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自作小説倶楽部 第29冊/2024年下半期(第169-173集)   作者: 自作小説倶楽部
第172集(2024年10月)/テーマ 「上品」
17/26

04 らてぃあ 著 『路地裏の出来事』

【概要】路地裏の二人のドタバタ


挿絵(By みてみん)

挿図/©奄美「射撃」

手はず通り取引を終え、酒場を出て歩きだしてすぐ路地からぬっと、腕が伸びてきた。俺の胸元に銀色に光るものが押し当てられる。


おいおい、まじかよ。


俺の仕事には予想外のトラブルは付き物だが、今回は本当に驚いた。


「静かにね。騒ぐと怪我では済まないよ」


夜の始まりのような青に墨を溶かしたような瞳が鋭い光を湛えて俺を見上げていた。男物の帽子とジャケット、パンツを身に着けているが若い女だ。腕っぷしでは勝てる。と思う反面、勘が反撃を止めた。迂闊に暴力に訴えるべき相手じゃない。昔馴染みからはポンコツ扱いされるが、勘のおかげて何度もピンチを切り抜けてきた。女からはチンピラの匂いがしない。というか掃き溜めに鶴が現れて俺を威嚇して来たのだ。


女が背後を気にする気配があったので俺は敢えて女が隠れていた路地に身体を滑りこませる。小型の拳銃は突きつけられたままついてきた。


「さて、あんたは誰だ」


臭くて狭い路地にすぐにも熱い風呂が恋しくなったが今はトラブルを解決することが先決だ。


「あなたのポケットにあるSDカードを渡しなさい」


「コレか」


俺はコートのポケットを叩く。


「駄目だよ。回収できなかったら俺の仕事にかかわる。探偵は貧乏なんだ」


「探偵?」


「そうだ。依頼人のプライベートにかかわる写真がここに入っている」


「依頼人? 父が依頼したの?」


「あんたあのクソ親父の娘か?」


娘は父親の名前、すなわち俺の依頼人の名前を口にした・


反撃しなくてよかった。と安堵する。依頼人の身内に怪我でもさせたら信用どころではなくなる。


「てっきり、脅迫犯だと思ったのよ。ごめんなさい」


あっさり謝り、拳銃を下ろす娘に俺は好感を持つ。本物の育ちの良さだ。緊張が緩和すると動作にも上品さがあった。


「名演技だったね」


「本気で演劇をやっているわ。女優志望なの。この格好も衣装係から借りたのよ」


少し娘は黙ったかと思うと意識がふたたび俺のポケットに向く。


「ねえ、探偵さん。そのメモリをコピーする。のは無理よね」


「無理。というかアンタ、親孝行のためにコレを取り返えそうとしたんじゃないのか」


「少しはそれもあったけど、父を脅迫するネタになるかと思ったのよ。父は私の女優の夢に反対しているの」


「やめとけ。こんなメモリで親子の仲を壊すことは無い。それに中身も見るべきじゃない」


「見てはいないけど内容なら大体わかっているわ。うちの屋敷は古いでしょう。いろいろ仕掛けがあってね。父の部屋には昔、召使を呼ぶための通気口があったらしいの。通じていた先は今は物置だけど、物置で耳を澄ませれば父が大きな声で電話している内容も丸聞こえなのよ」


ずっこけそうになる。会った時から俺を見下す嫌な奴だと思ったが、セキュリティはがばがばだ。仕事を選べる立場じゃないがお客を見誤ったような気がする。


何とか気を取り直して俺は娘に向き直る。


「俺に拳銃を突きつけた度胸があれば家を出たって何でもできるさ。クソ親父なんて捨ててしまえ」


娘の顔に笑みが浮かぶ。


「それにな。小道具で他人を脅すな。相手が俺じゃなきゃあんたは大怪我していたかもしれないぞ」


「これ? これは小道具じゃないわ。マニアの友達が作ったエアガンで一発だけ発射可能なの」


そう言うと娘は路地の奥に拳銃を向けた。プシュッと音がしたかと思うとプラスチックのゴミ箱は破片を散らばらせて転がった。


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