異能の原点
生徒も続々と集まり、気づけば入学式は滞りなく始まった。
舞台は体育館。
広々とした空間の中、総勢182名の国の将来を担う金の卵達が、整頓された椅子に腰を下ろしている。
緊張か、あるいは普段の振る舞いや内面の良さが、外面に現れているのだろう。
優等生達の整った姿勢に、一部の教員達は感嘆の息を漏らした。
しかし、そういった良い面が多く見られる一方で、悪い面というものはより際立って視界に映り込みやすい。
ステージ上からは校長が全体を見下ろして、新入生のためにと数日前から考えたスピーチをしている。
カクン…。
カクン…。
カクン…。
ビクッ…!
カクン…。
にも関わらず、一際目立つ白い髪の少年は、大っぴらに大船を漕いでいた。
前後左右に揺れる真っ白な髪。
早起きの反動が、今になって出たのだろうか…。
時折、校長のわざとらしい咳払いがマイク越しに響いたが、輝夜の詰まりに詰まった耳垢を突破するには至らなかった。
結局、見かねた隣人たちによって、輝夜はようやく目を覚ました。
数十分後……。
「いや〜。良い話だったね〜」
「ぐっすり寝てたくせによく言うぜ…」
「ほんとだよ…」
「ヒヤヒヤしたわね…」
校長の長い演説は終わり、入学式のスケジュール自体、八割近くが完了した。
残るは、新たな仲間たちと親睦を深めるための、簡単な自己紹介や施設案内。
そして、今後のスケジュールの確認と言ったところだろう。
1年1組一行は靴に履き替え、施設案内へと校庭に躍り出た。
そこで颯爽と歩いていた輝夜が、急に一点をジッと見つめて声を上げた。
「わぁ!みんな見て!不審者がいる!!」
優、櫻、拓翔、近くにいた他の数名も、なんだなんだと輝夜の視線を追う。
その先には、確かに不審な男が佇んでいた。
なにしろ、男は顔を無機質な面で被っていて、素性を隠している。
輝夜に不審者呼ばわりされるのも、仕方がないと言わざるを得ない。
「ああ、あの人は『教祖』だよ」
不審者の正体に優達は安堵する。
置いてけぼりの輝夜は、頭の上に疑問符を乗せて小首を傾げた。
「教祖?」
その様子を見て、櫻は呆れたように嘆息する。
「カグヤちゃんも知ってるはずよ。あの人は『最初の六人』のうちの一人なんだから」
「あ!それなら知ってる!確か、初めて異能に覚醒した人だよね!」
「そう…。そして、あの大災害を引き起こした爆心地にもなった人よ…」
★☆★
八年前。
大きな大災害が世界各地で同時に起こった。
原因はなんの変哲もない六人が未知の力に目覚めたこと。
それが史上、初めて観測された異能者だった。
当然、人の身に余る膨大なエネルギーを、覚醒したばかりの一般人が制御できるはずもなかった。
その桁外れな力は理を歪め、甚大な被害をもたらし、その地に消えることのない大きな傷跡を残した。
七桁に及ぶ死者を出し、その能力によっては焦土と化した都市もある。
常識から逸脱した大災害。
人々はそれを『神災』と呼び、現代も畏怖され続けている。
★☆★
「でも、そんな凄い人がどうしてこんなところに?」
「知らないのか?教祖は高校の創設者の一人なんだぞ」
疑念に歪んだ輝夜の顔を覗き込みながら、拓翔は呆れたように言った。
「最初の六人以降、異能者はもう現れないと思われていたが、今から五年前にそれは覆った。
最初の六人に比べれば、その力は可愛いもんだが、人々は続々と異能という未知の力を手にしていったんだ。
それに、今も異能者の数は増える一方だ。
しかもその対象は人間だけとは限らない。
理屈も理由も不明なまま…
でも『生命』がそれを扱う以上、解析し、抑制し、制御することができる。
二度とあの悲劇を起こさないために、異能特技研収高校は存在するんだぞ」
「おお!ひょっとしたら僕たち、明るい未来の礎として学校に名前を残しちゃう!?」
「かもな。今でも異能による犯罪や災害も多い。そもそも謎の多い力だ。その仕組みを理解して、なにかしらの功績を上げれば、名前を刻んだ石碑を設けてもらえるかもな」
「いいねぇ!ちょっとやる気出てきた!」
フンスと鼻を鳴らして、ヤル気に満ち溢れる輝夜。
そこに、傍観していた櫻がおもむろに口を開く。
「そういえば、カグヤちゃんの異能って凄く珍しいタイプの異能って言ってたっけ?」
「うん。僕もよく知らないけど、世界で同系の異能は三人しか見つかっていないらしいよ。確か無系統の…魂片顕現型…だっけ?」
「へぇ、いいなぁ。俺なんて、よくある身体強化型だぞ。俺も輝夜みたいな珍しい異能か、教祖みたいなデタラメな異能が欲しかったなぁ…。希少性って、なんか特別感あるし…」
羨ましそうに歯噛みしながら、拓翔は肩を落とした。
「そうかなぁ?僕はどちらかというと、拓翔君みたいな力の方が、スーパーヒーローみたいでカッコいいと思うけど…。ところで、教祖ってどんな異能を使うの?」
不意打ちで異能を褒められ、頬を緩ませた拓翔。
輝夜の疑問に対しては、拓翔の横にいた優が代わりに答えた。
「確か、『命』を司る異能じゃなかったかな。彼の力は人知を超えてるから…『権能』って言うのがふさわしいかもしれない。教祖は多くの死者を出した償いとして、その倍の命を救って回っているそうだよ。噂じゃ、どんな病気も治せたり、老人を若返らせることもできるとか…。まぁ、あくまで噂だけどね」
「ほぇ~」
当時の神災の凄まじさは、ニュースで見聞きしていたので、輝夜も大まかには知っている。
というよりは、具体的な内容を優のおかげで思い出せた。
教祖の権能は『命』。
八年前、教祖はその力を制御できずに、一帯にいる生命の法則をグチャグチャに書き換えたと言う。
人、鳥、獣、魚、虫。
さらには植物に至るまで…。
その法則と秩序の境界は取り払われた。
被害者は皆、キメラのような醜悪な怪物に変貌を遂げたという。
中には救われた命もあったが、その大半が急激な変化に耐えられず、命を落とした。
すべては償い。
教祖が教団を立ち上げたのも、同じ悲劇を繰り返さないため。
異能特技研収高校を創設したのも、悲劇に対抗しうる手段を得るためだ。
そこでふと、教祖に目を向けた輝夜に、ある疑問が芽生えた。
──教祖である必要…あったのかなぁ?




