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青と赤

 



 陽葵は大事そうに紙飛行機を両手に乗せたまま、慈しみの目でこれまでのことを話した。


 小学生の頃、中学生の頃、高校1年生の頃、高校2年生の頃、好きになったこと、碧斗との紙飛行機の思い出、どれを思い返しても大切で、どれにも等しく愛がある。


 陽葵は幸せそうに頬を緩めた。それを見た理久は、やはり寂しそうな顔をしたが、陽葵が気づくことはない。


「長い片想いだね」


 理久がぽつりと言葉を零すと、陽葵も表情も寂しさを漂わせるものへ変わる。


「何もないんだよ、こんなにずっと居たはずなのに」


 陽葵はため息を零せば遠い目をした。


「なんで終わったことにするの?」


 理久から出た言葉は、陽葵は想像もしない言葉だった。優しい理久は、慰めると思っていたのだ。


「そもそも始まってないというか」


「好きなら始まってるでしょ」


「でも私、何も出来たことないんだよ。きっとこれからもできない」


 自分の愚かさ、惨めさを陽葵は嘲笑うしかなかった。しかし、理久は一貫して真剣な眼差しで話を続ける


「それで諦めていいの? 一度も好意を知られず終わってもいいの?」


 陽葵はどうしたらいいかわからず、口を開くことができなかった。そんな哀れな姿を、理久はやはり笑わずに陽葵からの返事を待った。


「今更、どうにもならないと思う。それに、碧斗が幸せな方が、きっと私も嬉しいと思うから」


「碧斗の隣に他の女が、和田美玲が居ていいの? それを見ても私は幸せって言えるの?」


「それは」


 言えるわけない、瞬時に陽葵は理解することが出来た。高校1年生で恋心を理解して、その時にした想像でさえ苦しいのに、その相手が今はハッキリと見えてしまっている。苦しくないわけがないのだ。


 俯く陽葵の肩にそっと手を乗せた理久は、1度開くも閉じ、何かを決心したように再び口を開いた。


 陽葵から見たその理久は、何かを堪えているような表情に見えた。


「協力してあげようか」


「協力?」


「陽葵が幸せになるための協力」


 理久が口にした協力という言葉の意味が分からない陽葵は首を傾げ、次の言葉を待った。


「陽葵の1歩踏み出すためのお手伝いだよ。僕の1歩にもなるからね」

 

「私の1歩が理久の1歩に?」


「そう。もう僕らも高3だし、最後に頑張らないと後悔するよ」


 理久の言うことは最もである。

 高校3年生という時間は始まったばかりだが、時間というものは儚く終わることを理解できる年齢なのだ。


 選択する将来(みらい)が、大きく別れていく1歩手前なのだ。


 悩みながらも納得し、努力を決意する陽葵のそばで、理久は先程折った赤色の鶴をポケットに忍ばせ、指でなぞりながら「僕にも言えるか」と小声で呟いた。


 陽葵にその声は届かなかった。







 × × ×







 あれから理久は、あの手この手で陽葵のサポートをした。助言だけでなく行動に移せるようにと、受験勉強の傍ら陽葵に膨大な時間を割いた。


 そして陽葵もまた、膨大な時間を碧斗に割いていた。


 髪型をたくさんアレンジしたり、スカートを少し折ってみたり、リップを塗っては生活指導を受けたり、いろんな変化を起こしてみたものの、そんな陽葵の変化に碧斗は気づかなかった。


 夏休みも冬休みも新しいカフェを見つけたり、話題になっているカフェの情報を仕入れれば碧斗を誘ったが「受験勉強が」と断られてしまう。もっともな理由だが、陽葵を傷つけないように「終わったら行こう」と優しいフォローも欠かさなかった。


 碧斗の優しさが、陽葵の胸を温め、理久の心に棘を刺す。


 溶けるような夏の暑さも、一瞬で通り過ぎる秋も、寒さに震える冬も、みんながみんな、その距離を縮められずにいた。友人同士という心地よかったはずの距離が少し歪なものになってしまったのは、見て見ぬふりをしている。



 そうして過ぎていく日々は、最も寒い季節へと移り変わっていく____。










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