決戦!大地合掌_____いざ尋常に。
__________死合いとは、生き死にを賭けた生命の奪い合いである。
吹き荒れる強風が重圧と共に降りかかる。視線の先には宿敵、倒すべき悪であり倒さなければ為らない人類の敵。
もはや言葉は不要、語り合いなどはとっくの等に過ぎ去った、幾度となく会敵し、数えるのも馬鹿らしい程に相対し、そして此度こそその因果に終止符を打とう。
剣を掲げ奴に向ける、不敵な笑みを浮かべ奴は剣を空間から取り出し、奇しくも同じように俺にその剣を向ける。
世界に静寂が起きる、その一瞬。
「____________ッ!」
金属音が大地を揺らす。
世界の命運がこの手にかかっている____________人類の敵を倒す為に女神の加護をその身に宿した"勇者"は、目の前に相対する人類の敵"魔王"の愉しげな表情を睨み付け、大地を踏みしめ剣を振るう。
拮抗は崩れ怒涛の剣戟を、魔王は感心するようにその剣戟に応える。
魔王は自身の宿敵である勇者に互いに相容れない敵同士であるのを理解している上で好ましく思っていた。
人類の敵として"魔王"と成ってから何百年の時が経ったか、人類が危機的状況に陥った時に忌々しき女神の加護が人類の中から選ばれ"勇者"となる。
そうして選ばれた勇者も何度もこの手で殺してきたが、中でもこの勇者は最も強く、この命を屠る可能性を持つ何の変哲もない人間。
幾度戦ってもなお目の前に立つその不屈の精神、次こそはと決死の覚悟で挑むその勇気。たった一人のこの人間が、しかし魔王にとっては最大の壁であり。
この人間にならば殺されてやっても良いとすら思える程だ。
「殺せるか!この私を!」
「ここで終わらせる、今日ここで!」
一際強烈な一撃が互いに振るわられ、その衝動が両者の距離を大きく広がらせる。
吹き飛ばされた衝撃に勇者は思わず膝をつくが、直ぐに体制を整える。ソレに対し魔王は余裕を浮かべた表情で「そんなものか?」と言わんばかりに勇者を見つ嗤う。
一見すれば魔王が優勢に思えるこの状況。しかし当人同士の中ではその評価は違っていた。
今の一撃で漸く勇者は確信を得る、やはり魔王は弱っている。何も魔王を討伐する旅は自分一人で始めた物語ではない。
幼馴染の魔法使いが居た、険悪だったが悪友の戦士が居た、密かに恋心を実らせていた神官がいた。
長い戦いの果てに勇者はここに立っている、次に終わるのは自分の命であり、それが自分一人の命でないことを勇者は理解していた。
勇者にとってはここが人類の最終防衛地点、ここで魔王を屠らなければ次の魔王の侵攻を食い止める程の人類の余裕はない。命を捨てる覚悟は勇者になった等の昔から覚悟している。
そして余裕がないのは魔王もまた同じこと。
相対して気づく、女神が創り世界に誕生させた勇者のみが扱えるその聖剣が、以前と比べて大きく性能が向上している事に。
あの剣が一撃でもまともに受けてしまえばただでは済まないだろう、魔を討ち滅ぼすその聖剣は魔王にとって劇毒であると共に、勇者にとっての良薬だ。
不老不死ではない魔王は、定められた命の灯火が刻一刻と迫っている事に気づいている、本来ならば圧倒的な生命の源である自身が、たった一人の人間と互角な訳が無いのだから。
だからこそ、此度この戦いこそが決戦となる。
大地合掌___________いざ尋常に。
世界の命運が掛かった最後の戦いが幕を上げた。