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異世界竹取物語〜★僕が約束を果たすまで☆〜  作者: 色採鳥 奇麗
第一章 新しい日常

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新しい生活

 輝夜の毎朝のルーティンは、起床後の歯磨きから始まる。

 朝が弱い彼にとって、口内への刺激と口いっぱいに広がる歯磨き粉の清涼感は、眠気を吹き飛ばすのに(もっと)も効率のよい覚醒手段であった。

 しかし、本日に(かぎ)ってだけは、その限りではない。

 早朝から鳴り響くスマホのアラームを一秒にも満たない早業(はやわざ)で停止させ、寝癖まじりの白い髪をブワッと揺らしながら、覚醒した少年はベッドから颯爽と飛び起きた。

 そうして向かった先は洗面所。歯磨き、洗顔、髪のブラッシングと、同時並行で行われる荒業は、一秒たりとて無駄にはしないという、彼の熱意が感じられる。

 

「よーし!次!」


 自室に戻った頃には、せっかく整えた癖毛(くせげ)はこの短い道中で息を吹き返していた。そのことに気づかないまま輝夜はクローゼットの前に立つと、一着の制服をハンガーから引き()がした。


「間違えた、これじゃない。こっちだこっちだ」


 誤って手にした古い制服を元に戻し、使用した形跡がほとんどない真新(まあたら)しい制服を取り出すと、輝夜はパジャマを脱ぎ捨てて、その新品の(ころも)に身を包んだ。

 身分を示し、所属を示し、脅威から身を守るための学生に義務付けられた特別な制服。白をベースにしたそれは、どちらかというと軍服を連想させる硬いデザインになっている。

 だが、そんなことはどうだっていい。

 輝夜にとって(もっと)も重要なのは、似合っているかいないかだ。

 クローゼットの横に立てかけられた大鏡へと向かい、全体の身だしなみを確認する。

 彼の白い肌に透明感のある色素の抜けた髪と相まって、白く威厳を感じさせる制服は、意外とマッチしていた。

 輝夜自身、新たな自分の姿に満足した様子だった。

 ただ、紅い瞳に映り込んだ自身の癖毛の主張の強さに、輝夜は髪をいじりながら小さな溜息を吐いた。

 気を取り直し、支度(したく)を終えた輝夜はリビングへと向かった。


「おっはよう!」


 軽い足取りでリビングに足を踏み入れた輝夜は、最初に視界に入ったテーブルでコーヒーを(すす)る父に、元気いっぱいな朝の挨拶をした。

 その大きな声は、台所で朝食を作っていた母にも届き、二人は「おはよう」と微笑(ほほえ)んだ。


「今日はやけに早いな、輝夜」


「もちろん!今日は僕にとって、とっても大事な日だからね!」


「ふふ、それもそうね」


 気遣いのできる優しい息子に助けられながら、母はスクランブルエッグとハムが乗った皿を持って、慎重にテーブルへと向かう。そうしてみんなで食卓を囲み、いつもの家族の団欒(だんらん)が始った。

 今日の輝夜は、いつにも増してテンションが高かった。

 というのも、今日は輝夜にとって、新たなステージへの一歩を踏み出す、待ちに待っていた特別な日。高校生活一日目、登校初日の入学式であった。


 両親が見つめる今の息子の姿に、幼い頃に見た陰気な面影は一切ない。あの時の迷える小さな子共は、見違えるほどに明るく成長した。

 これも自分たちの教育方針の賜物か。どうあれ二人は、息子の立派な姿に感慨深くなるのだった。


「ごちそうさま!」


 朝食を終え、輝夜は息つく暇もなく玄関へと向かう。そうして、昨夜に磨いておいた真っ白な靴を手に取った。制服と合わせて新調(しんちょう)したその革製の靴は、父が輝夜のためにと奮発した、少しばかり値が張る代物だった。

 輝夜はそれを大事そうにしながら、慎重に足を通していく。


「似合ってるぞ」


 背後からの声に、輝夜は振り返った。

 見送りに来た父の言葉に、輝夜は「当然!」と鼻を鳴らす。

 すると父の後ろから、母も見送りにやってきた。そして、おもむろに息子に()うた。

 

「輝夜、学校は楽しみ?」


 心配性の母。だがそれも、息子の境遇を知っているからこそ。

 もし高校生活で同級生に馴染めなくても…、

 幼い頃のように学校に居場所がなかったとしても…、

 そうなってしまったらこの家に引き籠っつしまっても構わない。

 彼女はそう考えていた。

 誰だって、身内が苦しむ姿を見たくはない。

 だが、子共の成長というのは、親の想像を常に凌駕していくもので──、

 

「うん!すっごい楽しみ!」


 輝夜は立ち上がり様に、そう、笑顔で言い切って見せた。

 

 ──孤独だった頃の彼はもういない。


 あの日…。

 無限にも等しい数多の星が、夜空に光の橋を架けた日。願いを星に預けたあの日から、輝夜は見違えていくように変わっていった。

 デタラメだと知らなかったにしろ、父から伝授された『友達を作る』という秘伝技を素直に信じて、輝夜はたくさんの人と『話』をしたのだ。

 トラブルを起こして頬を腫らすこともあったが、それでも輝夜はめげなかった。

 意地悪をする子たち、隣の席になった同級生、はたまたクラスの全員、さらには他クラスの生徒まで…。

 言葉を交わし、情報を交換し、相互に理解を深めあう。

 そうして紡いでいった人と人との縁は、輝夜を明るい性格へと導いた。

 そして、今に至る。


「そう…」


 まだ輝夜が幼かったときは、将来が不安で仕方がなかった。世間との違いに心が折れて、塞ぎ込んでしまうんじゃないかと心が張り裂けそうだった。

 だが、そうはならなかった。

 大きく、優しく、立派になった息子の姿に安堵しながら、母は口をほころばせる。


「なら、またたくさん友達を作ってらっしゃい。それと、今日は大事な話があるから、早く帰ってきてね」


 輝夜はドアノブに手をかけて、ゆっくりと扉を開ける。


「うん、わかった。じゃあ行ってきます!」


「「行ってらっしゃい」」


 そうして二人は息子の新たな旅立ちの門出を見届けた。

 その大きくなった背中に穏やかな微笑みを添えて。

 


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