第31話 アイアンゴーレム。の巻!
「もう歩いていいのか?」
「はい、アケビちゃんが、激しい運動をしなければって」
ハムカツが串カツになってから5日が過ぎた。
あの日から町の医師は大忙しだ。医師の数が足りなくて、軽傷の患者の治療はアケビに回ってきた。本当はダメなんだけど、町長が特別に許可を出した。
アケビ本人が言うには
「ラッキーだよ。腕は私の方がいいからね」
だそうだ。
アケビに治療をしてもらいに来ている町民たちの中には
「いるんでしょ?ここに」
「は?」
「S級様!」
などと言ってくる人が、少なからずいる。アケビもハルマキのために、
「なるべく噂を広めないでほしいと、S級様もおっしゃられております…」
と、言ってくれているが……
「あら、じゃあ私言わないわ。しーっね!」
と、口の前に指を立てて言う。
おそらく、そう遠くないうちに、噂は尾ひれはひれをつけて世界中に広がるのだろう。
少なくとも、この町の人たちはみんな知っている。
パンも出てる。そもそも、あのパン屋がカツサンドを作ったのも、カツサンドラ地区という地名に便乗したもので、今回のS級フィーバーに便乗しないわけがない。
Sの字に曲がってバッグの中でやたらと幅を取るS級パンや、クロワッサンを半分に切り、ホワイトチョコでコーティングして牙の形を模したマザードラゴンパンが作られた。
春巻きをパンにはさんでもよさそうなものだが、どうやらこの世界に春巻きはないらしい。さらに、カツサンドはあるのにハムカツもないそうで、ハムカツがスベった「串カツ」のボケも、スベる以前の問題だったようだ。もう、何が違って何が同じなのか…元の世界と異世界の違いに法則性がなくて困る。
元々人気者だったアンジーにも便乗して、ブリ大根を挟んだアンジーバーガーも作られた。「Sっすジャムパン」というネーミングのパンも作られたが、よく分からないが著作権的な問題で作れなくなったらしい。
その時コック長は、
「食えないだーーーーーーっ!!」
と叫んだらしい。
そんな、バーガーになるほど大人気のアンジーは今、もろもろの報告のため王都に帰還している。
◇◇◇
「国王に謁見してくれるよう、S級様と約束を交わしました」
「おお、でかした」
「ですが、S級様の弟子が怪我をしまして、治るまでブラデを出られません」
「んん、そうか」
「はい」
「いや、そもそも、私がブラデへ赴くべきだろう」
「やめた方がいいです。S級様は目立つことを嫌っておられます。国王が動くとなればそれだけでも噂が加速します。控えてください」
「ああ…そう…」
「この国のこと嫌ってないよね?」
「大丈夫です」
アンジーはS級イタコを見つけたことで褒められると思った…だが、
「ところでお前はなんでこんなところにいるんだ?」
「いや、国王に報告を…」
「馬鹿かおまえは!報告なんかよりもS級様の護衛が大事だろうが!この間抜けが!!」
と、国王に怒られた。
「S級は無詠唱なので護衛はいらないです」
と、反論するアンジー、
「あー、なるほどねー。まあまあまあ…」
国王が大量に汗をかいて焦っている。
「え?今の怒り間違いですよね?」
「まあまあまあ…」
「エルボーしていいですか?」
「いいけど、反逆罪で死刑だよ」
「まあまあまあ…」
アンジーが大量に汗をかいて焦っている。
みたいな無駄なやり取りもあったが、アンジーが王都の来た目的はそれではない。アミーゴ、タケボン、ビケサン、の合同葬儀に出席し、家族に直接報告したかったのだ。
アンジーの王都滞在は2日間で、国王に挨拶をしてブラデの町に戻ることにした。
国王は
「隣国で四天王が城に集められたという情報もある。おそらくS級イタコの噂は広まっている。S級イタコの護衛が不要なのはわかったが、それでも何もしないでは私の気が収まらん」
と言って、B級イタコ1人、C級イタコ1人、イタコ以外で最強の剣士1人の3人の精鋭を用意した。
「今はまだ…」
アンジーがブラデに戻る道の途中でつぶやいたこの間違った言葉を解説すると。
アンジーは悔しい気持ちになったのだ。3人の精鋭が、まるでアミーゴ、タケボン、ビケサン、の代わりのような気がしてしまい、そしてこの3人は強い。死んだ3人よりもはるかに強い。それは認めるしかない現実だ。でもやっぱり悔しかったのだ。それで「今はまだ…」などとつぶやいたのだが、当然、死んだ3人には未来もないし今すらない。
「ふっ……」
と、おバカ発言をした自分に苦笑いをする。
もともと小さなアンジーが、丸まって、さらに小さくなり、馬車の揺れで転がりそう。
◇◇◇
ブラデに戻ったアンジーは、退院したハムカツを見て、
「退院おめでとう」
と言って、変顔をした。
ハムカツは、
(めっちゃカワイイ生き物だ)
と思った。
「やはりまだ笑えないのか」
とアンジーが言う。
「はい、笑うとまだ傷が痛むので」
と言ったが、アンジーの変顔はシンプルに面白くなかった。
ハルマキと、町長と合流し、ハルマキのS級イタコとしての今後について話し合う。
「国王への謁見はしてもらうぞ」
「ええ、まあ、約束ですしね…」
ハルマキは迷っていた。このまま嘘をつき続けていいのか?嘘をつき続けることなどできるのか?
「ちょっといいですか?」
ハムカツが手を上げて、素朴に質問する。
「国王とS級イタコって、どっちが偉いんですか?」
「うーん…」
アンジーと町長が悩む。
「それは…国王ですよね?」
町長がアンジーに聞く。
「いや、うん、そうだね。…一応、国王の方が立場は上だけどね。でもまあ、リアルに考えると…S級イタコかな?やはりS級イタコは特別なんだよ。非現実的というか…」
「そうですね…」
町長も同意する。
「一般的に、国王が目の前を通っても、頭を下げるとか、ひざまずくとか、せいぜい、頭を地面につけるくらいだろうけど…S級イタコが目の前を通ったら、穴を掘ってそこに頭を埋めるくらいのことをしたくなるかもね」
「どんな奇行ですか」
「まあ、ハルマキが、そんなことをされても喜ばないタイプなのは知ってるよ」
「喜ぶタイプの人がいるんですか?」
「実際、国王も緊張していたよ。ハムカツの怪我が治るまで待ってほしいと言ったら、ちょっとほっとしていたし」
(ああ、やはり本当のことを言うべきなのか?でも、これだけ話しが大きくなって、全部嘘でしたなんて言ったら、その瞬間に私は処刑されるのではないだろうか?アンジーさんにだけでも話そうか。…アンジーさんなら味方になってくれる気がする、でもそれは、場合によっては、アンジーさんを共犯者にすることになるかもしれない)
「うーん…」
ハルマキは答えが出なかった。とりあえず、寝る前にロボットダンスの練習だけすることにした。
庭の暗がりでアンジーが座り込んでいる。
「そんな所でウンコしちゃダメだよ」
「おい!女の子が下ネタ言っちゃダメ!アケビちゃん!」
「女子同士だから大丈夫でしょ?」
「もう…」
「……長いよ」
「だからしてないって!」
「そうじゃなくて。落ち込むの長い!隊員想いの隊長なのはわかるけど」
「切り替えなきゃいけないってわかってるけど…」
「分かってるならいいけど」
「でも、今回の事件が起こってしまった原因の一つは、私の醜い恨みの心だから」
「親の仇を恨むのは普通だと思うけどね」
「でも、今回は、そのせいで死んだ人もいる」
「かもしれないって話でしょ?急に町を襲うなんてできないんだから。元々町を襲撃する用意はされていたんだよ。アンジーちゃんがいてもいなくても」
「それを止めるのが私の仕事だ。少なくとも、私が判断を間違えなければ、被害を減らすことはできた。そしてその原因は私の悪い心なんだ」
「顔上げな。みんな誇り高き隊長の下で、誇り高く戦って死んだんだよ」
「なんか同じようなこと言うね」
「誰と?偉い人と?」
「遺族に会ってきたんだ。息子の夢を信じて送り出したけど、でも、もっと反対するべきだったって、自分を責めたりしてるんじゃないかって、思ってた」
「ダメよ。そんなの。勝手に…」
「そうだね。遺族には「顔を上げてください。息子は自分の誇りのために戦いました。顔を上げて胸を張ってください。息子がいるのは、きっと、その先です」って言われた。みんないい人でね。ああ、私はこの人たちから息子を奪ったんだなって…私は全然いい隊長じゃない」
「アハハハ、そりゃそうよ!だからこそ、アンジーちゃんは「僕らの隊長」であり、「僕の隊長」なんだよ」
「どういう事?」
「よくわかんないけど、そういう事!完璧な隊長なぞいない。みんなそうだよ。善人の中に悪の心だってあるし、悪人の中に善の心だってある。普通だよ。まあ、だからって許されるわけじゃないけどね。でもまあ、よくある話だよ。アンジーちゃんはホントいい子だね」
「しっ!……何か聞こえない?」
「え?なになに?」
「なんか聞こえる!なんか聞こえる!」
「ホントだ!かすかに聞こえる!なんか…伝説のアイアンゴーレムが動いているような音…」
「キャーーーーーッ!!」
「キャーーーーーッ!!」
アンジーとアケビが手をつないで走って行く。




