第14話 ハイタッチ➂ の巻!
(目の前のアンジーさんはやはり小さい)
アンジーがめいいっぱい右手を伸ばす。
それを見たハルマキも、しかたなく目一杯に右手を伸ばす。
(死ぬほど緊張する。ああ、生きた心地がしない)
ハルマキが特に高身長というわけではないが、それでも、手をまっすぐ伸ばした状態の2人の高さには、かなりの差ができている。
(情けない話だ。この差を見て、アンジーさんが諦めてくれるのではないかと思ってしまった。しかし、それはアンジーさんの敗北を意味し、絶望や劣等感などからトラウマとなり、いつか、それを遺言書に書くことになるのではないか)
アンジーがハルマキを見ている。アンジーのただのピュアな目が、レーザーのように心臓を焼く。
(まごうことなき不審者の私たちを受け入れてくれて、とてつもなくお世話になったアンジーに、そんな思いをさせてはいけない)
ハルマキは右手の位置を、ゆっくり、ゆっくり、少しずつ、少しずつ下げていく。
アンジーはそれを「待ちきれん!」とばかりにニヤリと笑い。軽く沈み込んだ後に、高く跳び上がった。
鎧も着ているので、実際はそれほど高く跳べたわけではないが、ハルマキの脳内ではウルトラマンが飛ぶ時の「シュワッチ」の声が聞こえるほどで、一瞬、M78星雲の方をチラ見した。
一生懸命に跳び上がったアンジーの手が、ハルマキの右手に近づいていく。
なんだか、子供の頃の体力測定を思い出す。
垂直跳びの装置が体育館の壁に取り付けてあって、保健委員がその黒板を下げて、『黒板消し』でチョークの跡を消している。
正確には『黒板についたチョーク消しだが』あのチープなアイテムで黒板を消せると豪語する方がロマンがあるので良しとする。
いくら大口をたたいても、そのアイテムに黒板を消せるほどの能力があるとは誰も思っていない。もし、そんな能力があったら、そうとう高額だし、そうとう高額だとしたら、あの騒音を出す四角い機会に、あんなに雑にグリグリ押し付けたりしない。あんなにもグリグリと…。
チョークの跡を消すとき以外は、黒板は決まった位置で固定され、バスケ部の生徒が、その黒板の上ギリギリのあたりにチョークの跡をつける一方、黒板にも届かず、その下の体育館の壁を、ピンクや水色のチョークの粉が汚していたりもする。
運動神経の悪いハルマキも、さすがに黒板まで届かないということはなかったが、あの場に立つと、毎回(ヤバイ、高い)と必ず思った。
さてさて、アンジーの記録は…。
アンジーの手がハルマキの手に近づいて、そのまま降りていく。
(ま、まさか…失敗っ!?ま、ま、ま、ま、まずい!トラウマだ!遺言だ!アンジーさんの心を傷つけてしまった。私がもっと早く手を下げなかったせいだ)
アンジーはハルマキの右手を下げさせて、左手を上げさせる。
ハルマキの右袖から包帯が見えている。薬草が効いていて痛みはなく、ハルマキも忘れていた。
ハルマキが挙げられた左手を少し低くする。
アンジーはそれを妨害して、「やってやるぞ」と言いたげな、いたずらっ子のような笑顔で、高いままの左手にハイジャンプタッチをした。
大成功だった。
微妙な間が開いてハルマキが言う。
「ヤッホー」
ハイタッチの「バチンッ」という音が空に昇っていき、か細いハルマキの声がそれを追いかける。
「はあ」
生き延びて見る空は青かった。