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自作小説倶楽部 第29冊/2024年下半期(第169-173集)   作者: 自作小説倶楽部
第169集(2024年07月)/テーマ 「海」
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03 紅之蘭 著 『天才紅教授の魔法講義 其の五』

〈概要〉

 島に希少な魔法素材を積んだ豪華クルーザーがやってきた。紅教授と助手の縫目ちゃんがショッピングに行くのだが……。掌編連作。


挿絵(By みてみん)

挿図/©奄美「縫目ちゃんの散策」

 私は、紅教授の魔法教室で助手を務めている、魔法人形オートマ・縫目フラ子である。


 東京都・黄戸島村立大学のある小笠原諸島の梅雨が明け、夏の盛りとなった。大半の学生が内地に帰省し、島に残っているのは、昔からいる島民と、大学一部職員のみである。

「縫目ちゃん、今年もあれが始まるねえ」

 いつになく先生がはしゃいでいる。

 島に寄港するのは地元の漁船以外は、内地との連絡船、そして毎年夏になるとやってくる〈クルーザー〉だ。――とある財団が所有する大型クルーザーは遠洋航海が可能で、世界各国から魔道具に必要な珍品を揃えている。


 近代魔法は欧州貴族たち富豪の同好会から始まっている。所謂、シャンデリアが吊り下げられたロビーは空調が効いているというのに、燕尾服紳士やパニエでスカートを膨らませた淑女達で溢れていた。

 この日に合わせ、船には、外国からも名だたる魔法使いたちが集まって来ていた。


 ロビー壁際には出品者たちがテーブルを並べ、上客たちと商談をしていた。――東京晴海のコミケ会場をぐっと小さくしたみたいなムードがある。

 商談とは言っても、客達は決して値切らない。このことに関して紅教授は、

「なぜ、値切らないですって? ふっ、値段が高いのは、そのぶん、素材に対してある種の《呪い》が付与されているからよ」

 紅教授はさらに、

「魔法の杖や剣といった補助具は魔道具師がつくらないでもないが、召喚魔術カバラの場合、魔法使い自身が素材を集めて一からつくるのが望ましい。――例えば木の枝から杖をつくる際、削るためのナイフも、自作の炉で鉱石を溶かして鉄塊を取り出し、金づちを振るって制作すると魔術の高価があがる」

 つまるところ、極力手つかずの状態のものから製品を創り出すことで、魔法使いの用語で、「処女性」と言われているものだ。


 マーケットで、肥った髭の紳士が紅教授に、

「マドモアゼル・ベニ、前に話したこと、そろそろ返事が聞きたい。私と君とが夫婦になれば生まれて来る子供は、最強魔法使いになれると思うのだがね」

 女性魔法使いが処女でなくなれば、魔力を減じる。魔法を捨ててまで女性魔法使いが結婚するメリットは少ない。


 そこでゴスロリドレスに身をまとった私の登場だ。

「ママン……」と言って、教授の腕に顔を埋めて紳士に、甘え他たところを見せつけてやる。

「こ、これは驚いたマドモアゼル・ベニ。いや、マダム・ベニ――お子さんがいたのか!――既婚者だったとは……」

 と、そそくさ逃げて行った。


 目的の素材を手に入れた紅教授は、大学官舎の裏に設けた工房小屋に小鍛冶炉をつくり、教授と私が交代で、金槌を使い金床の上に載せられた、熱した鉄丁てっていをヤットコで挟み、何度も槌で打っては引き伸ばし、折り畳んで、水槽〈舟〉に突っ込んで冷やす。

 こうしてできたナイフで、トネリコの枝を削って、杖をつくった。――杖といっても二十センチほどで、オーケストラ指揮者が振るう指揮棒に近い代物だ。


「縫目ちゃん、はい、プレゼント」

 えっ?

 なぜだろう、涙が出てきた。


 了

〈引用参考文献〉:アレイスター・クローリー著/島弘之訳/世界魔法大全2A『魔術――理論と実践 上』株式会社国書刊行会1983年/第Ⅷ章 〈均等〉について、また〈神殿〉の〈調度〉と〈作業〉の〈道具〉との準備の一般的・個別的方法について/第Ⅱ節(111‐113頁)より

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