第12話 ハイタッチ① の巻!
小さな手だ。
勝利の歓喜。それをつかみ取ろうと、天空に突き上げられたアンジーの右手。ハムカツはその右手とハイタッチをした。
(なんというスピードと正確性だろう。あの小さな手が中心からズレることもなく、適切なスピードで、でもなるべく勢いよく…)
ハルマキはわが弟子の、見事なハイタッチに称賛を送った。
アンジーの体は、オルゴールの上のキリキリと動く人形のように動き、その向きをハルマキに向けて、視線もロックオンしている。
次はハルマキの番だ。
(あの小さな手。まるで針の穴に糸を通すかのようではないか)
ハルマキは、振り上げられた小さな手に、押し潰されそうなほどの圧力を感じていた。
(適切なスピードとパワーでなかったり、手の中心を外してグニャリとなったり、まして空振りなんてしてしまったら…勝利をたたえる最高の瞬間が台無しになってしまう……)
ハルマキの額に冷や汗がジワリと浮かぶ。
そう、ハルマキは、今までに一度もハイタッチをした経験がないのだ。
そんなノリやテンションの生き方をしてこなかった。
休み時間にこっそり先生のものまねをして(ひょっとしたら人気者になれるかも)なんてことを妄想しながら小学、中学の9年間を過ごし、結局それを披露することはほとんどなかった。
一度だけ。
たった一度だけだが披露したことがある。
放課後、男子女子が数人ずついる前で、先生のものまねをして、みんな笑った。ハルマキはそれが嬉しくて、その感動は今でも覚えている。
しかし、そんなことをするキャラだと思われていなかったので、みんな何か、薄気味悪さのような感情を引きずっていて、笑い切れていないような、いびつさも感じていた。
そのせいか、翌朝、登校したハルマキが人気者になっていて、クラスメイト達が集まり輪を作る……なんてことはなく、ハルマキは静かに自分のイスに座った。
もしあの時、イスに座ってしまう前に、「昨日のものまねさあ…」と、みんなに話しかけていたら…その後の学校生活は変わっていたのかもしれない。
学生時代に人気者になる最初で最後のチャンスだったのかもしれない。しかし、ハルマキはイスに座った。今までと同じ場所に座ってしまった。
(あの時、みんなと昨日の話で盛り上がって、ハイタッチの一つもしていれば…)
今までの人生で何度も、そんなことを思った。
それでもやはり、今よりもずっとシャイだったあの時のハルマキ少年には、自分のからを破る2日分の勇気はなかった。
そんなハルマキだ、ハイタッチなんてできっこない。中3の時、先生が理科室にあったシャーペンの忘れ物を「これ誰のだ?」と聞いた時も、肩の横までしか手を上げることができなかった。これが思春期特有の病。十五肩である。
この頃の、目立ちたいけど目立ちたくない。そんな矛盾した想いが、現在に至るまで、ハルマキの性格に影響を与えていた。
アンジーと目が合う。アンジーは期待の目でハルマキを見つめ、右手を上げている。
「やれるのか…私は…」
ハルマキに緊張が走る。