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私はこの町で噂されている魔石の紛失騒動について、シャルさんに話をした。
「ほう……お前の魔石の紛失も、この町の騒ぎと関係していると?」
「わかりませんが、調べてみる価値はあると思います。何日か前から魔石がなくなったという人が相次いでいると噂です。まずはその噂をしていた患者さんに話を聞いてようかと」
「噂か……真偽のほどはわからんな」
「だから調べるんです!今日はもう遅いですし、明日の朝その人のお家を尋ねたいと思います」
「……では、私も同行しよう」
「え、ありがとうございます」
シャルさんが魔石の捜索に関してなかなか協力的なのが、少し予想外だった。でも1人では心細かったので、嬉しいばかりだ。
魔石捜索は明日また仕切り直しだ。とにかく今日は一日中歩いたこともあり、正直くたくただった。私は晩御飯の支度をするためにキッチンへ向かった。
「魔石の紛失か……」
難しい顔をしたシャルさんがなにやら呟いたが、私の耳には届いていなかった。
「ん?なにか言いました?」
「いや、なんでもない」
「それより、今日の晩飯はなんだ?」
シャルさんがご飯の気配を察知して、問いかけてくる。
「今日はオムライスにしようかと」
「ほう、どんなものだ?」
「えっと、お肉の入ったご飯を卵で包んだ料理です」
「ほう!」
目を輝かせたシャルさんがキッチンに着いてくる。私が料理をしている間、彼はそれを眺めるのが、ここ数日の習慣だった。料理を眺める彼はどことなく楽しそうだ。かくいう私も自分1人で食べるために料理をするよりも、一緒に食べてくれる誰かがいる方が楽しい。
「私の分は大盛りにしてくれ」
「かしこまりました」
なんだかんだ私たちは日常生活においては、それなりにいい関係を築いているのかもしれない。
次の朝、私はいつもより少し早く目が覚めてしまった。というか魔石のことが心配で、あまりしっかり眠ることが出来なかった。
私は起きて早々に支度を済ませた。とりあえず先に診療所の表に休診のお知らせを貼り出そうと思ったのだ。魔石が見つからなければ、私は仕事にならない。
そうして家を出ようとしたところでベッドの方から声がした。
「もう出るのか?」
シャルさんがベッドから、上半身を起こして問いかけてきた。まだ眠そうな目を擦っている。シャルさんは寝起きで乱れ髪でも、その美しさは健在だ。
「いえ、診療所で用を済ませて、また戻ってきます。まだ寝てて大丈夫ですよ」
「そうか……」
シャルさんがベッドの中に戻るのを見届けて、私は家を出た。
『本日診療所は休診いたします アリア・ブラウン』
診療所の扉に手書きの貼り紙をつける。この町にも医療施設はいくつかあるため、町の人が怪我や病気を処置できないという事態にはならないだろうが、かかりつけにしてくれている患者さんもいる。早く魔石を見つけなければ。
「おはよう、アリアさん」
ぼんやりしていたところに、男性から声をかけられ、私は振り返った。
「おはようございます、オリバーさん」
私の診療所の患者さんで、この町で露店を営むご主人だ。おおらかで優しい人で私もお買い物のときはお世話になっている。
「診察に来ていただいたなら、すいません。今日からお休みをいただきたくて」
「あら、そうなのかい?また腰痛を診てもらおうと思ったんだが、それなら大丈夫だよ。……それよりどこか具合が悪いのかい?」
「いえ、体はどこも悪くないのですが。先日魔石を無くしてしましまして……」
「ええ!アリアさんもかい!」
オリバーさんが突然大きな声を出した。驚きで休診することへの申し訳なさは吹き飛んだ。
「もしかしてオリバーさんも?」
「ああ!いや、私の息子がね、最近北の軍から帰ってきたんだ。所属の部隊に休暇に入ったようでね。……帰ってきて数日後、町に出かけた時に身につけてた魔石を無くたんだと。今躍起になって探してる」
「その話詳しく聞かせてください!!」
私は急いでシャルさんをたたき起こして、オリバーさんの家に向かった。




