過去の罪
私はふと自分がしていることに疑問を浮かべることがある。
「ん...ぷはっ」
誰も知らない森の奥にある古びた教会の中、もう30歳も近くなっているというのに教壇の下で寝そべりながら私は伸びた髭を掻きながら普段の修道服ではないスーツに身を包みながら、また現実から逃げるようにただひたすらにボトルに入っているワインを飲み干していた。
「来る日も、来る日も来る日も成果の出ない、意味のわからない仕事ばっかり。こんなことを続けてたら頭がおかしくなる」
酔いが回り始めたからか、私は誰もいない寂しい空間にへと語りかけ始めた。
まるで昨日のようだったようにも感じるあの、たくさんの笑顔で賑わっていた様子も夢だったかのように誰一人来ることはなくなった。
そりゃそうだ、数年間誰も来てないこんな何が出るかもわからない森の奥にある忘れ去られた教会に足を運ぶやつなんていない。
ボトルから大きく一口天井ふと見上げれば、そこには割れたステンドガラスから差し込む光が部屋の中を飛び回るホコリを照らしていた。
「ゴホッ、ゴホッ。言われてみればここかなり埃っぽいな。そうは思わないか?」
いくら私が愉快そうに語りかけたってもちろん当たり前に返って来る返事はなかった。それもいまに始まったことではなくいつものことだった。
「......」
それなのに自然と私はボトルを手に取り起き上がり自分のいる部屋を一望していた。
「...仕事がある日だけはどうも同じようにはいかないな」
スーツの胸ポケットから一枚の紙切れを取り出しながらどうしても憂鬱さを隠しきれない私のその視線の先にあるのは、そこら中を血の赤で塗りたくられた後がある教会だった。
その狂気じみた光景はこの教会に誰もいない最大の理由だった。
「この教会もこの末路を辿るしかないのか」
それはどうしても、憂鬱だな。
取り出した紙切れを再びポケットに戻しながら立ち上がると私は教会の出口に向かってゆっくりと歩き出した。
コツコツと石畳に革靴があたる音が部屋に響き渡るその様子は私に何度も生き残ってしまった罪を訴えかけているように感じた。
「......」
過去に浸るのは後にしよう。それよりも今は大人らしく、仕事の時間だ。
「おぉ、久しぶりだね神父さん。またお酒かい?それならちょうど残ってたのが...」
「えぇ、お久しぶりです。いえ、今日はまた別の用事で街に」
私はもうすでに深夜に差し掛かっているというのに未だ活気を見せている街の市場へと降りると、動きづらくすら感じる人ごみの中から唐突に見知ったヨボヨボの老婆が現れ私に話しかけてきた。
「別の用事かい?それなら今日はここに止まって朝一番で...」
「いえ大丈夫です。今日はあまりここで留まる予定はないので」
「そうかい。ならまた今度うちの店に来ておくれ」
「もちろん」
行き交う人々からの視線を受け早々に会話を切り上げ去ろうとすると、老婆はふと私のことを見た後に目つきを変えながら半歩ほど近づいてきた。
「なんでし...?」
「あの日に引きずられすぎるんじゃないよ」
「......」
私が聞き終わる前にそう一言老婆は言い残すと後ろも向かず人混みの中に姿を消した。
私は少しその背中を見つけようと止まったが、また目的地に向かって歩き始めた。
ただ真っ直ぐに市場のある道を歩き続けると段々とみずぼらしい姿の人々が目につくようになるのと同時に一種のスラム街のような場所にたどり着くことができる。
「相変わらずの臭いだな」
来るたびにこの場所がスラム街の中でもひどい方の部類だというのを実感させるような鼻を刺す臭いから顔をしかめる。
なんでこの場所での仕事ばっかりなんだ?来るたびに吐きそうになるんだよな。
この地域が放棄されてから整備などされているわけがない所々ヒビが入り地面がむき出しになっている道を引き続きたどっていると、私はふと他と同じように道端で寝そべっている一人の男に目がいった。
あいつだ。
私は瞬時に目的の男を見つけたことを理解し、その男に近づいた。
「おい」
「ん?誰だお前」
私は今にも爆発しそうな怒りをこらえながら、できる限り冷静な声で話しながらちょうど壊れかけの街灯から影で自分の顔が見えないように立った。
「数年前お前が加担したとある教会の襲撃を覚えているか?」
「は、はぁ?あんた急に何を言って...」
動揺した男のことを見下ろしながら私の背中に回してある右手には震えながらも確かに強く握りれたナイフがあった。
私は十分苦しんだ。仕事の前に妻と子どもを奪ったこいつ一人片付けるぐらい上も見逃してくれるだろう。
私は半歩ほど前に出た。




