表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/33

第24話 恋せよアミーゴ。の巻!





「今の戦力では盗賊団に勝てない。町民を退避させろ!」


 町長の指令で若い兵士たちが町を走り回る。


「アンジーさんに連絡!隣町にも応援を要請しろ!」


「どちらも、往復で2時間以上かかります」


「分かっている」


「今いる戦力では2時間なんて持ちませんよ」


「分かっているっ!」


 ベテラン兵士と町長が言い合っている。2人とも余裕がない。2人ともわかっているのだ。もう詰んでいる。


「分かっているが、それでも、どうにかするんだっ!!」


 何かアイデアがあるわけではない。ただ、町長という立場の人間として、そう言わなければいけないというだけ。あきらめたらそこで、皆殺しだ。


 ハルマキの親指と人差し指にチョコレートがついている。歯型のついたチョコチップクッキーを、ずっと持っているからだ。食べるタイミングがない。というか、もう、持っていることすら忘れている。ハルマキはおろおろして、歯型のついたチョコチップクッキーも、同じように右往左往している。


 ハルマキは、もう、しゃがんじゃいそうだったが、ハムカツは立っていて、


「何か手伝えることはありませんか」


 と、町長に言った。


「お二人は、メイドたちを連れて町の外へ逃げてください」


 ハムカツは立ちつくした。町長の言葉には芸人風情がしゃしゃり出てくるな、と言う意味もあったと勝手に感じ取った。


 町に警鐘が鳴り始めた。


 ベテラン兵士が、今いる兵士たちを集めて、町長と一緒に町へ出て行く。



 町はざわついていた。家に閉じこもるもの。町を出ようとするもの。そして、町長を頼って集まってくるもの。


 そこに町長が現れ、拍手で迎えられる。人々は、先日、見事に盗賊を成敗したA級イタコの登場を期待した。


 町の緊張感の中で、拍手は一瞬で収まり、町長がしゃべり始めようとしたとき、


「知らない顔だ…」


 集まってくる人々の中に、急にポツンと違和感が現れた。


 違和感は、軽い鎧を身に着け、細い剣を持っている。


「あの男は、いつからあそこにいたんだ」


「分かりません…」


 町長にもベテラン兵士にも見えていなかった。若い兵士が言うには、


「人々の間に残像のようなものが見えて、気づいたらあの男が立っていました」


 だそうだ。さらに、


「あれは人間の動きを超えていました。おそらく…」


「イタコか…」



◇◇



「雑貨屋『イカノ』の奥に近道があるから、そこから逃げよう」


 メイドたちが話し合っている。


「あの獣道は雑貨屋のテプラさんの家の敷地内にあって、親戚とか知り合いしか使っていないらしいから、盗賊に会う危険もないと思うし」


「どうかな、シルバーオクトパスが、町を襲う前に徹底的に下調べをするってのは、王都では常識だよ。便利な近道なら、盗賊たちだって使うかも…」


 話し合いの中心にアケビがいる。


 町長に言われたとおり、ハルマキたちも一緒に逃げた方がいいのだろう。だが、ハムカツはまだ剣を握りしめている。ちなみに、ハルマキのチョコチップクッキーはいつの間にか食べられていて、それがこの後のハルマキの絶望につながる。



「師匠。僕行きますね」


「はぁ?………はぁっ?本気か?」


「どうせ死人の夢ですから」


 前と言ってることが違う。前は「生き延びる」と言っていたのに…。


 ただ、どちらの言葉も、前向きに進んでいくための言葉なのは同じだった。


「待って…私も行く」


 ハルマキは急激に一人になるのが怖くなった。今もそうだし、今を生き延びたとして、今後のこの世界を一人で生きていくことも怖くなった。ハルマキももう、孤独死を考えるお年頃なのだ。


 ハルマキは、震えながらハムカツの後について行く。


 それを見たアケビは、メイドたちに、なるべく安全と思われるルートを指示し、


「3人だけで逃げられるよね」


「アケビちゃんは?」


「私は大丈夫だから!早く逃げな!」


 と言って、ハムカツたちを追いかける。





 ハムカツたちが外に出てくる。


 町長がいて、兵士たちがいて、町の人々が集まっていて、そして悲鳴が渦巻いている。


「町長!僕も戦います!状況は?!」


「なんで来ちゃったんですか…状況は最悪ですよ」


 取り囲む人々の真ん中に、2人の人間がいる。1人は立っていて、1人は寝ている。


 取り囲むというよりも、(恐怖から逃げたい、でも、その為にも現状を確認しておきたい)人々のそんな思いの結果。その恐怖を取り囲むような、大きな輪ができているのだ。


 その中心に立っている男の細い剣には血がついている。そして、


「アミーゴさん!」


 寝ている1人はアミーゴで、ピクリとも動かない。


 立っている男は剣を振り、血を払い、ニヤニヤと笑っている。とてつもなく不愉快で気持ちが悪い。


(あ、もう、アミーゴさんは全部終わったんだ)


 と、ハムカツは思った。


 さっき「剣を持つ姿が美しいですね」と言って褒めてくれたアミーゴには、この先はもう、何もないのだ。……恋も、しないのだ。


「もう、そこで、これから、ずっと、動かな…」


 ハムカツは、吐き気で喉の奥が熱くなった。


 その場所には絶望しかなかった。


 みんなそう思った。



 でも、ハルマキはわかっていた。この事態を何とかできるかもしれない人物がいる。


「恐ろしいことに、それは私だ」


 汗が吹き出し、膝が震える。


「さっきまで、おやつを食べていたんだ。甘かったし、小さな虹も見えていた」


 うかつに「アンジーについて行く」などと言った、あの時の自分をバカだと思う。


(怖い……)


 甘いお菓子の糖分は、脳を動かし、絶望的な現実を理解させる。





「私しか、いないのだ」





 町長がつぶやくように言う。


「あの男はイタコです。もしかしたら、シルバーオクトパスに3人いるB級イタコの1人…」


 立っている男が、こちらに向かって歩き出す。ニヤニヤ笑いながら言う。




「こんばんは、アグパヌです」

 








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ