表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/29

第6話 無詠唱でぇ!の巻!



「あん?なんだよおっさん」


 この女性は、医療系スキルを持つ、メイドのアケビ・タシー。言動はメイドっぽくないが、仕事的にはとても優秀。


「ア、、アケビちゃん…この人が、手首を痛めているらしいんだ。診てやってくれないか」


 町長がビビりながら言う。


「いくら出す?」


「は?…いくらって…毎月、ちゃんと給料払ってるじゃないか…」


「時間外っ!ナースの仕事は昼間だけの約束だ。…で?いくら出す?」


「やあ。アケビちゃん。この人は私のお客さんなんだ。頼むよ」


「おう、アンジーだ!へへっ。アンジーちゃんの頼みなら仕方ねえ。ほれ、診てやるよ。手、出しな」


 さすがアンジー。






「うーん。ただの捻挫だな。こんなものは怪我のうちに入らん!つまらんっ!痛み止めの薬草をやるから、自分ですり潰して使いな」


 確かに、ここに来るまでに、頭に包帯を巻いた兵士も見てきたし、ハルマキは申しわけない気持ちになった。


「奥にあるからついてきな」


「はい」


 アケビがランプを持ち廊下を進んでいく。ハルマキもそれについて行く。




「アケビちゃんさんは…」


「「さん」いらない」


「…アケビちゃんは、医療スキルを持っているのに、なぜメイドをしているのですか?」


「あのおっさんとは町長になる前からの知り合いで…まあ、いろいろあってね…」


 階段や廊下には明かりがついていたが、薬の置いてある部屋は暗かった。


 薬の位置は把握しているようで、足元だけ照らしてすいすい進んでいく。


「この世界にはなぜスキルがあるのでしょう…」


 ハルマキにとっては、何気ない素朴な質問だった。しかし、アケビは(なんだこいつ、急に哲学的なこと言いだしやがった、めんどくせーな)と思った。


「あんたのスキルは何なの?」


 そう言ってハルマキの顔を照らす。手には薬草が握られている。



「私のスキル…ですか……」


(うーん、やっぱり…ものまね……かなぁ?)


「まあ、しいて言えば、他人になることですかね」


「他人?マジか!スゴイじゃないか!あんたイタコなのか!!」


(イタコ…またイタコか……やはり、イタコがこの世界ではかなり特別な存在のようだ)


「イタコというか、なんというか、うーん、ちょっと見てもらえますか…」



 そう言って、ハルマキはLv.99の表情筋の隅々に神経を巡らせる。それは一瞬だった。



「こんばんは、美山憲二(みやまけんじ)です」



 一瞬で顔も声も変わってしまった。


 

 町長の家のランプは高級でしっかりと周りを照らしている。しっかりとハルマキの顔を照らしている。見間違いではない。顔も声も一瞬で変わってしまった。



 アケビの顔が青ざめている。バケモノでも見たかのように震えながら叫ぶ。





  「む、む、む……無詠唱でぇ~~~~~~~っっ!!」




 驚きすぎて後ろの棚に体をぶつける。何本かのビンが床に落ちて大きな音を立てて割れた。アケビは頭をぶつけたのか、気を失ってしまったようだ。



「アケビちゃん!アケビちゃん!大丈夫ですかっ!」


 ハルマキは


(とんでもないことになってしまった)


 と思った。とても心配をした。本当に心配をした。


 でも、一方で、


(こんなにウケたのは初めてだ)


 と思った。ちょっとだけ思ってしまった。




 大きな音と叫び声を聞いてアンジーたちがやってくる。


「どうしたっ!」


「アンジーさんっ!」


「何があった?!」


「アケビちゃんが棚にぶつかって気を失ってしまって…頭を打っているかもしれませんから、動かさないほうがいいかもしれません」


「なんか嫌なニオイがするな…」


「割れたビンの中に入ってた薬品ですかね…」


 アンジーの部下の兵士を呼び、なるべく頭を揺らさないように気をつけて、アケビを運び出す。


 その途中、部屋を出たところでアケビの目が覚める。


「う…うう…」


「アケビちゃん!大丈夫か!」


「う…ああ、アンジー…どうした?」


「それはこっちのセリフだ」


「私…?うーん?私は……」


 アケビはハルマキの顔を見て


「……フフッ、そんなわけがない…」


 と呟き


「何でもない。ちょっと悪い夢を見てしまった。おい、降ろせ」


 といって兵士の頭を「コツン」と叩く





「これのせいかもな」


 アケビは割れたビンの中に、即効性の麻酔薬を見つけ。


「このビンの蓋が開いていて、それを吸い込んでしまったのかもしれない。だとしたら私の不手際だ。騒がせてすまない…」


 どうやらハルマキの無詠唱ものまねのことは夢だと思っているようだ。夢だと思おうとしているようにも感じる。


 (よく分からない。何も分からない。ただ何か、とんでもない事をしてしまったのかもしれない)


 ハルマキはそう思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ