表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/132

第27話 商人連合からの書状

雨が上がった翌日。

 街は雨粒の残る石畳がきらりと光り、ひんやりした空気の中に小さな陽だまりが揺れていた。


「よーし、今日も一日頑張ろうかね」

 ハンナが大きく伸びをしながら言う。


「はい!」


 私は元気よく返事をし、生地に手を伸ばす。

 昨日のベンさんの言葉がまだ胸の奥で温かく灯っていた。


(誰かの力になれるって……嬉しい)


 その気持ちが、今日の一歩を軽くしてくれる。


   ◇ ◇ ◇


 昼前。

 店の外から馬車の車輪が止まる音がした。


「おや、こんな時間に馬車なんて珍しいねえ」

 ハンナが扉の方へ目をやった。


 扉が開くと、濃紺の礼服を着た中年の文官らしき男性が姿を現した。


「麦猫堂はこちらで間違いございませんか」


「はい、そうですが……」

 ハンナが応じる。


 文官は軽く頭を下げ、懐から白い封筒を取り出した。


「こちら、商人連合の代表よりの書状です」

 そして、私の方を向き

「エリシア様へ、お渡しするよう仰せつかっております」


「わ、私に……!?」


 手渡された封筒は厚みがあり、赤い封蝋が押されていた。

 まるで王宮からの通達のような厳かな気配を含んでいる。


 文官は丁寧に一礼し、店を後にした。


   ◇ ◇ ◇


「エリ、開けてごらん」

 ハンナが優しく促す。


 私は手を震わせながら封蝋を割った。

 中には美しい筆跡でこう記されていた。


 ――噂に聞く陽だまりパンの職人、

   エリシア殿にお会いしたく候。

   つきましては、商人連合本部にて

   試食査定ならびに面談の場を設けたい。


「試食……査定……?」

 声が自然と震える。


「こりゃあ、エリ。偉い話だよ」

 ハンナが目を見開いた。

「商人連合が職人を指名するなんて、滅多にないよ。

 すごいよ、あんた」


「で、でも……どうしよう。私なんて、まだまだで……!」


「自分を小さく見すぎなんだよ」

 ハンナは笑い、ぽんと私の背中を叩いた。

「困ったときは相談に来るんだよ、いいね」


「……はい」


 胸の奥に、緊張とわずかな期待が入り混じる。


(行くべき?

 私が……商人連合に……?)


 世界が一歩広がる音がした。


   ◇ ◇ ◇


 その時、奥から静かに歩いてきた影があった。


「お嬢様」

 セシルが姿を見せた。


「セシル……! いま、商人連合から……!」


 私は封書を差し出した。

 セシルは丁寧に視線を落とし、数秒読み込んだあと、静かに口を開いた。


「……控えめに申し上げても、これは大変名誉なことです。

 お嬢様の努力が実を結んだ証といえます」


「えへへ……なんだか、まだ信じられなくて」


「信じてよいのです。お嬢様は評価されるだけの仕事をされてきました」


 珍しく、セシルの声は柔らかかった。

 いつもの壁のような冷静さがわずかに緩んでいる。


(セシル……そう言ってくれるんだ)


 心が静かに温まった。


 だがその後、セシルはふっと目を伏せる。


「ただし……決して油断はなさらぬよう。

 商人連合は、善意だけで動く組織ではありません」


「え……?」


「その場には、利益、評判、政治……さまざまな思惑が渦巻きます。

 お嬢様が関わる以上、私は細心の注意を払います」


 優しさと警戒が入り混じった声。

 その言葉に、私は背筋を伸ばした。


「……分かった。準備、頑張るよ」


「はい。お嬢様なら、必ずやり遂げられます」


 セシルは軽く頭を下げた。

 その横顔はいつもより少し遠く感じた。


(セシル……あなたも、何かを抱えているんだよね)


 そう思うと、胸が少しだけ重くなった。


   ◇ ◇ ◇


本日の収支記録

項目内容金額リラ

収入通常営業の日給+25

収入貴族街の追加注文(陽だまりパン・エリ取り分)+15

合計+40

借金残高23,622 → 23,582リラ


セシルの一口メモ

本日の書状は、お嬢様の功績によるものです。

誇ってよいことでしょう。

ただし、面談には必ず私が同行いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ