7
「では、シャルベーシャさんは人間に襲われて、知らない間に私の家の近くの森で倒れていたと」
「そうだな」
どうしてこのようなことになったのかは、わからないが、これ以上考えても仕方がなさそうだった。
とにかく私はとんでもない魔獣を助けてしまったようである。
「これから、どうするんですか?」
「まずは傷を癒やし、魔力を回復させる」
「それは協力させてください」
先ほどは人類を滅ぼすと豪語していたが、シャルベーシャさん自身は悪い人、いや悪い魔獣ではなさそうなのだ。
怪我は治療してあげたいし、そうして和解ができたらなんて淡い期待を抱いていた。
「娘、名は?」
「アリアといいます」
「アリア、お前の治癒術は、大したものだ。私の魔力が戻るまで処置を頼む。それまでここで世話になる」
「はい」
「私が回復したら、人類掃討といこうか!よろしくたのむ」
シャルベーシャさんは、自信に満ちた表情をこちらに向けて言った。
「はい。……いや、人類掃討? よろしくたのむって何を?シャルベーシャさん待ってください!」
「私のことはシャルと読んで構わないぞ。この皿はどこに置いておいたらいい?」
「あ、はい。流しにお願いします。ではなくて! 私に何をさせようと…?」
「また時が来たら話そう。私に考えがある」
シャルさんが何を考えているのかわからないが、今すぐにでも人類に危害を加えるということもなさそうだ。
とにかく何か策を考えなければと思うが、そんなのすぐに思いつかない。もちろん人類を滅ぼしていいわけないが、シャルさんが人間を恨む気持ちもわかる。
人間は文明のために多くの魔獣を犠牲にしてきたから……
物思いに耽っていたが、ふと我にかえる。
「あ! 今日は診療所の診察日でした。私行かないと!」
「ん? なんだ?」
「私はこの町で診療所をやっていまして。お仕事なので、今日は夕方まで出かけないといけないのですが」
「私も行こう」
「いやお願いですから、家にいてください」
診療所に着いてこられたら、非常に厄介だ。
診療所の患者は旅の人も多いが、地元の人もやってくる。その人たちに、この人をなんて説明するというのだ。
「何故。町で暴れたりはしないぞ」
「それは、ありがとうございます。ですが、まだシャルさんも療養中ですし……私は仕事がありますから」
「かまわん。その間私1人でも町を見て回る」
「ええ……」
どれだけシャルさんが人間にしか見えないとしても、1人で出かけてもらうのはなんだか不安だ。
「あの私が帰ったら、いくらでもお付き合いしますから。それか次のお休みの日とか……」
「…………」
シャルさんは怪訝な顔をする。
だが1人で出歩かれて何かあったら、庇うことができない。ここは引けなかった。
「また絶対に町を案内しますから! 約束します。それに今日晩ご飯に食べたいものをご用意しますし。……お肉とか?」
「肉だ」
「はい、肉料理にしますね! 出来るだけ早く帰ってきます」
「ふん」
かなり不満そうだけど、納得してしてくれただろうか。次のお休みに町を案内してあげようと思う。
「あ! 家のものは自由に使って頂いて大丈夫ですから。食べ物も好きに食べてください。………あと、倒れた本棚を直しておいて頂けると助かります。では、行ってきますね」
私はとても小さい声で自分の願いを伝えて、逃げるように家を出た。
青年が家に1人残される。
散らばった本を拾いながら、ぼやいた。
「私に雑用を押しつけて行きおった。なんて娘だ」