第11話 ま、ま、ま。の巻!
「「「「む、む、む、無詠唱だとぉぉぉーーーーーーっっ!!!」」」」
ハルマキとハムカツ以外の全員が狂ったように叫んだ。
皆混乱している。信じられないでいる。だがそれは、目の前で起こった現実なのだ!そう、S級イタコによる無詠唱降霊という奇跡を見たのだ!
「ぎぃやぁぁぁあ!なんだおまえはぁぁーーーーっ!!」
「なんだおまえはってか?」
英雄はダンスを始める。
「変なおじさん。変なおじさん。変なおじさんったら。変なおじさん……」
(これが詠唱か?いや、違う!降霊は既に完了している)
唯一、アンジーだけが、わずかに冷静さを残している。
「だっふんだぁ!!!!!!!」
「うわぁぁーーーーっ!」
「うぎゃぁーーーっ!」
「もうやめてぇぇーーーっ!」
最後のとどめだった。
白目をむいて気絶する者。
泣き叫ぶ者。
「嘘だ…嘘だ…」と、耳をふさぎ、現実逃避する者。
それに、ハムカツが倒した2人。
5人の残党は完全に戦闘不能状態になった。
「はぁ…はぁ…」
ハムカツは息を切らし、瞳孔も開いている。
ハルマキも興奮状態だ。
(何と大きなリアクションだろう。ドキドキしている。ここまでの反応をもらったのは初めてだ。)
そのせいか、完全な戦闘不能状態の残党たちに
「アイーーーーン!」
と、絶対に必要のない追い打ちをかけた。
「「うぎゃぁーーー」」
意識のある残党たちは悶絶状態。
「ははは…はは……」
若い兵士は、なんとか意識を保っているが、信じられない現実に笑いだしてしまっている。ずっと震えていた脚の力も抜けて後ろに倒れ「ドチャリッ」と大きな音を立てた。
「ひゃっっ!」
ハルマキは驚いて、反射的に音のした方に向かって、
「アイーン」
と、小さいアイーンをしてしまい、ずっと震えていた若い兵士の膝は震えなくなり、気絶した顔は笑顔だった。
「あ、ごめんなさい」
と言ったハルマキだが、心の中では(またウケた)と思った。
アンジーだけは冷静だろうか?
(アイーーンとはなんだ?体の力が抜け。顔の筋肉も緩み。自然と笑顔のような表情になってしまう。どうしようもなく、あの言葉に心が引き寄せられて)
いや、冷静に見えたアンジーだが、
(詠唱ではない……まさか、魔法かっ!あの、2000年以上前の古の世界を支配し、今はダンジョンの奥に封印されていると言う、魔法文明!その英雄を降霊したというのかっ!!)
なんてことを考えている。魔法なんてものは、それこそS級イタコ以上のおとぎ話で、やはり冷静ではいられなかったようだ。
ハムカツが駆け寄る。
「師匠。これはいったい…」
「おそらくみんな、私のことをS級イタコと思ったのだろう」
「まるで、神か悪魔でも見たような反応ですね」
「S級イタコというのはそれほどの存在ということだな」
気づくとアンジーが後ろでひざまずいている。
「アンジーさん?」
「今までの数々のご無礼申し訳ありませんでした」
「ど…どうしたんですかアンジーさん……」
「あと、数々のブリ大根ありがとうございました」
「いやいや、私にアンジーさんの家の献立を操作するスキルはありませんし、そんな英霊を降霊してもいません。そもそも、英霊って元英雄ってことですよね?献立を操作してどうやって英雄になったんですか?」
ちなみに、戦闘系スキル以外でも、この世に影響を残した者であれば英霊として降霊できるので、絶対にないとは言い切れない。
「今、200ホイしか持ってないです…」
「お賽銭いらないです。…アンジーさん私は何も変わってないですよ。ちょっと、獅子村ケンになっただけです」
「おお!あの英雄は獅子村ケンというのですか。最後に言ったあれは何なのでしょうか?」
「あれはギャグと言って、なんというか……みんなを笑顔にする魔法のようなものです」
「ま、ま、ま、魔法ぅぅぅーーーーっっ!!!」
(なんかまずいことを言った気がする……)
「まさか魔法とは…恐れ入りましてましてましましです」
アンジーは敬語を使い慣れていなかった。
「敬語なんてやめてください。アンジーさんじゃないみたいです。どうか今まで通りに接してほしいです」
「はっ!もしかして、S級を隠してお忍びの旅をしておられるのですか?つまり!それがバレないように、今まで通りに接してほしい…ということですね」
「えっと…じゃあ…そんな感じで…」
ハムカツも。
「僕たちは何も変わっていません。一緒に戦って生き延びた。それだけです。いつもみたいにしゃべってほしいです」
アンジーは少し考える。
「そうですね…いや………そうだなっ!」
アンジーがハルマキとハムカツの顔を見る。3人とも笑っている。
「よしっっ!!」
と言って、アンジーは大きく開いた手を上に伸ばす。
ハムカツがそれに答えて
「バチン!」
と、ハイタッチをする。
アンジーが、ハルマキの方を見る。
次はハルマキの番だ…。