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異世界竹取物語〜★僕が約束を果たすまで☆〜  作者: 色採鳥 奇麗
第二章 その誕生を尊んで

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ナヒダ集落


 ガネロン大森林の西に位置する場所。そこには精霊達が拠り所とする、小さな集落がある。

 名をナヒダ集落。

 片隅にある、周辺の大樹に比べると一際背の低い紅葉した短樹が目印だ。

 間伐によって残されたいくつもの巨大な切り株を内側だけくり抜き、そうしてできた空間の中で彼らは衣食住をまかなっている。

 総勢28人。小さな畑を複数耕し、大樹に根を張った寄生植物からも、果実を頂戴して生計を立てている。

 精霊と言っても、すべての精霊が決まってこうした生活を送っているわけではない。

 ここ、アガネス大陸の北部には聖都クランティリアという大都市も存在するが、精霊にとって生まれ場所とは、命よりも大事な身を粉にして守るべき理由がある。

 それを語るのはもう少し後にするとして、今は精霊達(彼ら)の話をするよりも、外からの来訪者の話をするとしよう。


 竹取輝夜。

 色素が抜けたような真っ白な癖っ毛に、そこから覗く薄赤色の大きな瞳が特徴の、人懐っこい異世界人だ。 

 そして異世界人の中でも、精霊が扱う『奇跡』とは一線を画す、『異能』と呼ばれる力の持ち主でもある。


 その異能の名は『星屑』。

 輝夜は自身の魂とは別の、小さな魂を体外に放つことで、剣として顕現させることができる。

 形状は鍔を柄もない持たない菱形の刀身であり、表面には夜を刺繍したような、冷たくも煌めかしい模様が輝いている。

 空を駆け回るその姿が流れ星のようだと、輝夜は当初、『流星』という名を与えようとしていた。

 しかし、星と言えば五芒星。輝夜の飛剣はその欠片のようだとして、最終的には星屑という名に落ち着いたそうだ。

 その能力は知っての通り、輝夜はその飛剣を意のままに飛ばすことができる。

 ラジコンのように、ブンブンと。

 そして、その恩恵は自分にも作用させることができる。

 輝夜もまた、自由自在に空を滑空できることから、今では集落の子供たちの人気者となっていた。


「輝夜兄ぃ!次は僕を背中にのせてよ!」


「いやだー!次はあたしだよー」


「ユイラ、もっと飛びた~い」

 

「みんな、重量オーバーだよ…」


 現在、行く当てもない彼はセガンにあてがわれた切り株ホームを仮の拠点とし、このナヒダ集落で世話になっている。

 かといって、お客様感覚でどっしりと構えているような輝夜ではない。

 衣食住を提供してくれた恩義はしっかり返そうと、今は天真爛漫な子供たちの遊び相手(玩具)となっている。

 集落のチビッ子三人衆に群がられ、輝夜はヘトヘトになりながらも、期待に応えられるように踏ん張っていた。

 微々たるものだが、数センチほど地面から離れている。エアホッケーの円盤が、微細な空気の流れに身を委ねているように。

 そんなことでも、子供たちには大いに喜んだ。

 そして輝夜は、脳髄に電流でも走ったかのように閃いた。


「これで解決だ!」


 輝夜はうつ伏せになり、子供達に背中に乗るよう促した。

 そして、地面からフワッと浮き上がる。

 人間スケートボードの完成であった。

 微笑ましいというか、痛々しいというか…。

 その珍妙な絵面に、周囲から次々と嘲笑の声と残念なものを見るかのような乾いた視線が集まった。

 人の尊厳すらない世界だったのだろうかと、憐れみの声すら上がる始末。

 見守っていたリードとセガンも、呆れたように嘆息する。

 

「アイツらは、なにをやってるんだ…」


 対して、最高の玩具を手にした子供達は有頂天になっていた。

 片手で地面を撫でるように走らせ、早々に人間ボードを乗りこなす。

 だが子共の好奇心というものは恐ろしいもので、物事の限度というものを知らない。

 輝夜は下を向いたまま前方不注意により、まっすぐに巨木に向かって進んでいることに気づかなかった。

 その直前、子供達の重みが彼の背中からフェードアウトする。


 事の顛末は口にするまでもないだろう。

 

 ガネロン大森林の奥地。

 ゴンッという鈍い音と、断末魔のような悲鳴がどこまでも響くのであった。


 ★☆★


 魂流石(オーブ)と呼ばれる石がある。正式名称はマフナオーブだ。

 マフナとは精霊が言うところの、魂を意味する言葉だ。

 その魂流石(オーブ)の見た目はビー玉と相違ない。

 ただ、その結晶の中には精霊の血…つまりは恩寵(おんちょう)が内包されている。

 これにより、思願(ニナス)を捧げれば、簡易的な奇跡を誰しもが行使することが可能になる。

 人、もとより奇跡が使える精霊、それは異世界人も例外ではない。

 

「でー…その異世界人の隊長って方はいつ頃ここに来るんですか!?」


 頭にできた大きなコブを冷却用の魂流石(オーブ)で冷やしながら、輝夜は食い入るように尋ねた。

 リードは天を仰ぎ、考えるように言葉を絞る。

  

「確か…5日後だな」


 異世界人という言葉が現地人である精霊達(彼ら)に定着している以上、輝夜以外にも天外からの飛来者がいることは必至だった。

 (げん)にリードとセガンからは、数人の異世界人が聖都に住んでいることを聞かされている。

 同じ世界から迷い込んだ人が他にも存在する。

 同じ境遇の同志が近くにいてくれるだけで、なんと頼もしいことか…。

 自分が孤独じゃないことに安堵しながら、輝夜は異世界人に会うのを心待ちにしていた。


「いやぁ、楽しみだなぁ」


「ああ、きっと驚くぞ」


 リードはクツクツと、不敵に口角を上げた。そのどこか含みのある怪しい笑みに、輝夜は少し不審に思ったが、考えすぎだろうと特に勘ぐるような真似はしなかった。


「………」


 リードの胸のヒビ割れは塞がってはいないものの、恩寵漏れは止まっていることに輝夜はホッと胸をなで下ろす。

 一時はどうなることかと思ったが、あの後は嘘のように恩寵()も止まり、リードは平然と歩き回っていた。

 精霊特有の病らしいが、外から来たばかりの無知な輝夜には、今はしてあげれれることが少ない。

 それに、リード自身が問題ないと口にしていたので、きっとその通りなのだろう。

 輝夜は考えることをやめ、今はそ早急に解決しなければならない、重要な案件を優先することした。

 

「ところでリードさん。僕、あの子に嫌われるようなことをしましたか?」


「あ?テスのことか?聞いたがお前…テスの大事にしてる花を引っこ抜こうとしてたとか」


「誤解です!あんな綺麗な花、僕の世界でも見たことなかったから、ちょっと触ってみようと手を伸ばしただけなんですよ!断じて、引っこ抜こうだなんてしてません!僕は無実なんです!」


 なんとか身の潔白を主張するも、リードはそれを冷たくあしらった。


「じゃあ、俺じゃなくてテスに言ってやれよ…」


「それもそうなんですけど…。あの子、まともに取り合ってくれなくて」


「完全に嫌われたわけか…」


 輝夜はしょんぼりと肩を落とした。

 人と仲良くなるのは大歓迎だけれども、嫌われるのは、それはそれで我慢ならないのが輝夜だ。

 早々に誤解を解いて普通にお話したいものだと、輝夜はため息まじりにまた一層肩を落とした。

 その陰鬱な姿を見兼ねて、やれやれとリードが口を開く。


「はぁ、仕方ねぇな。俺が少しアドバイスしてやろう」


「本当ですか!」


 少女との関係修復に光明が差したことに、輝夜の表情が目に見えて明るくなった。

 リードの助言に耳を傾けるや、輝夜は切り株ホームを飛び出て、颯爽とテスを探し回った。

 その青い背中を、リードは物憂げな気持ちで見送る。


「輝夜のヤツ、大丈夫かね」





「まあ、これも青春ってやつなのか」

 

 

 


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