表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/32

第17話 ドッキリ! の巻!



「こんちわー」


 急にアケビがやってきた。


 コンコン。


 ドアを開けてからノックをした。


「どお?怪我なんかしてない?」


「こんばんは。ええ、大丈夫です。我々なんかより、あの兵士さんたちは大丈夫なんですか?」


「ああ。大丈夫、大丈夫。想定内の大怪我だから」



◇◇



 アンジーとメイドたちが話している。


「練習終わったんだ」


「はい、今日は終わりです。もう、練習から楽しいです」


 青春だ。


「それは良かった」


「アンジーさんはお仕事終わったんですか?」


「うん、お仕事というか、後処理だけどね。大体終わったよ。あとは鑑定士の到着を待つだけ。スキル鑑定だけでも夕食前に終わらせちゃいたいんだけど」


「たぶん大丈夫ですよ。この町の鑑定士は、町長が見つけてきたご自慢の鑑定士で、早いですよ!一度に2人のスキル鑑定をできちゃうんです」


「凄いじゃん!やるね、町長さん」


「さらに、この町に来てもう5年以上たつのに、スキル間違えが0件なんです」


「なんと!それほどの鑑定士だったら、王都で相当稼げるだろうに。」


「この町を気に入ってくれたみたいで、今のところ出ていく予定はないみたいです」


「なるほど、確かにこの町の人々は楽しそうだ。いい町なんだね」


「はい!」


「町長さんが優秀なんだね」


「はい!」


「でもストはするんだね」


「はい!」





「あれ?そういえばアンジーさん…取り調べに行かないんですか?」


「いや、鑑定士を待っているんだよ」


「スキル鑑定士だったら監獄に到着したって、アケビちゃんに報告しましたけど」


「えっ?あれ?アケビちゃんは?」


「アケビちゃんは、ちょっと前に、旅芸人の2人を連れて外出しましたよ」


「え?…なんか。いやな予感!」




 ◇◇◇◇



 15分ほど歩いた場所に、この町の監獄がある。今の町長が来る前の町は荒れていて、一番立派な建物が、このカツサンドラ監獄だった。そこに隣接された取調室でスキル鑑定が行われる。


 部屋には、アケビ、ハルマキ、ハムカツ、そして鑑定士の4人がいる。


「こんばんは、ハルマキです」


 訳も分からないので、とりあえず鑑定士に挨拶をする。


 部屋の真ん中に机があり、机の上には水晶、あるいは消臭力の中身のでっかいやつが置いてある。たぶん水晶だろう。


 イスが2つ置いてあり、向かいに鑑定士が座っている。


「さ、さ、さ、とりあえずここに座ってよ」


 アケビが言う。明らかに怪しい。ニヤニヤしている。


 イスの上には小さなクッションが置いてある。


 ハルマキとハムカツが顔を見合わせて、小声で話す。


「師匠、これは、まさか…」


「ああ、そうだ…ブーブークッションだ!」


「今どきブーブークッションですか?」


「この世界では最新なのだ」


「要するに、ドッキリということですよね」


「そうだ。アケビちゃんが、我々芸人の見せ場を用意してくれたのだ。ありがたい。その想いにこたえたい。今こそ芸人魂を見せる時だ」


 先にネタばらしをするが、これはブーブークッションではない。ただの普通のクッションだ。アケビが隣の部屋から来客用のイスを持ってきただけだ。


「緊張しますね」


「ブーブークッションで地獄を見たものは多い。だが慌てることはない。いや、慌ててはいけないのだ」


「平常心ですね」


「そうだ。慌てて勢いよく座った結果、ブーブークッションが破裂してしまうという最悪のケースもある。だからと言って不自然にゆっくり座るのも興ざめだ。あくまで自然に、でもゆっくりとだ」


「同時に座った方がいいですよね」


「それはそうだ。せっかく2つ用意してくれたんだ。一人だけ先に行っては、もう一つが無駄になる」


「そうですね」


 ハルマキは目をつぶり、想像する。


「いや…違う!すまん、お前が先に行ってくれ」


「私だけ先にですか?」


「そうだ。そして私が、お前が屁をしたことを疑う。何なら少し怒る。そして、その後、私も屁をしてしまうという展開にしよう」


「なるほど、それならば2度ドッキリを味わえますね……でも待ってください。おならをしたのに臭いがないっていうのは不自然じゃないですか?師匠が僕の屁を疑っているときに、僕に「だって全然オナラの臭いしてないじゃないですかー」って言われたら論破じゃないですか」


「確かに…そこには気づかないことにするのは不自然か…うーん、何か、においを消してくれるものでもあれば…」


 ハルマキが机の上に視線を移す。そこに水晶が置いてある。


(で、で、で、でっかい消臭力ーーーーーーーっ!!!)


「見ろ!ハムカツ。でっかい消臭力の中身だ!あれのせいで臭いが消されたということにしよう!」


「き、奇跡だ…」


 もう一度言うが、イスの上のクッションは普通のクッションである。


「大抵は音は鳴ってくれる。だが、まれにブーブークッションの不具合で無音になってしまうことがある。これはもう、芸人的には死を意味する。天に見放されたと思うしかない。ショックだろう…だが、平常心を保たねばならない、普通に座れたことに驚くのは明らかにおかしい。まだ私のブーブークッションが残っているのだ。平常心でその時を待て」


「はい…ところで、向かいに座っている人は誰なんでしょう」


「あれは多分、屁をこかれて、嫌そうな顔をする役の人だ」


「なるほど」


「じゃあ、いくぞ!」


「はい!」




 ハムカツはイスを引き、わざとらしくない程度にゆっくり座る。


 尻の感覚でクッションに触れたことを察知する。


(ここからが勝負だ)


 ハムカツの上半身が一定のスピードで下がり下敷きのクッションを潰していく。しかし全くオナラの音が鳴らない。なぜなら、普通のクッションだからである。


 絶望の汗が一気に背中を濡らしていく。しかし、それを顔に出してはいけない。


(いやだーーーーーっ!!音よ鳴ってくれ!いやだっ!いやだっ!誰か助けてっ!なぜ鳴らないんだーーーーーっ!!!)




 ………終わった。



 全ての体重をイスに預け終えた。オナラは鳴らなかった。


(今、一人の芸人が死にました。お母さん、私は無力です。)


 ハムカツはロボットのように無の感情で、ただ、前を見続けた。涙を流すことすら許されず。



(天はわが弟子を見放した…)


 ハルマキもまた、涙を流すことができない。涙はダムのように心の中だけにため込まれ、危険水位に達している。


 ただ前を見て座るハムカツの背中が、陽炎のように揺らいで見えた。


 ハムカツの熱い汗が湯気になったのか。ハルマキの心のダムが、その瞳を潤ませたのか。とにかく、2人の心に余裕はないようだ。


(急ごう。弟子のかたき討ちだ)



 ハルマキが動き出す。2人分の想いを込めた屁を鳴らすために。










 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ