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第78話 裏道の仕入れ先

翌朝の麦猫堂は、いつもより静かだった。

棚に並ぶ小麦袋の数が、はっきりと少ない。


エリは無言で生地を量り、

足りない分を計算しては小さく息を吐いた。


「……これじゃ、三日もたないね」


ハンナが腕を組む。


「ええ。

 今日中に目処をつけなければ、焼ける数が半分以下になります」


セシルの声は冷静だが、状況は明らかに切迫していた。


   ◇ ◇ ◇


「エリ。今日は店を任せます」


「え?」


「私は仕入れ先を探します。

 表の商業区は使えません。裏から当たります」


「裏……?」


「街の外れや、個人取引の粉挽き屋です。

 量は少ないが、話が通る者がいます」


エリは一瞬迷ったが、すぐに頷いた。


「……気をつけて」


「当然です」


セシルは外套を羽織り、裏口から街へ出た。


   ◇ ◇ ◇


街外れの粉挽き場。

石臼の音が低く響く中、

セシルは一人の老人に声をかけた。


「久しぶりですね、マルコ殿」


「……その声は」


老人が顔を上げ、目を細める。


「生きていたか、元執事殿」


「ええ。

 今日は商いの話で」


マルコは鼻を鳴らした。


「今さら表の店と繋がる気はないぞ」


「表ではありません。

 小さなパン屋です」


「……噂の娘のところか」


セシルの視線が鋭くなる。


「ご存知でしたか」


「街は狭い。

 特に、誰かが噂を流そうとしてる時はな」


   ◇ ◇ ◇


「小麦はある。

 だが量は出せん」


「構いません。

 質を最優先で」


「……相変わらずだな」


マルコはしばらく黙り込み、

やがて指を一本立てた。


「条件がある」


「伺います」


「表向きは取引しない。

 夜明け前、裏門で受け渡しだ」


「問題ありません」


「それともう一つ」


マルコは低く言った。


「誰が圧をかけているか、

 少しだけ耳に入った」


セシルは、わずかに身を強張らせた。


「商業区の中堅だ。

 だが指示は外から来てる」


「外……?」


「貴族筋だろうな。

 しかも、一枚じゃない」


   ◇ ◇ ◇


同じ頃、麦猫堂。


「今日は少なめなんです」


「それでも、いいよ」


そう言って買っていく客の背中を見送りながら、

エリは何度も扉の方を見ていた。


(セシル……)


不安はある。

だが、止まってはいられない。


生地を丁寧に整え、

焼き上がりを確かめる。


(少なくても、いいパンを)


   ◇ ◇ ◇


夕方、セシルが戻ってきた。


「どうだった?」


「確保できました。

 量は通常の三分の一ですが、繋がります」


「よかった……!」


エリの肩から力が抜ける。


「ただし」


セシルは静かに続けた。


「これは時間稼ぎです。

 本命の仕入れ網を、別に作る必要があります」


「……長期戦、だね」


「ええ」


だが、セシルの目には迷いがなかった。


「ですが、道は見えています」


   ◇ ◇ ◇


夜。


商業区の奥。


「裏から繋がったらしい」


「マルコか」


「老いぼれめ」


「構わん。

 次は別の手だ」


影の声が低く笑う。


   ◇ ◇ ◇


本日の収支記録

項目内容金額リラ

収入店頭販売(数量制限)+12

収入店舗手伝いの取り分+20

合計+32

借金残高22,255 → 22,223リラ

セシルの一口メモ


表の道が閉ざされても、

裏道は必ず残ります。

大切なのは、

どの道が未来へ続くかを見極めることです。

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