第18話 大失敗!! の巻!
ハルマキがイスを引く。
心の中のハルマキは、戦士の顔をしている。だがそれを表に出すことはできない。
(自分は何も知らないおじさんだ。素のおじさん。生まれたてのおじさんだ。そういうものまねをするのだ)
ハルマキは、何も知らない顔をして、自分の体重をイスに落としていく。
(意識をしっかり保たねば、気を抜けば一瞬で重力に体を支配され墜落してしまう)
クッションがハルマキの尻を触る。
いよいよ始まるのだ。おならを鳴らすことに魂を掛けた男と、普通のクッションとの戦いが…。
(ハムカツよ。目を開けろ。私は師匠だ。お前の師匠だ!しっかりと見ておくのだ!)
ハルマキの体幹は、ゆれる馬車の中で空気椅子ができるほどに強い。ものまねのパフォーマンスに必要だからだ。その体幹を使い、コントロールされたスピードで体を下げていく。
(まだか、まだなのか!もうだいぶ下げたはずだぞ!うなれ尻よっ!!)
ハムカツも必死に無表情を貫いている。体に力はなく、顔からはすべての感情が消え去っていて、もはや、逆に不自然!
1ミリまた1ミリと沈み込むほどに、ハルマキの心は不安にとらわれていく。
ハルマキの尻センサーが嫌な感触を検知した。
(これは……クッションの下にあるのイスの硬さ…なのか?)
予感は徐々に確信に変わっていく。そしてハルマキも、全ての体重をイスに乗せ切った。屁は……鳴らなかった…。
……負けた。
そこに絶望の景色があった。大の大人が2人並んで、屁をせずに座っているのだ。
情けない。
世界は虚無に包まれた。
(本当ならばここで「大成功!」と言って人々が飛び出てきたのだろう。その人々は、ワクワクの心で2発の金色の風を待っていた。だが鳴らなかった。今は出てくるタイミングを失って、この部屋の中、または、近くのどこかに背中を丸めて隠れているのだろう。音を出せないため息は、丸まった背中をさらに小さくさせただろう。同じ絶望を共有する、丸まった者達がここに何人もいると思うと、その姿を想像し心が熱くなる。申し訳ない。申し訳ない)
2人の瞳から零れ落ちた小さな消臭力の中身が、音も臭いもなく、ほほを流れてゆく。
「どうしたんだ?」
アケビが驚く。
「いいえ、私たちは嬉しいのです。こんな私たちにクッションを用意してくれた。うまくいかないこともあるが、想いは受け取りました」
ハルマキはかろうじてそう答えた。
アケビは思った。
(は?想い?)
「まあいいや、じゃあ、鑑定士さんお願いね」
「ふっ…行政たちが、オレを使役する」
なんかちょっと…クセの強い鑑定士のようです。
虚無の世界に包まれているハルマキとハムカツのスキル鑑定が、勝手に始まった。
アケビがウズウズしている。
「おっさん、まだか?」
「まだだし!見えるの待ーてメイド!」
部屋の外が少し騒がしい。
「ババーーーーンッ!!!」とドアを開けてアンジー登場!!
「キャーーーッ」
と、アケビが驚く。意外とかわいい。
「ど~いうことかな~。アケビちゃん」
「ひぃ~~~~~ぃ」
アケビは、アンジーが予想以上に怒っているので超びびった。
アンジーの、笑顔のように見えるその表情の奥の顔は、怒りマークで埋め尽くされている。
アケビは、アンジーにだけは怒られないように気をつけていた。なぜなら、アンジーくらいしかアケビを怒れる人がいないからだ。
(いったいどこに地雷があったのだろう?)
アケビは後悔しながら考える。
「とりあえず一旦、全員この部屋出て!隣部屋で恐怖の説教タイムだ!鑑定士さんも!」
とばっちりで怒られた鑑定士も含め全員が部屋を出る。
無人の部屋。
机の上に水晶玉が残されている。
水晶玉に2つの言葉が浮かび上がる。
「剣聖」 「詐欺師」
水晶の文字は、1分ほどで消えた。