第15話 大きな話。の巻!
戦闘中の声や物音が聞こえたのだろう。怪しい家の近くに残してきた2人の兵士たちが走ってきた。
どんな物音が聞こえたのだろう。剣が鎧を叩いた音か?大岩が地面に落ちた音か?
「こんばんは!」
2人の兵士が言う。
「おう、こんにちは。来てくれたのか」
アンジーが出迎える。
「どういうことですか?これは…」
それは異様な光景だったろう。現場の様子から、激しい戦闘が行われたのはわかる。だが、気絶しているものも含め、みんな、ちょっと薄ら笑いなのだ。
そう、笑顔の魔法がまだ少し残っているのだ。
そんな笑顔を見た2人の兵士は
(怖っわ!)
と思った。
「正直油断していた。私の失態だ。探索すると言っておきながら、心のどこかでどうせ国外に逃亡していると、決めつけてしまっていたのだろう。そのせいで仲間に怪我を負わせてしまった」
「隊長、1つお聞きしてもよろしいですか?」
「なんだ?」
アンジーに質問をしようとした兵士の腕をつかんでもう1人の兵士が小声で言う。
「待て、おまえ、本当にそれを聞くのか?」(小声)
「聞くさ、お前だって気になっているだろう」(小声)
「だが俺は怖いぞ。聞かないほうがいいんじゃないのか?怖いことになる気がする」(小声)
「いいや、聞く。わからないことは聞いた方がいい」(小声)
「隊長」
「ん?」
「なんで、薄ら笑いなんですか?」
「ふっ………魔法さ」
「…ほら」(小声)
「ごめん」(小声)
「聞かない方が良かっただろ」(小声)
「うん」(小声)
「笑顔の…魔法だよ…」
「ほら~」(小声)
「ごめんて…」(小声)
「ああ、やっぱりそうですか」
と、兵士がアンジーに言う。
「どうした。急に」(小声)
「合わせるしかないだろ」(小声)
もう一人の兵士も。
「魔法……確かに、なるほど、すごい…」
「………」
「………」
2人は一旦、忘れることにした。
その兵士たちがタコヤキ団の残党をきつく縛りあげる。取り調べ班の報告では、捕まってない残党は5人。つまり、今縛り上げた奴らで全員ということになる。
だが油断は良ろしくない。早くみんなと情報を共有せねば。1人の兵士はその場に残って見張りを。もう1人はアンジーを護衛しながら集合場所に戻ることになった。
集合場所にいた別の班の兵士たちに状況を説明し、動けない兵士やタコヤキ団残党の回収に行ってもらった。
アンジーとハルマキたちは、兵士たちに聞こえないように、少し離れた場所で今後の話をする。
アンジーとしては、お忍びの旅というハルマキたちの事情にも配慮しつつ、しかし、知ってしまった以上、そのまま何もせずに別れるというわけにもいかない。
「S級イタコに出会っておいて何もしなかったとなれば、私が後でどれほどの罪に問われるのか…想像もできない。一旦、私と一緒に帰ろう、ハルマキ」
ハルマキは悩んだ。
(もう一度ウケたい……。あれだけのウケ方をしたことがない。自分のパフォーマンスで、その場がひっくり返るほどのリアクションをもう一度浴びたい。あれだけのウケ方が約束されているこのフォーマットを崩すのはもったいなすぎる。だが、それはアンジーさんを騙す行為だ。謙虚に生きるという自分の生きざまにも反している。)
やはりハルマキは、ものまね以外は不器用な人間だ。自分の性格に合わないことで喜び、それを職業にしてしまった。
一見、落ち着いていて、しっかりとした意志を持っている、パリッとしたお堅いベテラン芸人のように見えるが、それは表面だけで、中身はトロトロでいろんな迷いがドロドロにつまっているのだ。
(ああ、でも、私はあの瞬間のために生きてきたのではないだろうか。それほどウケた。一度くらいわがままを言っていいのでは?今まで謙虚に生きてきたのは、この一度のわがままを言うためではないだろうか?)
ハルマキはそう言って自分を騙してみた。そして騙せた。
「我が国、ホイケンティア王国はけして強い国ではない。はるか昔には『世界の中心』とまで言われた伝統国なのだが、それも、単に保有してたイタコの数が他国よりも多かったというだけで、特別な産業や特産物があるわけじゃない。私もこの国最強なんて言われるが、それは私以外にA級イタコが存在しないというだけ。隣国は、領土も広く、人口も多い、さらに四天王と呼ばれる4人のA級イタコがいる。今はもう、隣国との国力のバランスが崩れている。これはとても危険な状態なんだ」
アンジーがハルマキを見つめる。
「でも、もし、我が国にS級イタコがいれば、両国のバランスはとれて、問題は一気に解決する。世界は平和になるんだ」
ハルマキは震えていた。
(話が大きすぎる。国を変える?世界を平和にする?それは、なんて大きな話。それは、なんて大きなリアクション…)