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第62話 影との対面、胸に宿る恐れ

薄曇りの空の下、

エリとセシル、そしてあの男は、

人通りの少ない小さな公園へと移動した。


昼時を過ぎているため、

ベンチに座る老人もいない。

木々が風に揺れ、その葉擦れの音だけが響いていた。


エリの心臓は早鐘のように脈打っている。


(怖い……でも、逃げられない)


セシルはエリの前に立つ形で、男に向き合った。


「それで。ご用件は伺いましょう」


男はゆっくりと視線をエリへ向ける。


「お前が……エリシアという名で間違いないな」


「……はい」


声はかすれ、喉の奥がひりついた。


男はすぐには続けず、

しばらくエリを眺めるように沈黙した。


その目は、懐かしむでもなく、憎むでもなく、

ただ何かを確かめるような冷たい光を宿している。


(この人……誰?

 どうして私の名前を……)


セシルが一歩前へ出た。


「名乗りもなく問い詰めるのは失礼でしょう。

 あなたは誰なのか。それを聞かせていただきたい」


男は肩をすくめ、小さく笑う。


「名乗るほどの者ではない。

 だがまあ、必要なら名だけでも伝えておこう」


男は冷静に口を開いた。


「俺はガレド。

 リースフェルト家で……かつて雑務をしていた者だ」


エリは息を呑んだ。


(使用人……?

 やっぱり……)


胸の底に冷たい影が落ちる。


ガレドは淡々と続けた。


「一年前、俺はあの家を辞めた。

 理由はいくつかあるが……お前にとってはどうでもいい話だろう」


「だったら……どうして私のところに?」


エリは震える声で尋ねた。


ガレドの視線が鋭くなる。


「お前が、家から逃げたと聞いたからだ」


「逃げた……?」


エリの胸がひどく痛んだ。


ガレドは皮肉げに笑う。


「家での扱われ方は、あまり良くなかったようだな。

 あの日、屋敷中で噂が回った。

 婚約破棄された娘が泣きながら出ていったと」


エリは唇をかみしめた。


(泣いてなんか……いなかった)


でも、否定する言葉は喉で止まった。


セシルが小さく息を吸い、低く言う。


「目的を言ってください。

 この話をするためだけに、エリを追ってきたのですか」


「いいや。もっと単純な話だ」


ガレドは懐から一枚の紙を取り出した。


薄汚れた紙。

だが、そこに書かれた文字は見覚えのある筆跡だった。


「……これ……」


エリの手が震える。


ガレドが紙を差し出した。


「リースフェルト家からの伝言だ。

 お前を探しているらしい」


空気が一瞬で凍る。


「探して……?」


エリの喉がひきつった。


ガレドはあくまで無感情に続ける。


「家は、あの日から正式な連絡が取れていないお前を探すため、

 街の元使用人や関係者に声をかけている。

 俺のところにも話が来た。

 だから、お前を確認しに来た……それだけだ」


セシルの目が鋭く細まる。


「あなたは……その依頼を受けたのですか」


「まあな。金になるからな」


ガレドはエリを見下ろす。


「安心しろ。場所を報告するかどうかは、まだ決めていない」


その言葉が、一番残酷だった。


エリの喉がひゅっと締まる。


(どうして……

 どうして今になって……)


セシルが低く問う。


「……ガレド。

 あなたの目的は金ですか」


「そうだ。家からの報酬もあるし……

 お前が今後どう動くかで、もっと金になるかもしれない」


エリの背中を冷たい汗が伝う。


「簡単な話だ。

 家に戻る気があるなら、手助けしてやる。

 戻る気がないなら……別の形で金にする」


「別の……形?」


エリの声は震えた。


ガレドは薄く笑った。


「貴族の娘がどこで何をしているか……

 それだけで、金になる場所はある」


セシルが静かに前へ出る。


「それ以上、彼女に近づくことは許さない」


その言葉には、冷たい刃が宿っていた。


男は肩をすくめた。


「まあいい。今日は話しに来ただけだ。

 だが……逃げるなよ、娘。

 家は、お前を放っておく気はないらしい」


そう言い残し、ガレドは背を向けて歩き去った。


風が吹き抜け、静寂が公園を包む。


エリはその場に立ち尽くした。


(どうして……

 どうして私を……)


「エリ」


そっと肩に触れた手に、エリははっと顔を上げる。


セシルの瞳は、強く、揺るぎなくエリを見つめていた。


「大丈夫です。絶対に渡しません。

 あなたは、もうあの家のものではない」


エリの胸に熱いものが込み上げ、

涙が今にもこぼれそうになった。


(セシル……)


その言葉だけが、

今のエリの世界を支えていた。


本日の収支記録

項目内容金額リラ

収入※本日も納品のみで店頭売上なし0

収入店舗手伝いの取り分(最低保証)+10

合計+10

借金残高22,550 → 22,540リラ

セシルの一口メモ


影が名を呼ぶ時、それは過去が扉を叩いている証です。

しかし扉を開けるかどうかは、あなたが決めればいい。

どんな選択でも、私は隣に立ち続けます。

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