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異世界竹取物語〜★僕が約束を果たすまで☆〜  作者: 色採鳥 奇麗
第一章 新しい日常

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8/15

大は小なり、小は大なり


 竹取輝夜は闇の中を(ただよ)っていた。

 足場もない底なしの深淵。

 身動きは取れるが、進むことすらままならない。

 宇宙に飛ばされなければ問題無いと明言していた輝夜であったが、これはこれで想定外の展開であった。

 不自由を強いられた空間の中、筆舌に尽くしがたい戦慄がギュルギュルと少年の胸を締め付ける。


──「クオオォォォオオオン!」


 クロール、バタフライ、平泳ぎ。

 無駄な足掻きをしていると、闇の中を甲高い歌声が走り抜けた。

 その腹に響くような温かい咆哮は、輝夜の中で蠢いていた淀みを瞬く間に吹き飛ばしていく。

 そして入れ替わるように、未知への好奇心が輝夜の背中を後押しした。


「あれは…」


 現れた咆哮の(ヌシ)は、巨大な生き物のように見えた。


「鯨…なのかな?」

 

 目を大きく見開き、曖昧な言葉を絞り出す輝夜。

 巨大な体躯に大きな胸ビレ。

 そして、上下に揺れて推進力を生み出す尾ビレは、確かに鯨と言っても差し支えない。

 しかし、その鯨は輪郭だけがはっきりしているだけで、全身が透明な硝子のように透き通っていた。

 輝夜が煮え切らなかったのも、そういった理由からだろう。

 だが空っぽというわけでもなかった。

 透明な鯨の体内には、無数に煌めく光の渦が、キラキラとひしめき合っていた。


 弱い光。

 眩しい光。

 青い光。

 冷たい光。

 豊かな光。


 鯨の心臓にあたる部分には、太陽のように躍動している光があった。

 まるで生物を象った宇宙。

 あるいは銀河…。

 あるいは世界…。


 神秘的な生き物を前にして、輝夜はそんな感想を抱いた。

 しかし、それだけに留まらない。

 なぜならその生命体は、一体だけではなかったのだから。 


──「クオオォォォオン!」


 再び咆哮を上げて、鯨の巨大な体躯が輝夜の眼前を横切る。

 輝夜はもがくように体をねじり、鯨の行方を追い掛けた。


 するともうひとつ。

 鯨とは異なる丸い輪郭の『何か』が、視線の先に佇んでいた。

 

 輝夜よりも何十倍も大きい球体。

 生命体とは程遠い姿をしているが、その内側は鯨同様に無尽蔵な光が渦巻いている。

 中心部分にはメラメラと燃える心臓らしき核が存在し、その周りを規模も色もバラバラな(たま)が浮遊していた。

 

 宇宙を彷彿とさせた鯨の姿と、類似点が多く散見される。

 おそらく、あの鯨と同種なのだろう。

 そこで輝夜はふと、球体の『何か』に既視感を覚えた。

 

「あれ?これって…」

 

 心臓らしき太陽核、それを軸に浮かぶ珠。

 見間違えるはずもない。

 ──太陽系。

 そんな言葉が、輝夜の脳裏に浮かんだ。

 

(まさか、ここから僕が出てきた…なんてことはないよね…)


 そう、輝夜はその考えを殴り捨てた。


──「キィィイイイイン!」


 鯨とは明らかに違う咆哮。

 金属音にも似た鼓膜をつんざく音が、輝夜の骨という骨に響き渡る。

 

「うわっ!ってなになに!?」

 

 その音に引き寄せられたのか、多種多様な姿をした『何か』が、輝夜の眼前に集い始めた。


 海月。曇。天輪。円柱。

 円盤。羽。蝶々。大鷲。

 エトセトラ…。

 

 どの『何か』も、やはり輪郭だけがくっきり見えて、透き通った体の中に宇宙のような光を内包していた。

 それが発する光によって、輝夜の視界はみるみる明るくなる。


「あれは…人…?」


 そこで輝夜は遠方に怪しい人影を目にした。

 最初は、その人影も『何か』の仲間だと思った。

 しかし、透き通った体をしていなかったことで、輝夜はそれを自分と同じ人間だと判断できた。

 それも二人。

 一人は背の高い男性らしいシルエット。

 そして輝夜を挟んだ反対側に、スカートを履いた女の子らしい姿を見た。


「やっぱり人だ!おーい!」


──「クウゥゥゥゥゥン」


 輝夜の声は、『何か』の咆哮によって掻き消される。

 それでも、自分以外にも誰かがいてくれたことで、少し気が楽になった。



 ──それも束の間。



「うおおおおい!なんだよこれぇえええ!」


 端正な男の悲鳴と共に、状況はまたも一変する。

 

「え?」


 突如、男性のシルエットの奥に、女性の姿をした『何か』が見下ろすように現れた。

 その距離感たるや、男の文字通りの目と鼻の先。

 輝夜がマヌケな声を漏らした頃には、『何か』の腕がゆっくりと男に伸びていた。


「わっ!なんだなんだぁ!?」


 慌てふためく男を包囲するように、その手は彼の背後に回る。

 まるで、愛おしいものを抱きしめるかのように……。

 すると男は、『何か』の胸の中で、強力な酸によって消化されたかのようにフッと霧散した。


「え…?食べられた…の…?」


 突然の出来事に、輝夜の身体は硬直する。

 一呼吸してハッと我に返ると、凍てつくような悪寒がゾクリと背筋に走り抜けた。


「………………ヤバい」


 捕食されたのか、吸収されたのか。

 どちらにせよ、『何か』が人を(しょく)すのであれば、早くこの場から逃げなければならない。


「逃げなきゃ……」


 しかし、人型の『何か』は、輝夜に逃げる余裕すら与えてはくれなかった。

 人型の『何か』は次の瞬間、輝夜の眼前にフワリと距離を詰めていた。


「いやああああああ!こっち来るなにゃあああ!」


 涙目になりながら、ジタバタと悪足掻きをする輝夜。

 その抵抗も虚しく、人型の『何か』の胸の中に、輝夜は呆気なく囚われる。


「僕は美味しくないよーー!わあああ!」


 食べられる~!

 そう思った刹那。

 輝夜の視界は流転する。


「お!?おわ!?うわああああ!?」


 暗闇は青空へ。

 すべてが幻であったかのように、『何か』達の存在は消え失せていた。

 代わりに懐かしの大地が、輝夜の眼下に出迎える。


「どえええええ!」

 

 ──天に群青、地に漆黒。


 地上から、およそ1万フィートに及ぶ上空。

 あの『景色』と同じ場所へと、輝夜は勢いよく放り出された。


 七色の焔に包まれて。

 ただ、導かれるように落ちていく。

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