかは告げてはいけないという規則があるため不自然では無いものの、ちょっと気になる。
ラーク君も不在だ。私の家の郵便受けに「秘密の任務でちょっと抜けます」とだけメモが届けられていたのが一週間程前になる。
こちらはこちらで気になるけれど、無事を祈るしかない。
「準備出来ました」
私が声をかけると教師の一人がこちらへ、と案内してくれた。
教壇の袖から小さな段を上がり教壇に立つ。
緩やかなすり鉢状になった教室には60人程の生徒がいた。今日は初歩的なことの講義なので皆まだ入って間もないようだ。必然的に若い。12歳か13歳くらい。
「起立!」
ピシリッと音がしそうな厳しさで教師の声が飛ぶ。さっと全生徒が机から立った。
「今日は王宮から我が校の卒業生にして宮廷魔術師第三位に就くシャリー・マクレーンさんにお越し頂いた。貴重な機会だ、拝聴し今後の糧とするように」
「はい。では全員礼、おはようございます、本日はよろしくお願いします」
教師の後に級長らしき生徒が全員に号令をかけた。皆が頭を下げながらおはようございます、と気持ちのいい挨拶をするので私も同じように返す。
「シャリー・マクレーンです。本日は特別講義とのことでお招きにあずかりました。どうぞよろしく。あ、座ってもいいですよ」
まだ全員立ったままなので着席させた。この人数くらいなら声も無理なく最後尾まで届くだろう。
全員の顔をさっと見渡す。話は始めが肝心だ。緊張しているようなのでそれを解きほぐしながら話そう。
「教科書は無い講義なので、話の内容はノートにとってください。適宜板書しますから。
では始めましょうか。えーと、そこの貴方、そう二列目右から三番目の。お名前教えてくれるかな?」
私が声をかけた生徒はびっくりしたような顔をしたが、行儀よく立つと「ゴードンといいます」と答えた。
「ゴードン君ね。一つ質問するわね。貴方は魔法を使えるようになったら何がしたいかな?」
「えーと、炎を出したり雷を出したりしてみたいです」
うん、まあ予想通りだ。
「そうね、入学したての時は私もそうだったわ。やっぱり格好いいもんね」
そう言ってニコリと笑う。ちょっと照れたような顔をしてゴードン君は「はい」と答えてくれた。少し教室の雰囲気が和らいだのを感じる。
同じように他に二人選んで聞いてみた。ゴードン君と同じような答えが返ってきたところで、席に座るよう促す。
「はい、ありがとう。そう、魔法というのは道具を使わずに火や雷、氷といった現象を生み出せます。
今から私が話すのはそれがどうやって可能になるのか、魔法とはどのような種類があるのかについてになります。
まず基本として、魔力という力があります。これは一人一人が持っている魔法を使う為の力です。
個人個人によって持っている量は異なりますが、基本的には皆が持っているものです。魔法を使う為の目に見えない血液が体を流れている、と考えてね」
仮にも魔法学校の生徒なら初日に習うような事だが、後の説明を楽にするためあえて基礎の基礎からだ。
「この魔力をそのまま使おうとしても何にもなりません。なぜならそれはそのままでは現実の世界に直接の影響を与えない形でしか私達は持っていないからです。
これを現実に影響を与える形に直す、あるいは修正するのが呪文の詠唱にあたります」
これこそが魔術師や僧侶のポイントだ。
私は黒板にチョークを走らせた。
魔力→呪文の詠唱→魔法として現実化、と文字を書く。
「ここまではいい?つまり呪文の詠唱は魔力を魔法に変換する為の触媒なの。この触媒の種類を変えると魔力が現実化する形が変わるわけ。
だから魔法の数だけ呪文があり、魔術師はその呪文を覚えて臨機応変に使い分ける必要があります」
ここで一息つく。生徒はウンウンと頷いており、大丈夫そうだ。
「呪文の詠唱と言っても、ただ唱えれば魔法が発生する訳ではありません。まず魔術師に十分な魔力の余裕があること。次に正確に現実化させたい魔法の効果をイメージすること。この二つが揃って始めて魔力を消費して魔法を使う事が出来ます」
ここまでは基礎の基礎。
本当に実際に魔法を使う上で重要なのはこれから説明するところだ。
「さて、呪文の詠唱は触媒だと先程私は言いました。これについてもう少し説明します。
魔法を使うというのは非常にデリケートな行為なので、呪文を唱えるというのは術者が精神を集中する意味も含みます。高度な呪文であればあるほど詠唱時間が長くなるのは、より触媒の構成が複雑化するためと術者の精神集中を高い段階で必要になるためという二つの理由からです」
黒板にこの二点を書く。さあ、ここからよ、生徒諸君。
「しかし熟達した術者の中にはこの呪文の詠唱を短縮、あるいは高速化して唱える事が出来る人がいます。
例えば初歩の魔法を熟達した魔術師が使う場合、精神への負担が軽く、また何度も使っていればどのような効果が生まれるかは自然に深くイメージ出来ます。このような場合は詠唱を短くしたり場合によっては魔法の効果を強烈にイメージすることにより詠唱自体を省略することが可能です」
いわば自分の熟練度を詠唱の代わりに触媒とする訳だ。私も初歩の呪文ならばしばしば使う。
生徒達の表情がおお、とでも言いたげに少し変わった。そうこなくっちゃね。
気をよくした私は実際に実演してみることにした。
「口で言うより実際に見た方が早いわよね。ごめんなさい、そこの列の生徒の人はこっちによってくれる?そう、教室の入り口の方に」
「シャリーさん、まさか教室の中で攻撃呪文を唱える気ですか」
教師が慌てた。まあそれが普通の反応。でも大丈夫。
「ご心配無く。壁に当たる前に消しますわ。ちょっとした実験と思ってくださいな」
にっこりと笑いながら私は教師を宥めた。伊達に宮廷魔術師第三位じゃないのよね、こっちも。
渋々と言った感じで教師が下がる。生徒達は好奇心いっぱいという表情を隠さない。
「轟け電撃の矢、我が指の方向へ飛べ。サンダーボルト」
私はことさらゆっくりと呪文を唱えた。極小に止めた青白い電撃の矢が宙を飛び、壁に焦げを作る前に消える。そのように威力を調節したのだから当然だが上手くいった。
「今のが普通に唱えた場合。次にするのが短縮した詠唱でサンダーボルトを使う場合よ。よく見てて」
軽く精神を集中する。
すっ、と指先を差し出して私は電撃の矢をイメージした。
「電撃、サンダーボルト」
たった一言のワードで見事に魔法は成功した。同じように壁に当たる直前で電撃の矢が消える。
わー、すごい!カッコイイ!という声が生徒達から響く。目がキラキラしていて可愛らしい。
ふふ、ちょっと嬉しい。
「こんな感じ。高速詠唱の場合はイメージを強く持つのは難しいけど、精神集中を短時間で行える意志の強い人に向いています。魔法の発動までかかる時間が短いという点では効果は変わりません」
そう言って私は生徒達を元の席に戻した。ここからは魔法の体系についてを話そう。
短縮詠唱による私の魔法を見てざわめいていた生徒達が静けさを取り戻す。
講義の続きだ。
「次に魔力の高低と魔法の体系についてお話しします。
まず漠然と使われる魔力が低い、あるいは高いという言葉は二つの意味があります。
一つ、魔力の容量が小さいか大きいか。これは魔法を使う回数に影響します。また高度な魔法を覚えても魔力の容量が小さければ使えません。
二つ、魔法の習熟度あるいは理解が低いか高いか。これは覚える魔法の種類や数に影響します。より呪文の詠唱の意味や理屈を理解し、魔法の使い方や魔力の流れを経験すると習熟度が上がりより高度な魔法が使えるようになりますね。
大事なのはバランス。
魔力の容量だけ増やしても初歩魔法しか使えないし、魔法の習熟や理解だけが高まって高度な魔法を覚えても魔力の容量が少なければ使えません。最初は容量を増やす方がお勧めよ。なぜなら使える回数が増えればより実際に使って慣れることが出来るから、結果習熟しやすくなるし詠唱の論理も理解しやすくなるから。容量を増やすには地味だけど魔法を使う回数を重ねるか、魔術師として訓練や戦闘を繰り返してレベルを上げていくことが一番。急かば回れね」
もっともカイトのように理解が早すぎるため容量不足気味なのに新しい呪文を覚えてしまう者もいる。
最近ましになってきたらしいが心配だ。
ここまでは順調だ。
「では魔法の体系についてです。
大まかに分けると魔法は魔術師が覚える魔法と僧侶が覚える魔法に大別出来ます」
ここで二股の木のような絵を黒板に書く。右が魔術師の魔法、左が僧侶の魔法だ。
「魔術師系にある魔法は攻撃呪文、補助呪文が中心ね。攻撃呪文は炎、氷、爆発、電撃、風の五つに系統区別され本人の好みや相性によって何を得意とするかが決まるの。どの系統を伸ばしていけばいいかは良く考えてね」
ここで五つの系統を黒板に書いた。
生徒の一人から質問があがる。
「この五つのうち、例えば炎と風を組み合わせて使うことは出来ないのですか?」
なかなかいい質問だ。
「いい発想ね。実際それを試みた人はたくさんいます。呪文の詠唱を工夫すれば両方の系統を同時発動できる、理論上は。
でも実際使うとなると問題点が多くて見送られています。
まず異なる系統の呪文は発生する対象が異なる為、お互いに影響しあって魔力の消耗が過大になってしまうこと。
詠唱自体が長文化してしまうので時間がかかること。
これらの問題点からほとんど使われていないのが実情です」
私も試したことがあるが初歩同士の呪文を組み合わせて唱えただけで、ずいぶん時間を使い魔力を消費した。
これなら一系統に絞って二回唱えた方が断然効率的だとその時思った。
ちょっと残念そうな顔をしてその生徒が着席する。別の生徒から「たくさんの系統が使えた方がいいですか?」と質問が上がる。
「一概には言えませんが、初歩呪文程度はどの系統も使えた方がいいですね。呪文の詠唱に組み込まれる式の理解を深める為にもいいし、怪物によっては特定の系統が弱点の物もいますから。
でも自分の得意な系統が分かってきたらそれに集中して伸ばした方が効率的です。私の場合は電撃と氷が得意、他は普通程度にしか使えないわ」
生徒が納得したように頷く。
「では補助呪文についてです。直接攻撃には関係ないので軽視されがちですが、実はこの補助呪文の使い方で魔術師のセンスが問われます。
例えば狭い洞窟で攻撃呪文を使うと天井が崩れそうだ、という場合に補助呪文の武器魔力付与が使えれば味方の戦士の攻撃力を上げて有利に戦えます。
戦闘以外の場面でも浮遊で足場の悪い沼を回避したり、遠距離通信で遠くにいる仲間と連絡をとったりといろいろな役に立つ呪文があるわ。
余裕のあるパーティーなら戦いは戦士や騎士に任せて、魔術師はそれ以外の場面に備えて魔力温存ということも出来るしね」
私は補助呪文と板書してそこに二重丸をつけた。
実際、いかに強力な攻撃呪文が使えても相手と乱戦になり味方を巻き込みそうになればその使用は躊躇われる。
そういった際に味方の戦士の剣にエンチャントウェポンで魔力を付けたり、倒れられては困る僧侶にシャドウで身代わりになる影分身を付けてあげたりすればぐっと楽に戦える。
そろそろ講義も終盤だ。
黒板の僧侶系魔法の文字を指さす。生徒の目が真剣になっているのが分かる。
「この学校に来ている生徒の皆さんはこの僧侶系魔法はここで学ぶ機会は無いですが、魔術師系の魔法と何が違うのかについてお話します。
僧侶系魔法の中心は怪我を治したり、解毒をしたりといった回復呪文です。これらの他に防御力を高めたり、まれに攻撃呪文があります。
魔術師系の魔法と同じように僧侶系魔法も魔力を呪文詠唱を触媒とし、魔力を生み出したい対象に変える点は同じです。
ただ異なる点は呪文の詠唱自体が神様への祈りも兼ねており、詠唱に組み込まれなければならないワードが魔術師系魔法とは根本的に違う点です。
この理由により、魔術師系魔法と僧侶系魔法の同時習得は極めて困難とされています。 一方を学べば学ぶほど、それと異なる概念で組まれた呪文を覚えて効果をイメージするのが難しくなるからね。
僧侶系魔法にも聖なる鉄槌や戦乙女の槍という攻撃呪文が存在しますが僧侶は回復に専念、攻撃呪文は魔術師が担当が普通です。魔術師の攻撃呪文の方が長年研究されてきたから魔力の消費量に対して威力が高いし、種類も多い。
それに僧侶が攻撃呪文を使いまくるといざという時に誰も回復呪文が使えずピンチに陥りやすいからです」
ちょっと一息いれる。窓の外を見ると雨足が強くなっている。少し風も出てきたようだ。帰りが憂鬱だが馬車で送ってもらえるということを思い出した。
一旦休憩にしよう。教師に合図してその旨を伝えて私は教壇から降りた。
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(人前で話すのって疲れるなあ)
学校が用意してくれたお茶を飲みながら私は校舎をつなぐ渡り廊下に出た。10分の休み時間に出来ることなんてそれくらいだ。
こうして学校に来てみるとあの頃に戻ったような錯覚を覚える。楽しかりし学生生活。
まだ20歳、もう20歳か。今日教えている生徒達から見たら私はずいぶん大人に見えるのだろう。まあ、自立しているという意味ではそう言えるとは思う。
(でも中身そんなに変わらないんだよね)
すれ違う時にお辞儀していく生徒に手を振りながらふと思う。
ほんとの意味で大人になったと自覚出来る日は来るのだろうか?
そろそろ時間だ。教室に戻ろう。
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「全員いる?ではここからは私の魔法や魔術師という職業についての考えを話すことにします。そのあとは質疑応答でおしまい」
ふーっと息を吐く。ここからは講義では無い。シャリー・マクレーンという人間の考えが試される時間だ。
「魔法を習う。それにより自分が立派な人間になれる、と考えるのは間違いだと最初に言っておきます。
確かに高度な魔法を覚えれば出来ることは広がります。パーティーの強大な戦力となり極めればオーガやギガンテスといった強力な怪物でも倒す攻撃呪文を使えるようになる。
でも魔法を覚えるというのはそれだけ世の中の理を自分の物に出来る、という錯覚を覚えやすいことなんです。自分の魔力を高め、より高度な呪文を志すことだけに溺れ破滅していった魔術師は残念ながら少なくないわ。
間違えないでね。魔術師としての貴方以前に人間としての貴方がいるということ。何の為に魔法学校に入学し、魔術師を志したのか。
誰か大切な人の為に魔法を習いたい、軍に入って国に貢献したい。
それぞれ色んな理由があってここにいると思うの。ここを卒業しても最初に抱いた魔術師になりたいという理由だけは忘れずに、間違った方向にそれを使わず精進する。
魔法は極端にいえば技術みたいなものだからその技術を正しく使う。
それが私が宮廷魔術師として生きていく上でいつも心に刻んでいることです」
しん、と静かな雰囲気が教室を満たす。まずい、あまりにもシリアス過ぎたかなと後悔したけどそれは無用だった。
「正しく使うっていうことを常に心に刻むというのは何だか難しそうなんですが、どうやってそれをされているのですか」
生徒の一人から質問が飛ぶ。
「難しいかな?コツは簡単。私の場合は親や友達が笑顔でいてくれるならいいなあ、て時々意識すること。幸せなら人間てあんまり道を外れないものよ。精々校則で禁止されている夜更かしや授業中に手紙回し読みするくらい」
「シャリー先生、、」
教師が呆れたような顔をするが気にしない。
「それくらいは年頃の子ならするわよ?私もご多分に漏れずやったしね」
それで雰囲気が緩くなった。なし崩し的に質疑応答の時間になる。
別に固いことだけじゃなく、プライベートなことでもいいわよと言ったことに皆食いついてきた。一旦打ち解けたら何でも聞いてくる感じ。
「シャリー先生みたいに綺麗になるにはどうしたらいいですか!?」これは女の子。いい子だ。
「ありがとう(笑) 化粧控えめと睡眠時間ね。あと適度な恋愛」
「付き合ってらっしゃる方いますか?」これは男の子。年頃だな。
「いるようないないような感じです、好きな人はいます」
「初恋はいつでしたか?ファーストキスは?」女の子からだ。キャーと周囲の生徒が沸く。教師も諦めたのか黙ったままだ。
まあこれくらいは答えてあげよう。
「初恋は13歳だったかな。キスは15歳、それ以上のことについては黙秘権行使ね」
男子生徒よ、残念だが君らの性的好奇心を刺激するようなことまでは恥ずかしくて言えないの。期待していたらごめんね。
15歳というのを聞いて生徒達が何やら顔を見合わせる。
一人が「それってこの魔法学校在学中にてことですか?」と聞いてきた。
「はい。誰と、というのは秘密」
唇に人差し指を当てて秘密のジェスチャーをするとざわざわと生徒達がざわめいた。
そうね、一応校則で学内での恋愛禁止してはいないけど、おおっぴらに出来る雰囲気じゃないもんね。
お年頃なのだ、甘酸っぱい思い出を作る子もいるだろうしそれもまた人生経験よ。私はそのキスの相手とは結局うまくいかなかったけどね!




