本当の戦い 3
僕はそもそもドラゴンがどういう攻撃を行えるのか知らない。
ただ、ゲームや漫画の中では火や雷を吐くのは見たことがある。しかし実際にこうして目の当たりにするとその迫力に圧倒されるばかりだ。
(色が赤じゃなく白だった。もし地球と同じ色温度なら約6,000度の超高熱ということか)
通常、炎は赤いものだと僕らは考えている。それは日常的に目にする炎がほぼ間違いなく赤い色をしているからだ。
だけど実際には違う。炎はその温度によって色を変える。そして見た目とは裏腹に暖色系の色より寒色系の方が温度が高い。
炎の色が赤なら約1,800度。黄色なら約4,000度前後。白なら5,000度から8,000度前後。そしてこれが青にまで達すると約16,000度という高温に達したはずだ。
昔、理科の授業で教師に習ったことを思い出しながらそれが意味することに慄然とした。
通常よく見る赤色の火炎でも大概の生物や鉱物は溶ける。それならばその温度の3倍以上の高温で叩きつけられた今の白色のブレスはまさに地獄への片道切符だ。
あれをまともに受けて生きている生物などこの世に存在するはずがない。骨まで一瞬にして溶けているだろう。
羽ばたく竜の背中から見下ろしながら僕はそう考えた。だからもうもうと立ち込める煙の中からゆっくりと立ち上がった巨猿の姿を見た瞬間、心底ぞっとした。
「馬鹿な!?あの火炎を浴びてまだ立ち上がる生き物がいるのか!」
確かに重傷は負っている。全身を包んだ剛毛はほとんどに焼け焦げが出来ており、あちこちに重度の火傷が出来ている。火炎が高速で叩きつけられた結果、皮膚を切り裂かれたのかずたずたにされた箇所からは血が吹き出てもいる。
だがまだ憎悪のこもったその三つの目はこちらを見上げ、ぎらぎらと睨んでいた。
「しぶといな。まあいい、我にまかせよ」僕を乗せたドラゴンもドゥドァを見下ろした。だがこちらにはまったく恐れは無いようだ。呟くなりその青い巨体を一度しならせたかと思うと一気に急降下する。
その背に僕がいるにも関わらず。
「う、うわああああ!」「黙って首につかまっていよ」
情けない悲鳴を上げる僕に注意してそのままドラゴンは降下の勢いを殺さぬまま、後ろ足でドゥドァに蹴りを繰り出した。
その強靭な筋力で繰り出されたスピードと重さののった蹴りに足の爪の破壊力がプラスされた一撃はブロックしようとしたドゥドァの腕を難なく切り裂き、そのまま喉へと突き刺さった。
「グゥエェエエッ!」
耳をふさぎたくなるドゥドァの叫び声、だがドラゴンの次の追撃がそれを遮った。
一度その首がしなったかと思うと大きく開いた口が巨猿ののけぞった喉目掛けて唸った。上下の顎に鋭く生えた牙がドゥドァの喉を食い破り、太い血管を嚙み破る。
気管を切断したのだろうか、これほどのダメージを受けたのにドゥドァは声すら出さなかった。ただヒューヒューと空気が漏れるような音が喉から聞こえてくる。
ドラゴンはそのまま相手の首をねじ切るような形にぎり、と己の首を捻る。その動きに合わせてドゥドァの巨体が力を失ってゆっくりと地面に倒れた。もうその目には光が無い。どくどくと喉と全身の傷から血を流し、ぼろぼろに焦げた剛毛から焦げ臭い白煙の名残を漂わせて死んでいた。
「か、、勝ったのか」呆然と僕は呟いた。自分が呼んだこの青色のドラゴンの圧倒的とも言える戦闘力をまざまざとその目に焼きつけ自然と体が震えた。
これがドラグーンのスキルなんだ。このとんでもない強さを誇る生き物を召還して使うのが。
この震えが感動なのか、恐怖なのか、あるいはそれ以外の何なのかも分からずぶるりと一度強く身震いして僕ははっと気づいた。
(まだあと一匹いる!)
ドラゴンはもとからそれを分かっていたようで、ドゥドァの死体を一瞥した後マンティコアの方に向きを変えていた。その視線の先ではマンティコアとトマス、パネッタ、そして戦線復帰したらしいバーナム隊長が激闘を繰り広げている。
ドゥドァによる傷をかばいながらも戦うバーナム隊長の攻撃はやはり鋭いようだ。
それでも一人だけならあの怪物もどうにか対処しえたかもしれないが、トマスとパネッタの二人が周囲で牽制してくるため、攻勢に転じられないように見えた。
怪物の醜い老人の顔に焦りが見える。必殺の蠍の尾もなかなか集中して振り回せていない。
だがそれはこちらも同様のようで相手を仕留めきる一撃を繰り出すチャンスが無く、速さでかわされている。
こうなれば毒食わば皿まで。あの残った一匹も確実に仕留めなければこちらもいつ危機に晒されるか分からない。
「悪いんだけど、あの怪物も頼めるかい?」自分を乗せたドラゴンに内心びくびくしながら声をかけると、ドラゴンはその長い首をすい、と下げた。まるで了承したように。
ウォン!と高らかに咆哮し青色のドラゴンは次の標的目掛けて飛翔した。




