第24話 恋せよアミーゴ。の巻!
「今の戦力では盗賊団に勝てない。町民を退避させろ!」
町長の指令で若い兵士たちが町を走り回る。
「アンジーさんに連絡!隣町にも応援を要請しろ!」
「どちらも、往復で2時間以上かかります」
「分かっている」
「今いる戦力では2時間なんて持ちませんよ」
「分かっているっ!」
ベテラン兵士と町長が言い合っている。2人とも余裕がない。2人ともわかっているのだ。もう詰んでいる。
「分かっているが、それでも、どうにかするんだっ!!」
何かアイデアがあるわけではない。ただ、町長という立場の人間として、そう言わなければいけないというだけ。あきらめたらそこで、皆殺しだ。
ハルマキの親指と人差し指にチョコレートがついている。歯型のついたチョコチップクッキーを、ずっと持っているからだ。食べるタイミングがない。というか、もう、持っていることすら忘れている。ハルマキはおろおろして、歯型のついたチョコチップクッキーも、同じように右往左往している。
ハルマキは、もう、しゃがんじゃいそうだったが、ハムカツは立っていて、
「何か手伝えることはありませんか」
と、町長に言った。
「お二人は、メイドたちを連れて町の外へ逃げてください」
ハムカツは立ちつくした。町長の言葉には芸人風情がしゃしゃり出てくるな、と言う意味もあったと勝手に感じ取った。
町に警鐘が鳴り始めた。
ベテラン兵士が、今いる兵士たちを集めて、町長と一緒に町へ出て行く。
町はざわついていた。家に閉じこもるもの。町を出ようとするもの。そして、町長を頼って集まってくるもの。
そこに町長が現れ、拍手で迎えられる。人々は、先日、見事に盗賊を成敗したA級イタコの登場を期待した。
町の緊張感の中で、拍手は一瞬で収まり、町長がしゃべり始めようとしたとき、
「知らない顔だ…」
集まってくる人々の中に、急にポツンと違和感が現れた。
違和感は、軽い鎧を身に着け、細い剣を持っている。
「あの男は、いつからあそこにいたんだ」
「分かりません…」
町長にもベテラン兵士にも見えていなかった。若い兵士が言うには、
「人々の間に残像のようなものが見えて、気づいたらあの男が立っていました」
だそうだ。さらに、
「あれは人間の動きを超えていました。おそらく…」
「イタコか…」
◇◇
「雑貨屋『イカノ』の奥に近道があるから、そこから逃げよう」
メイドたちが話し合っている。
「あの獣道は雑貨屋のテプラさんの家の敷地内にあって、親戚とか知り合いしか使っていないらしいから、盗賊に会う危険もないと思うし」
「どうかな、シルバーオクトパスが、町を襲う前に徹底的に下調べをするってのは、王都では常識だよ。便利な近道なら、盗賊たちだって使うかも…」
話し合いの中心にアケビがいる。
町長に言われたとおり、ハルマキたちも一緒に逃げた方がいいのだろう。だが、ハムカツはまだ剣を握りしめている。ちなみに、ハルマキのチョコチップクッキーはいつの間にか食べられていて、それがこの後のハルマキの絶望につながる。
「師匠。僕行きますね」
「はぁ?………はぁっ?本気か?」
「どうせ死人の夢ですから」
前と言ってることが違う。前は「生き延びる」と言っていたのに…。
ただ、どちらの言葉も、前向きに進んでいくための言葉なのは同じだった。
「待って…私も行く」
ハルマキは急激に一人になるのが怖くなった。今もそうだし、今を生き延びたとして、今後のこの世界を一人で生きていくことも怖くなった。ハルマキももう、孤独死を考えるお年頃なのだ。
ハルマキは、震えながらハムカツの後について行く。
それを見たアケビは、メイドたちに、なるべく安全と思われるルートを指示し、
「3人だけで逃げられるよね」
「アケビちゃんは?」
「私は大丈夫だから!早く逃げな!」
と言って、ハムカツたちを追いかける。
ハムカツたちが外に出てくる。
町長がいて、兵士たちがいて、町の人々が集まっていて、そして悲鳴が渦巻いている。
「町長!僕も戦います!状況は?!」
「なんで来ちゃったんですか…状況は最悪ですよ」
取り囲む人々の真ん中に、2人の人間がいる。1人は立っていて、1人は寝ている。
取り囲むというよりも、(恐怖から逃げたい、でも、その為にも現状を確認しておきたい)人々のそんな思いの結果。その恐怖を取り囲むような、大きな輪ができているのだ。
その中心に立っている男の細い剣には血がついている。そして、
「アミーゴさん!」
寝ている1人はアミーゴで、ピクリとも動かない。
立っている男は剣を振り、血を払い、ニヤニヤと笑っている。とてつもなく不愉快で気持ちが悪い。
(あ、もう、アミーゴさんは全部終わったんだ)
と、ハムカツは思った。
さっき「剣を持つ姿が美しいですね」と言って褒めてくれたアミーゴには、この先はもう、何もないのだ。……恋も、しないのだ。
「もう、そこで、これから、ずっと、動かな…」
ハムカツは、吐き気で喉の奥が熱くなった。
その場所には絶望しかなかった。
みんなそう思った。
でも、ハルマキはわかっていた。この事態を何とかできるかもしれない人物がいる。
「恐ろしいことに、それは私だ」
汗が吹き出し、膝が震える。
「さっきまで、おやつを食べていたんだ。甘かったし、小さな虹も見えていた」
うかつに「アンジーについて行く」などと言った、あの時の自分をバカだと思う。
(怖い……)
甘いお菓子の糖分は、脳を動かし、絶望的な現実を理解させる。
「私しか、いないのだ」
町長がつぶやくように言う。
「あの男はイタコです。もしかしたら、シルバーオクトパスに3人いるB級イタコの1人…」
立っている男が、こちらに向かって歩き出す。ニヤニヤ笑いながら言う。
「こんばんは、アグパヌです」




