6 回想
私が目を覚ますと、見覚えのない部屋にいて、目の前にはベッドに顔を伏せて眠っている娘がいた。
茶色い長髪、小柄な体、至ってごく普通の娘。
この娘が誰なのか、少しばかり考えたが、やはり知らない娘だ。
起きあがろうとして、胸が痛んだ。胸どころか身体中がだるいように感じる。
そうして自分の体を確認すると、えらく縮んでいることに気づく。なんなら魔力も尽きかけている。
ここはどこだ……
一体なにがあった……
とにかく自分の身に何が起きたかを思い出す。
たしか私は南の地で人間に襲われたのだ。
私は、有翼の獅子シャルベーシャ。
いつからそう呼ばれていたかは、覚えていない。
私は長らく大陸の南方の森、大きな湖の近くを縄張りとしていた。自然が多く美しい場所だった。
そんな場所にも人間が踏み入ってくるようになったのは、100年くらい前からだろうか。愚かなことに、私を殺して石にしようとしているらしい。
人間はよく群れを成して襲ってきた。だが、私の敵ではなかった。攻撃魔法一つで大体の人間は退けられた。
私は普段から姿を隠していなかったため、人間は無尽蔵に襲ってきた。人間風情から逃げ隠れるなど、私の矜持が許さない。
しかし、あの日襲撃してきた人間は、いつもと違った。おそらく四人編成の討伐部隊だった。従来と比べると、ひどく少数な部隊だ。前衛の戦士が二人、後衛の魔導士が一人、そして姿を隠した補助系の魔導士がおそらく一人。
姿を見せていた三人は、なんてことなかった。他の人間と比べると、多少魔導に長けている程度。
たが、姿を隠し彼らのサポートをしていた魔導士、こいつは別格だった。
私の攻撃魔法は、この魔導士の防御魔導によって全て阻まれた。
もう少し強力な魔法を使わなければならないかと考えていたとき、突然視界が暗くなり、身体中に痛みが走った。
私がはっきりと思い出せたのは、そこまでだった。
私は人間にやられたのか……
あんな酷く脆い存在に……
「うぅん……」
私が自分の身に起きたことに憤っていると、すぐそばから女の声がした。
娘が起きたか。
だからといって、この状態で逃げることもできない。とりあえず私は、娘の一挙手一投足に警戒した。いつでも反撃できる体制をとった。
「おはよう。目が覚めたんだね。体の具合はどうかな?」
「ごめんなさい。急に触られたら、いやだよね」
「私はアリアといいます。あなたに危害をくわえたりしません。怪我をしてたから…私の家に連れてきてしまいました」
優しい娘だということは、すぐにわかった。
そして彼女は、私に治癒術を施した。彼女の治癒術はとても、あたたかかった。
彼女と狭いベッドで眠る時間も、悪くなかった。
それなりの時間を彼女と過ごし、私の荒んだ気持ちは、少しばかりましになっていた。