第9話 レンコン。の巻!
泥だらけのアンジーが帰ってきた。
「まったくふざけているっ!!」
「どうしたんですかアンジーさん!」
「行ってみたら底なし沼だった!なんという恐ろしい罠!!」
レンコンを手に持ったアンジーが怒っている。
◇◇◇◇
時間は数時間戻り、場所は街の外れのレンコン畑。
「うわーーーーっ!底なし沼だー!!」
レンコン畑にはまり込むアンジー。
アンジーを助けようと、兵士たち(高給取り)が次々にレンコン畑にはまっていく。
「うわーーーーっ!」
「足が、体が、動かない!」
「今日出したばかりの鎧がーー!ピカピカに磨いたのにーーっ!」
「おい!引っ張るな!」
「押すな!押すな!絶対押すなっ!!」
阿鼻叫喚。地獄絵図。
「あんたら、な~にしとるんじゃ~…」
通りかかった農家のおじいさんを驚かせてしまった。
「ご老人!助けてください!死にたくないっ!」
おじいさんは丈夫なロープを持ってきてくれて、それを頼りに何とか這い出ることができた。
◇◇◇◇
「ご老人は私のファンらしくて、なぜかレンコンをプレゼントしてくれたよ」
「なんか…大変でしたね」
「まったくだ。大変な目にあった。私の片足の装備も底なし沼に持っていかれた。ほかにも何人かの鎧の一部が、底なし沼に沈んでいるだろうな」
「大丈夫なんですか?」
ハルマキは心配する。
(レンコンの育成に支障はないのだろうか…)
「ああ、ありがとう。大丈夫だ。なくなった装備はまた買えばいい。それより、全員が無事でよかった。戦場では何が起こるか分からない。きっと若い兵士たちにもいい学びになっただろう。失った装備が、良い肥やしになってくれることを願うよ」
「そうですね。肥やしになるかどうかはわかりませんが、すくすく育ってほしいです」
風呂上がりのアンジーが、腰に手を当てて、牛乳を一気飲みしている。
2人のメイドがアンジーの鎧を洗っている。1人はアケビだ。
ハルマキは、アケビに対し、
(泥で汚れそうな仕事はしないというイメージを持っていたが、アンジーのためならこんな仕事もするんだな)
と思った。
アケビは、まるでアンジーのファンで、特注の装備を手にとっては「ほう。なるほどですねえ。こうなってますか~」と、ちょっと気持ち悪いしゃべり方で、1つずつじっくり見ている。
兵士たちは外で、各々、自分で自分の鎧を洗っている。治安のためには兵士の威厳も大事らしい。鎧をピカピカにするために、水を取り合っている。
夏前の空気に似ていて、太陽が暖かく、風が吹くと少し冷えて。大男たちがはしゃいる。
昼間の水遊びで濡れた手を、ぽかぽかの太陽とそよ風が乾かすような、そんな時間。
アンジーが窓を開けてそれを見ている。
「こう見ると、普通の女の子ですね」
ハムカツが言う。
確かに。剣と鎧を装備していないアンジーを見るのは初めてだ。
窓から入った風が、アンジーの髪と薄手の服を揺らしている。
たぶん、それを、ハルマキとハムカツがアホみたいな顔で見ていたからだろう。
振り向いたアンジーが少し笑った。