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第28話 勇者。の巻!




 子供たちが泣いている。


 子供たちが笑っている。


 町の中心部から外れた場所に住む子供たちの今日は、少し、花火の音が聞こえて、大人たちが騒がしいだけの日。楽しく遊んでいて、楽しいから笑っている。


 全ての人々がそれぞれの感情で、この町の中で今日を生きていて、そして日が暮れる。眠くなった人は寝る。


 次の日。被害状況が分かってきた。


 金品を奪われた家多数。燃やされた家2軒。ケガ人多数。


 そして、


 8人の町民が死んだ。町長が家々を回っている。


 3人の兵士が死んだ。アンジーが遺体の前で膝をついている。


 周りに部下の兵士たちがいる。


 その中にハルマキもいて、周りにちょっと空間ができている。結果、ハルマキがアンジーの一番近くに立っている。「S級のことは気にしないでください」と兵士たちにも言ってはいたが、さすがに無理らしい。なんとか、気にしていないふりだけしてくれている。


「アミーゴ…タケボン…ビケサン…」


 アンジーが3人の名前をつぶやく。


「アンジーさん…」


 ハルマキはかける言葉を何も持っていなかった。


 アンジーが優しい声で語りだす。


「アミーゴは勇敢な兵士だった。今回も、B級イタコという明らかに格上の敵に対して、一番に戦いを挑んだそうだ。きっと、過去の英雄たちも無謀な戦いに挑んだりしたのだろう。その中で生き残った者だけが英雄になれた。英雄になれず死んでいった戦士たちの中にも、その戦いさえ生き残っていたら英雄になれていた。きっと、そんな戦士たちがたくさんいて、アミーゴもそうだったのかもしれない。いつか勇者と呼ばれたかもしれない。それほど勇敢だった」


 ハルマキからはアンジーの顔は見えない。ただ、声はとても優しかった。


「本当に勇敢だったんだ。アミーゴは……ハルマキは、本気でジャンケンをしたことがあるかい?」


「え?ジャンケンですか?」


「ああ、本当の、本当に、本気のジャンケンだ」


 アンジーの言っているジャンケンが、自分の知っているジャンケンかどうかという若干の不安を抱きつつ。


「えっと、どうでしょう…あったかもしれませんが、ちょっと急には思い出せないです」


 と答えた。


「私はあるよ」


 顔を少し上げて、アンジーが思い出を語りだす。


「その日は隊のみんなで空き地に集まり、ヤーキュボールをすることにしたんだ。本来は9対9の18人でやるスポーツなのだが、その日集まったのが14人で7対7の試合になった。試合は白熱し、私はホームランを打った」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 アンジーがハルマキをチラ見する。


「あ、…す、すごいですね!」


「それはそれは素晴らしかったが、しかし問題が起こった。空地の広さには限界があり、私が打ったボールは塀を超えて、サンダーさんの家に入ってしまった。サンダーさんは怖いおじさんとして有名で、その、怖いサンダーさんの家にボールが入ってしまったのだ。「隊長が打ったんだから隊長が取りに行くべきでは?」という意見もあった。まあ一理ある。しかしだ。ホームランを打つという行為は、このヤーキュボールにおいて、絶対的に肯定されるべきものなのだ。もし、ホームランを打つということにペナルティがついてしまうと、このヤーキュボールという遊びの最大の魅力を潰してしまうことになる。なのでホームランを打つという行為にペナルティを課すべきではない」


 ハルマキは思った。


(これ、何の話?)


「私はこの正論を、こぶしを振り上げてみんなに伝えた。あまりにも完璧な正論でみんなちょっと引いていた。だから私は言った。

「ジャンケンだ!ジャンケンで決めよう」

すると

「え?え?隊長、取りに行かない気ですか?」

と言ってきたので、

「もちろん私もジャンケンには参加する。私が負けたら私が取りに行くよ。まあ、私が負けたらね」

そして命がけの本気ジャンケンが始まり、

結果、

私が負けた。

私は「行きたくない」と駄々をこねた。

なぜなら怖かったからだ」


 そう言って、アンジーはハルマキの方を向いて微笑む。


「ア…アンジーさん、その過去一さわやかな表情合ってます?」


「するとアミーゴが「私が行きましょうか?」と言ってきた。

私は、

(なんて勇敢な男だ)

と思った。

「行きたいのか?」

と私が言うと

「いや、行きたくはないです」

と答えたので

「違う違う。待って。でも、まあ、行ってもいい感じではあるのか?」

と聞くと

「隊長がどうしても行きたくないというのであれば…」

やはりアミーゴは勇敢だった。私はその気持ちにこたえなければいけないと思った。だから私は、私の気持ちを、ちょっとだけかっこいい感じにして答えた。

「私は怒られるのが嫌で、どうしても行きたくない。そんな気持ちになるのさ。『どうしても行きたくない』ってこんな気持ちなんだな…なんて思っている。私は私の胸の中にある『どうしても行きたくない』に気づいたんだ」」



「アンジーさん。めっちゃダサいです……」


「アハハハハ」


(兵士たちがちょっと笑った。ウケた!)


 アンジーが話を続ける。

「サンダーさんの声が辺りに鳴り響いた。「どういうつもりだ!」「いい年をして!」「国民の鉢植えを壊す奴に国が守れるか!」「責任者は誰だ!」などと怒鳴っている。私は、

(責任者って私だろうか?)

と思ってドキドキした。

アミーゴは、私の名前を出さず、鉢植えの弁償をして、見事にボールを救出した。

「鉢植えの弁償、経費で落ちるかもしれないから、領収書貰ってくれば?」

と、私が言うと

「さすがにブチギレられます」

と言った、私だったら貰ってきたので、この点では私の方が勇敢だったろう」


「勇敢と命知らずは違いますよ、アンジーさん」


「アハハハハ」


(ややウケた)


「私は代償としてジャンケン権利をアミーゴにプレゼントした。

ジャンケン権利を使うタイミングはすぐに訪れた。ほかの隊で死者が出たため、給食のプリンが余ったのだ。

いわゆるプリンジャンケンである。その権利をアミーゴに譲ったのだ。つまり私が勝ったとしても、そのプリンはアミーゴのものとなる。ちなみにこの権利は私が負けた時でも消費される。外れくじにもお金を払っているのと同じ。

しかし、こんな時に限って私は勝つ。

(まじかー)

と思ったし

「まじかー」

と言っていた。アミーゴにも聞かれた。謎のほほえみで私を見ていた。

2個目のプリンは、きっと、さらに甘かっただろう。

困難に立ち向かい、勝ち、そして宝を手にして帰還する。それが勇者の王道ストーリ。まさにそういう話だ。


「めっちゃしょうもない話じゃないですか。特にアンジーさんが……」


「アハハハハハハハ」


 兵士たちが笑っている。


(ウケたウケた)


「アハハ…」


 アンジーも笑っている。


「でも、アミーゴさんが常識人なのは伝わってきました」


「うん…良かった」







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