新たな出会いの予感
ガネロン大森林。そこは空に手が届くほどの馬鹿デカい大樹が、広大な大地に幾重にも並ぶ、言葉通りの大森林だ。
地上を歩く存在が、蟻ん子に見えてくるほどに…。
その蟻ん子も同然の小さな少年が、隣を歩く青年の衣服を引っ張って、興奮気味に空を指差した。
「リード兄ぃ!リード兄ぃ!見て見て!流れ星だよ!」
「あっ?こんな真っ昼間に流れ星なんて見えるわけ……あっ、ホントだ!」
リードと呼ばれた青年は目を凝らすと、木々と枝葉の隙間からかろうじて見える光を、その眼に確かに捉えた。
七色に輝く流星のような光が、ゆっくりと降下している。
それは、森の重鎮でもあるセガン・ガネロンの目にも映った。
「ありゃあ、『跳躍柱』じゃな」
「跳躍柱?ああ、よく見たらそうだな。なんだ?隊長の増援か?」
「あの方に増援は要らんじゃろ…」
「はは!確かに、それもそうだな!」
顔をしかめるセガンの言葉に、リードはカッと笑って共感する。
だとしたら、あの跳躍柱はなんなのか…。
考えられる可能性のひとつに、リードの表情は軽い強張りを見せる。
「まさか異世界人か?」
「ありえん話ではないな」
「異世界人!?」
異世界人という言葉に、小さな少年は目を輝かせる。
対してセガンは、年季のある顔に新たな皺を彫り、ため息まじりに呻いた。
「う~む…。ただでさえ慌ただしい時期じゃというのになぁ…」
「アレ、このままだと禁足地に落ちるんじゃね?」
「禁足地?テス姉ぇが向かった場所だ。あっ!?」
少年は慌てた様子で、両手で口をムギュと塞いだ。
どうやら、口にしてはいけないことだったらしい。
セガンは少年を見下ろしながら、またも深いため息をついた。
「まったく、あの娘は…」
「仕方ねぇじゃねぇか。だってあの場所はテスの…」
「わかっておる。リードよ、お前が行って様子を見てこい。異世界人が善良な奴とも限らん。もし危険人物なら、テスの身が心配じゃ。それに『穢れた大地』も少しずつ近づいてきとる。言いたいことはわかるじゃろ」
「魔恩が出るかもしれねぇってことだろ。わかってるよ。最近、暴れ足りなくて身体が訛ってきてたからな。出てくれた方が、俺は嬉しいけど!」
そう言うや否や、リードは一目散に駆け出した。
その後ろ姿を、少年はいろんな感情を抱えながら見送る。
自分もついていって、異世界人をこの目に拝みたい。
だが、行く先が禁足地ということもあって、聞き分けのいい少年は潔く断念した。
魔恩という怪物も恐ろしい。
そしてなにより、リードの身体が心配だ。
少年は寂しそうに、上着の裾をギュと掴んだ。
「大丈夫じゃ、アトル。リードは強いぞ」
そんな不安を拭い去るように、セガンは少年の頭に手を被せる。
ワサワサと揺れる橙色の髪。
それもそうだと、少年…アトルは吹っ切れたように笑顔を作った。
「うん!じっちゃん!」
こうして、彼らのまだ見ぬ運命に、またひとつ近づいた。
リード。汚濁をその身に宿す、熱き信念を持った青年。
テス。失ったものを取り戻すため、懸命に身を削る儚くも強い少女。
輝夜。異能者の一人にして世界の命運を握る、宿命を帯びた少年。
そして今──、
彼方より飛来した七色の流星が、禁足地と呼ばれる漆黒の大地へと落ちた。
世界に、彼の降臨を知らしめるように、
土煙を狼煙のように巻き上げて。
衝撃を鐘のように吹き鳴らして。




