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自作小説倶楽部 第29冊/2024年下半期(第169-173集)   作者: 自作小説倶楽部
第171集(2024年09月)/テーマ 「気まぐれ」
12/26

03 柳橋美湖 著 『アッシャー冒険商会 24』

〈梗概〉

 大航海時代、商才はあるが腕っぷしの弱い英国の自称〈詩人〉と、脳筋系義妹→嫁、元軍人老従者の三人が織りなす、新大陸冒険活劇連作掌編。森の神の気まぐれに翻弄される子供たちのエピソード。


挿絵(By みてみん)

挿図/©奄美奄美「森の女神」

    24 気まぐれ


 ――ノエルの日記――


 私はノエル・ケイ。医師の資格をもった修道女シスター・ブリジットの養女だよ。遊び仲間はアーサー・ミアと、ハレルヤ・アッシャーっていうんだ。中秋のある日、私たち三人が、森を散策していると、切り立った崖があって洞窟をみつけたの。

 前に立った年長のアーサーが、

「頬に風があたる。恐らくは風穴だな」

「奥はどうなっているんだろ? 気にならない?」

 幼いアーサーが、

「アーサー兄、ノエル姉、行ってみようよ」

 けれどそこはアーサーが軽くいなして、

「駄目駄目、ちゃんと準備しないと」

 そういうわけで翌日、松明と弁当を準備した私たち三人は、風穴深部の探索を行くことになったってわけね。


 風にのって花びらひとひらがノエルの頬にあたったので、手に取ってみる。出口が見えてきたの。

 軽装の三人組の先頭は松明をもったアーサーが行き、私・ノエルがハレルヤの手をとり、ときどき壁面に目印を刻んだ。水筒は各自携帯し、ランチの入ったバスケットは皆で交替してもったの。


 やがて風穴は終わり、ガウラやクジャク・アスターの花で覆われた花園へとでる。

 私が、

「こここで、ランチにしない?」

 皆が賛成したので、お弁当を拡げる。

 バスケットのランチはパンとチーズと干し肉。

 十分に休憩をとったので、皆で帰ろうとしたそのとき、狼の遠吠えが聞こえた。

 アーサーが、

「斥候が群れを呼んだんだな。風穴に引き返そう」

 ところがだ。後方にあったはずの風穴の断崖が見えなくなり、周囲はブナの森で囲まれているじゃない!

 巨木のうろに先住民の祠があり、奥には神像が彫られているのが見えた。


 養母ははは、ハレルヤ一家のお屋敷敷地内にある別棟を借りて診療所にしている。ハレルヤのパパは、アッシャー冒険商会の会長さんで、従業員の中には先住民も混じっていた。

 先住民の話しによると、森には狩人を迷わせ混乱に陥れるヌーリムキラカという神様がいるんだとか。――霧まででてきた。これって森の神様の幻術?


「どうしよう、狼の群れがくる!」

「大丈夫だよ、ノエル」

 アーサーはポシェットから、地図と六分儀を取り出し、私が目印を刻んだ岩の二点を結んで、風穴の位置を割り出した。

「アーサーってすごいね」

「父さんに測量術を教わったんだ。現在地は地図のこのあたりで、風穴は現在地から東へ二百メートルってところだ」

 私たち三人が風穴の入口に立つと、さっき狼の遠吠えが聞こえた方角から、「ちっ」と舌打ちするような音がした。――森の神様かな?

 風穴に入ろうとしたときそこに、欠伸あくびをする女の人が座っていた。アッシャー家の守護神ザトゥー様だ。

「なーんだ。三人で切り抜けちゃったじゃない。迎えにきてやって損したわ」

「いえいえ、そんなことはありません、心強いです」とハレルヤ。

「じゃあ少年たち、そのままおうちへお帰り。――念のためわらわは気まぐれな森の神、ヌーリムキラカに話しをつけてくるからさ」

 けだるそうにそういうと女神様は、煙のようになって消えていかれたんだよ。


 それにしてもアーサーは頼りになる。絶対、お婿さんにする!


 了

〈登場人物〉


アッシャー家

ロデリック:旧大陸の男爵家世嗣。新大陸で〝アッシャー冒険商会〟を起業する。実は代々魔法貴族で、昨今、〝怠惰の女神〟ザトゥーを守護女神にした。

マデライン:男爵家の遠縁分家の娘、男爵本家の養女を経て、世嗣ロデリックの妻になる。ロデリックとの間に一子ハレルヤを産んだ。

アラン・ポオ:同家一門・執事兼従者。元軍人。マデラインの体術の師でもある。


その他

ベン・ミア:ロデリックの学友男性。実はロデリックの昔の恋人。養子のアーサーと〝胡桃屋敷〟に暮らしている。

シスター・ブリジット:修道女。アッシャー家の係付医。乗合馬車で移動中、山賊に襲われていたところを偶然通りかかったアラン・ポオに助けられる。襲撃で両親を殺された童女ノエルを引き取り、養女にした。

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