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青色の折り紙

 


 ――キーンコーンカーンコーン。


 小学校のチャイムがなる。

 後ろのロッカーにはたくさんのランドセルが仕舞われており、黒板にはたくさんの数字や数式が書かれ、廊下では徐々に騒がしい生徒の声が響き始める。

 エアコンはついているが、9月とは思えないほどの暑さに、空気は少しカラカラとしている。


 教師は名簿を手に教室を出ていく。

 日直が教室内を見回し、写している人の確認をしてから黒板の文字を消し始める。


 陽葵はノートや教科書を机の中に仕舞うと、お道具箱から100枚入の折り紙を取り出し、紙飛行機を折り始める。


 陽葵の友人の佳澄(かすみ)が陽葵の座席までやってくる。


「陽葵〜、さっきの算数難しすぎるよって、今度は何を折ってるの? また紙飛行機?」


「そう!」


「陽葵の紙飛行機はよく飛ぶもんね」


 佳澄の言葉に、陽葵は頬が緩む。

 陽葵は佳澄にピンク色の折り紙を1枚差し出し「一緒に折ろう」と誘えば佳澄はその誘いに乗り、折り紙を受け取れば紙飛行機を折り始める。


 陽葵のものは先端が少しズレており、小さめの紙飛行機。佳澄のものは陽葵のものより少しズレがましな先端の大きめの紙飛行機。


 2人は教室の誰もいない場所へ紙飛行機を飛ばすも、それを見たクラスメイトが陽葵の座席へわらわらと集まってくる。各々が「すごーい」や「めっちゃ飛ぶじゃん!」と絶賛する口ぶりで褒めちぎる。


 座ったままの碧斗はそれを面白くなさそうな顔で「紙飛行機なんて誰でも折れるだろ」と口にする。


 しかし、それを受けた佳澄が「じゃあもっと飛ぶ折り紙作ってみなさいよ」と挑発し、ムキになった碧斗が立ち上がるも授業開始のチャイムがなる。

 クラスメイトたちが「碧斗残念だったねー」と口々にするのを、碧斗が悔しそうに受け止め、座席に座り直す。しかし、そのまま佳澄に「放課後折るから」と、帰らないように約束を取りつける。





 × × ×





 やってきた放課後。

 また夕暮れ前だが空は昼よりは少し落ち着いた色になり、開いた窓からは校庭で鬼ごっこや一輪車、竹馬を楽しむ声が聞こえてくる。


 教室の中には自分の座席に座る陽葵と、その前に仁王立ちをする碧斗しかいない。


「俺だって折れる」


「……そっか」


「……」


「……帰ってもいい?」


 そこまで仲良くもなかった2人は、何を話せばいいかわからず、ぎこちない空気が漂う。


「折る」


「え?」


「折る、から、1枚ちょうだい」


 碧斗の視線は陽葵の机へ向いている。


 陽葵は100枚入の折り紙を碧斗へ差し出し、受け取った碧斗は口を開く。


「何色使ったらいい?」


「え? なんでもいいよ」


 陽葵がそう答えれば、碧斗は青色の折り紙を1枚引き出す。


「青色、すきなんだ」


「……名前にあおって入ってるし」


 再び訪れる気まずさに、陽葵は視線を泳がせる。そんな陽葵に碧斗は100枚入の折り紙を突きつける。戸惑っている陽葵に「一緒に」と、共に折れと言う言葉を口にする。


 2人は、静寂の中折り進める。

 陽葵は休み時間に折ったものと同じく先端が少しズレた小さめの紙飛行機。碧斗はまっすぐ綺麗な佳澄と同じ形の紙飛行機を折った。


「……飛ばす?」


 陽葵は提案した。2人は教室の前方へ紙飛行機を飛ばすが、陽葵の方が長く飛んだ。悔しそうにする碧斗を横目に、またも陽葵が口を開いた。


「教えようか?」


 少し間を開けて「うん」と返事した碧斗は、陽葵から紙飛行機の折り方を教わった。


 次第に打ち解けた2人は、せっせこ大量の紙飛行機を生産する。それも会話をしながら生産できるようになったのだ。


「碧斗くんは」


「碧斗でいい、俺も陽葵って呼ぶ」


 呼び方も変わり、少しずつ距離が縮まる。2人の影が伸びるように、太陽はまだいるが、先程よりは幾分か沈んでしまった。


「陽葵はなんで紙飛行機好きなの?」


「夏休み、おじいちゃんに教えてもらったんだ」


「紙飛行機を?」


「そう。両親共働きだからおじいちゃんが面倒見てくれるの。折り方も飛ばし方も、おじいちゃんから教わったんだ。折り紙を折ってると寂しくないの」


 陽葵はにこやかに言った。碧斗は少ししてから「……いいな」と、羨ましさを口にした。


 不思議に思い「おじいちゃんが?」と、とんちんかんな返答をする陽葵をみて、碧斗は吹き出して笑う。


「夏休み、俺は塾とミニバスで親に目をかけてもらえない」


 寂しそうな碧斗に陽葵は「それをさせるのも愛情なのでは?」と話すも、碧斗は首を横に振り「俺はやりたいなんて思ってない」と返事をした。

 陽葵は納得いかないという表情をする。


「だけど、碧斗はいつも成績いいよね。100点いっぱい取るし、シャトルランだって最後まで走ってる」


「どうってことないよ」


 陽葵は心の中で「天才がよお」と悪態をついてみたが碧斗には届かない。仕方なく、何事も無かったかのようにまた新しく紙飛行機を折ろうと100枚入の折り紙を手にすると首を傾げる。


「どうした?」


「青色、ない」


 碧斗の周りには青色や水色で折られた紙飛行機ばかり。「ごめん」と碧斗は気まずそうな顔になるも、陽葵は「碧斗がいると青色はすぐなくなっちゃうね」と笑いかけ、2人で顔を見合せて笑う。


「いつか、陽葵よりもすごい紙飛行機を折って高く長く飛ばすよ」


「なんで高くなの?」


 碧斗は笑顔で話した。


「高い方が、なんか願い叶えてもらえそうじゃん!」


 元気いっぱいのその声に、首を傾げる陽葵。


「誰に?」


「天国にいる神様」


「何のお願い叶えて欲しいの?」


「いっぱい1番とって、沢山愛されて、幸せになれますようにって」


 何かを思い浮かべながら笑顔でそう答える碧斗。


 陽葵の胸は、トクりと小さな音を奏でた。しかし、陽葵にはそれが何だかまだわからなかった。


「だから、俺は陽葵に負けないよ」


 そう立ち上がる碧斗に釣られ、陽葵も立ち上がる。少しばかり陽葵の方が目線が高く、それに気づいた陽葵は恐る恐る口を開く。


「身長は、まだ勝てそうにないね」


 碧斗は、悔しそうな表情を浮かべるも、ゆっくりと背伸びをした。










 そうして、1週間もすれば碧斗は全然違うカタチの紙飛行機を折った。今までのカタチでも、陽葵に教えてもらったカタチでもない、だけど相変わらず端と端が揃い、よれていない、まっすぐな紙飛行機を。







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