10
大きい声で叫んでしまったこともあって、私たちは周囲から注目してされてしまった。いたたまれなくなり、カフェから出て、私の診療所へと向かった。
そこなら、ゆっくり2人で話ができる。私は今の思いをシャルさんにちゃんと伝えたかった。
診療所の奥の診察室で私は話を切り出す。
「やはり私はシャルさんのお手伝いはできません」
「そうか」
私の意思を聞いてもシャルさんの表情は変わらなかった。
「でもシャルさんがしようとしていることは見過ごせません。わたしも人間ですもん。滅ぼされるのは困ります。……けどそれよりも先に良くないのは、人間たちが魔獣の命を尊重していないことだとも思ってて……」
伝えたいことが上手く言語化できない。言葉に詰まってしまうが、それでもシャルさんは黙って、私の話を聞いてくれていた。
「だからまず、みんなの価値観とか考え方を変えたいです。そうやって人間と魔獣が共存できる世界をつくりたい。……私はシャルさんと出会って、それは不可能なことじゃないって思えてるんです」
突破なことを言っているのは、わかっている。でもこれが今の私の率直な思いだった。
そして私はゆっくりと彼の前に右手を差し出した。私の手を取ってほしいと願いをこめて。
「手伝っていただけませんか」
「ほう」
彼は目を見張っていた。
おそらくこんな提案をされるとは思っていなかっただろう。
「共存か……夢物語だな」
「そうかもしれません。私もどうしたらいいかなんてわかってません。一緒に考えてくれませんか」
シャルさんは少し考える素振りをみせた。
「ではこうしないか?私は人類の滅亡を、お前は共存の世界を目指す。どちらかが成されるまで、しばし互いを利用しよう」
「利用……」
すでに私が出している手の前に、シャルさんも手を差し伸べてきた。
「どうだ」
「わかりました」
私は彼の手を取った。
あまりに考えなしだったが、私はその手を取るしかなかった。私にはこの出会いを無かったことには、きっとできない。
「よし、交渉成立だ」
シャルさんはそう言って、かすかに笑みを浮かべた気がした。
「今日は十分な収穫だった。では帰ろうか」
シャルさんは握っていた手を離して、診療所の出口へと向き直った。
「もう町の案内はいいんですか?」
「ああ、今の討伐軍がどんなものかは見られた。それに道筋も覚えたし、必要があれば1人で見て回る」
「そうですか」
シャルさんはとても満足げな表情をしている。対して私はなんだかとても疲れた気がする。
前途多難ではあるが、今日はひとまず家に帰ることとなった。
診療所を出て家へ向かう。シャルさんが数歩前を歩いていた。
先ほどシャルさんと握手していた右手を眺める。あたたかい掌だったな、ほんとに人間そのものだった。そんなことを思いながら、その手を胸元で握る。
そこでふと違和感を持った。
いつも胸元にあるはずのものの感触がなかった。
ペンダントがない。首からかけて、服の中にしまい込んでいるはずの魔石がついたペンダントがないのだ。
「シャルさん、先に家に戻っていてください」
「え、おい待て」
私はシャルさんの制止も気にせず、反射的に踵を返して走り出していた。




