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自作小説倶楽部 第29冊/2024年下半期(第169-173集)   作者: 自作小説倶楽部
第170集(2024年08月)/テーマ 「魔除け」
8/26

03 紅之蘭 著 『天才紅教授の魔法講義 其の六』

【梗概】

  キャンパスに移築された東北の呪術師屋敷で行われた、使鬼捕獲実験レポート。


挿絵(By みてみん)

挿図/©奄美「紅教授と管狐」

 八月末日。

 雨戸を閉め切っているため、陽が沈まぬうちから、その母屋は暗かった。廊下をパタパタと何者かが駆けて行く。

「縫目ちゃん、いま何かが俺の足にぶつかっていったんだ」

「こないだまでの勢いはどうしたね、メガネ君?」

 尻もちをついて悲鳴をあげたのは、ひょろひょろした体形の二年生・メガネ君だ。


     *


 夏休み前の黄戸島村立魔法大学講堂だ。

「〝隠れ家〟元所有者・華部はなぶの家は、数年前に家終いした東北・遠野市山間部にあったものだ。華部家は代々陰陽師を生業としていた。――本来の意味での陰陽師は奈良・平安時代以来の宮廷職だったが、明治時代になって廃止されている。――我々魔法使いがいう陰陽師とは我々の同業者、日本版ウィザードをさしている……」バン・キュッ・ボン体型の独身熟女な紅教授は教壇で、言葉の節々でいちいち白衣をはためかせながら、セクシーポーズを決めて、

「諸君には一夜をそこで過ごし、体験談をレポートにして提出してくれたまえ」と続けた。

「つまり合宿ですか? それで見返りは何です、紅教授?」

「魔法史および魔法古文書演習二科目の免除」

「おお!」学生たちがどよめく。

「陰陽師の華部家は代々〝管狐くだぎつね〟の術を扱ってきた」

「〝管狐くだぎつね〟って?」

「三体の生き物を争わせて生き残った個体をさらに殺し、魂魄を使鬼しきとして操る下法を〝蟲毒こどくの術〟という。管狐くだぎつねは〝蟲毒〟をイタチに施して使鬼しきとし、ターゲットを呪殺する。ぶっちゃけ、華部家は陰陽師なんて言葉を飾ってはいるが、実態は呪術師というかバリバリの黒魔術師だったというわけだ。――当実習では危険を伴う。なので念のため、助手の縫目ちゃんを引率させる」

 また歓声が上がった。

「二科目免除、〝ロリ女神〟縫目ちゃんつき。この合宿実習って美味しすぎる!」

 ――ふふ、君たちは性悪女・紅教授の本質をまだ理解していない。

 というわけでメガネ君と学友たち六名は実習と言う名の〝本実験〟に参加したわけだ。


 華部家旧宅は屋根裏部屋つきの二階建ての古民家だった。下階が九部屋ある。急階段を上がった屋根裏部屋は大広間で、収納室と工房を兼ねたようなところだった。

「俺たちは今夜、屋根裏部屋で寝るんだ? 縫目ちゃんも一緒だよね?」

「そんな、男六人と美少女一人なんて、危ないじゃない。屋敷の庭に紅教授がレンタルのキャンピングカーを乗り入れている。二十時になったら、そっちで休むよ。六時になったらまた来る」

 メガネ君と仲間たちは涙目だ。

 古民家とはいえ移築されたばかりなので、屋根裏部屋だが埃を被っていない。〝家終い〟の直前まで先代が絶えず護摩を炊いていたせいか、残り香があった。


 夜中、学生たちがギャー、ピーうるさかった。

 ――大丈夫、私の護符で結界を張っておいたから。魔物は入ってこれないよ。

 学生たちが、私たちのいるキャンピングカーまで逃げて来なかったのは、母屋周りに紅教授がまた別な護符を仕掛け、結界を張っていたからだった。

 そして朝が来た。


 六時になって私が点呼のため屋根裏部屋に行くと、男子学生たちメガネさんたち学生六人は裸にされ、六星紋の上に並べ仰向けに寝かされていた。

 ――家憑き?

 古い屋敷には精霊が憑いている。座敷童のようなものから、悪霊のようなものまでいろいろだ。陰陽師・華部の家には管狐がいるはずだったが、私の前に立っているのは、黒い神官服をまとった背の高い男だった。聞いたこともない祝詞のりとのような術式を詠唱しているではないか。

「あらあら、意外と〝大物さん〟が来ちゃったのね」

 階段から私を追い越して、すっと前に出て来たのは紅教授だった。

「久しいな、紅よ――」

 烏帽子・袴の白い神官装束を身にまとった紅教授が、ワンピ姿の私の肩に手を添え、いざなうように平伏し、

「またお会いできて光栄でございます、無有羅彦之命ナイアルラノヒコノミコト様」

 冷めた目で黒い神官服の貴顕が振り向き、

「この者たちは我への〝にえ〟ではないのか?」

「屋敷に残留している管狐とは何者か、確かめるためでした。あなた様がおわすところとは存じませんでした。ご無礼の段、お許し下さいませ」

 そういうと私のワンピの裾をめくって、メガネ君たちに太腿のつけねにある下着を見せてやる。金縛り状態のきゃつら六人だが、双眸と――は健在のようだった。「ご褒美だ!」といわんばかりに、たちまち鼻血を噴く。――びびりのくせに、この状況でよくそんなものが噴けるもんだな!

うましことかな。紅、確かに〝贄〟を受領した」

 高笑いをして、黒い神官服の貴顕が姿を消すと、代わりに、私達が捕獲対象にしていた式神がちょこんと座っていた。管狐だ。


     *


 六人を解放し、大学の教授室に戻った紅教授と私は、サンプリングのため持ち帰った管狐を机の上に乗せてじっくりと観察した。

 華部屋敷を解体移築する際、歴代陰陽師がためこんだパン箱二十箱相当の〝贄〟の骨が土壁から出て来た。大部分は嬰児のものだったのだけれども、それらに混じって明らかに、人ならざる霊長類のものが混じっていた。目の前にいるこいつこそ、彼らの同族なのだろう。

 管狐は鼠ほどの大きさで、顔はイタチでもなく、狐でもなく、鼠でもない。原始的な猿に近かった。特徴的なのは身体で、体毛に覆われ、尻尾こそはえてはいるが、人間のような四肢を有していた。

「北米ではブラウン・ジェンキンともジョー・マズレヴィッチとも呼ばれている下位奉仕種族でね、異世界〝幻夢境〟にいる原生種はズーグ族と呼ばれている。独自の言語をもっているんだ。――研究対象としてじつに興味深い!」椅子に腰かけ、饒舌にまくしたてた紅教授だったが、横にいる私がむくれているのに気づき、「いやあ、無有羅彦之命って、調伏不可能な激ヤバ・高位の禍津神まがつかみだったんだよね。メガネ君たち鼻血を噴き出させて〝贄〟としてお引き取り願ったけど、あのとき縫目ちゃんがいて、パンチラがつかえたからよかった。立派に魔除けとしてつかえたよ」

 そう褒めてくれたのだけれども、私的にはムカつく!

 いつもの白衣に着替えていた教授の指にじゃれている管狐は、体毛の色から〝茶太郎〟と命名された。


   了

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