#2 身が縮こまる朝の街
初めて小説書きます。超ド素人です。
文章力も語彙力も全然ないので読んでてイラっとしたらそっとブラウザ閉じてください。
宿屋の主人から雑巾を受け取り零れた水を拭いた後、身支度を済ませる。少し傷んできた白色の長袖のシャツの上に革の胸当て、腕に籠手を取りつけ、ポーションの入っているポーチ付きのベルトを腰に、太ももにはナイフを仕込んだレッグストラップを巻く。最後にフード付きの膝まで覆う緑がかった黒のローブを羽織ればいつもの冒険者装備が整う。
「装備よし。あとは武器………………『ルルキウェル』!」
開いた右手を前に翳し武器の名を唱える。するとその手のひらに沿うように黒い棒状の物体が現れる。
派手さの無いシンプルな装飾で作られた身長程の長さの黒塗りの槍「ルルキウェル」。
3年前学園を卒業し、冒険者として稼ぎに出るためこの街にやってきた際に出会った女性―――私の師であるイヨルから頂いたものだ。
イヨルは少々変わり者で不思議な女性だった。
180㎝近くあるんじゃないかと思われる身長、腰まで届くような濡羽色の美しい髪をもち、上等そうな黒いローブを常に身に着け、そして顔の上半分目元のみを隠すような仮面を付けているのが特徴で、仮面の下の顔を晒すことはなく謎めいた神秘的な雰囲気を纏っていた。
その雰囲気とは裏腹におおざっぱでさばさばした性格をしていて私に対してもずけずけとした物言いで接する人だったが、非常に優れた力を持った冒険者だった。
何度か依頼を共にこなしたことがあるが彼女はどんな状況でも常に冷静で機転が利きそしてとてつもなく強かった。
ある依頼の際、2人が十数体のオークの群れに囲まれてしまい絶望的な状況で私が死を覚悟する中、イヨルは顔色一つ変えず槍を構え一瞬で姿を消したと思ったら次の瞬間には全てのオークの心臓に風穴をあけていた。
何故そんな彼女と私が出会い、一時的にもパーティを組むことができたのかと言えば、学園を卒業し街へ出た当時Eランク冒険者だった私が初めての討伐依頼を受けようしていたところ、ソロで向かおうとするのを心配したギルド側が偶然その場にいた冒険者のイヨルに同行をお願いしたからであった。
彼女の強さを知った当時の私は剣を使っていたが、必死に頭を下げ私に槍術を教えて欲しいとお願いした。強かったという理由もあるが彼女に師事したかった一番の理由は、私の大好きな絵本の憧れの冒険者もまた同じ槍使いだったからだ。
イヨルはあからさまに面倒くさそうにしていたが必死の懇願の末、最終的に受け入れ半年と短い期間ではあったが修行をつけてくれた。
だが、その修行のおかげで私が劇的に強くなるなんて都合のいいことは起きなかった。
元々、私に槍の才能は無かった。
学園に入学し、戦闘の基礎を学びだした当初、私は槍術の訓練をしていたが、
「セラ……………………残念だがお前に槍の才能は無い。あと、おそらく戦闘そのものの才があんまりない………………。それでも冒険者になりたいってんなら無難に扱いやすい剣と盾を学べ。」
と、教官に気まずそうに言われかなり落ち込んだのを覚えている。
イヨルの元で修行を積み半年が経ったころのことを思い返す――――
『セラ、今日で修行は終わりだ。私はこの街を出る。』
『えっ…………?!ど、どういうことですか師匠…………!』
日が傾き東の空が暗くなりだした頃、そろそろ今日の訓練も終わりかと考えていた時イヨルが唐突に話を切り出した。
『今言った通りだ。用事ができてな。師弟の関係は今日限りでおしまいだ。』
『ま、待ってください…………!私…………まだ全然槍を扱いきれてないのに……………………。』
『そうだな…………。弟子卒業、とは言い難いレベルではあるがこの半年間の基礎鍛錬で基本の"き"ぐらいは叩き込んだ。元々、おかしいぐらいガチガチだった動きも最近は悪くなくなってきてる。』
『うぅ…………で、でも………………。』
確かに以前と比べて最近は少し動きがよくなってきていることを少しだけ実感しているが、槍術士としては下の下のままだし、冒険者として一人で討伐依頼を達成したこともない。
こんな状況で修行が終わりだなんて………………。
『セラ、あまり私を頼りにしすぎるな。遅かれ早かれいつかはお前ひとりの努力でなんとかしなきゃいけない時がくるってことは分かってただろ。お前が自分の夢を忘れていないなら尚更分かるはずだ。』
『っ…………!!』
考えないようにしていたことを指摘され言葉に詰まってしまう。
『まあ、さすがに明日からいきなり今の状態のお前を一人で放り出すのも悪いし、最後に一つだけ修行を言い渡す。』
『その修行とは…………なんでしょう………………?』
『セラ、お前は人一倍…………いや五倍ぐらい不器用だ。だから余計なことせずにひとつのことだけを鍛え続けろ。槍術の最も初歩の型である「突き」を…………基本の構えから、前方に槍を突き刺す。これだけだ。これだけを毎日鍛え続けろ。死ぬまでな。』
『突き……だけ………………?』
『そうだ。特別な才能が無いお前が世界中を旅して周れるぐらい強くなりたいんだとしたら……1つだけ特技を作りそれを世界中のだれよりも磨き上げるしかない。それが唯一の可能性だ。少なくとも、一突きであの岩に穴をあけられるぐらいにはなるんだ。』
師匠が離れた場所に見える大岩を指さしたので、ぎょっとする。
『あの大岩にですが!?そんな無茶な…………不可能ですよ……!!』
『いいか、冗談で言ってるんじゃない。お前が目指す世界の深奥にはあんな岩なんて簡単に粉々にしてしまうような強大な存在がいるんだ。やられる前に一突きで敵を殺す。そうでもしないと逃げ足も遅いお前は何も出来ずに餌になるだけだ。』
『う………………わ、わかりました…………!やります………………!私、「突き」を極めます!』
無茶苦茶なことを言われているようにも思うが、自分の才能の無さを嫌というほど知らされてきたためそれぐらいしか可能性を見いだせないのは事実だった。
可能か不可能かではなく、私はその可能性に縋るしかない。
元々、危険極まりない外の世界を旅しようなどという今の私からすれば無謀で不可能に近いことを夢見ているのだ、岩に穴開けるぐらいやってのけろという話だ。
『よろしい。それと、一応………………一応ではあるが卒業みたいなものだからな。お前に二つ祝いをやる。ほら。』
そう言うと師匠がそばに置いていた布で巻かれている棒状の物を渡してきた。
中身を確認すると真っ黒な槍が入っていた。
『お、おぉ………………!これは……………………!』
『私が用意した特製の槍だ。名は「ルルキウェル」。今適当に考えた。』
そんな適当につけていいのだろうか……。
『か、かっこいい…………!私にこんな良いものを……頂いていいんですか!?』
『まあそれほど特別な武器ではない。強力な力が備わっているわけじゃあない。そんなものがあってもお前は扱いきれないだろうしな。普段は持ち主の体の中に収納された状態になる。持ち主が名前を唱えることで手元に出現させられる。そして持ち主が収納を頭で念じれば勝手に消えて体内に収まってくれる。後は壊れたとしても自己修復して自然と元の状態に戻るぐらいだな。』
『それだけでも充分特別な武器だと思いますが………………。』
『槍自体の性能は普通だ。この街の武具屋で買ったただの鉄の槍を私が少しいじくっただけだからな。
要は失っても壊れてもかならず元通りになってお前のとこに戻ってくる普通の槍だ。ただし、仮に壊れても瞬時に修復される訳じゃあない。こいつを過信しすぎるなよ。』
『普通とはいったい………………。でも、分かりました。気を付けます!』
この人の普通の感覚は少し、というか結構ずれてるのでは……?と疑問に思ったが黙っておく。
『じゃあ右手を出して。』
『……?はい。』
『―――――』
言われた通り右手を出すと、師匠が手首のあたりに触れ何かの呪文をボソボソと唱えた。
何を言ったのかは聞き取れなかった。
『ふむ、よし。既にその槍の持ち主はお前だ。さぁ、頭の中で収納を念じてみろ。』
『は、はい!…………わっ!本当に消えた…………。』
指示通りに頭の中で念じてみると、握っていた槍が空気に溶けるように霧散した。
『手首を確認してみろ。収納されている間は紋様が浮かぶはずだ。』
『ほ、ほんとだ……!槍のような紋様ができてますね。』
手首に細長い槍の形をした黒い紋様が浮かんでいた。
これは何の魔法なのだろう……?
属性魔法ではなさそうだし、彼女の固有魔法なのだろうか。
聞いても教えてはくれなさそうだ。
『よし、槍の方はいいな。あとはこれだ。』
師匠は満足げにうなずくと、懐から小袋を取り出しその中から小さな種のような物を摘んでこちらに渡してきた。
『んん?これは……種ですか…………?』
『特別な種だ。この種は芽吹くとお前に一つだけ力を与えてくれる…………が芽吹くかどうか、そもそもいつ何をすればどんな状況で芽吹くのか、芽吹いたとしてもどんな力が与えられるのかは誰にも分からない。お前の力となるか、はたまたただの種で終わるか、全てはお前の努力と運しだいだな。さぁ飲み込め。』
『えっ!?種を飲み込むんですか!?そんな謎だらけのよく分からないものなのを……。』
『いいから早く飲み込みなさい。』
『え、えぇ……わ、分かりました……………………。』ゴクンッ
怖くはあったが、説明を聞く限り利はあっても害はないらしい。
とりあえず危険な物ではなさそうなので数舜ためらった後、飲み込んだ。
それにしても、ただの槍を特殊な槍に作り替えたり、武器を収納する便利な魔法を簡単に使えるようにしてくれり、不思議な力を持つ種を持っていたり、この人は本当に謎だらけだ。
加えて底の見えない異様な強さ。Sランク冒険者だと言われてもおかしくないこの人のランクはCなのだ。
名声とか他人からの称賛とか興味がないのだろう。本当に変わってる。
師匠がCランクだったら私なんか何ランクになってしまうんだ。考えるのをやめた。
『ふむ。祝いは以上だ。やるべきことも伝えた。何度も言うがこれから先は全てお前の努力しだいだ。』
『は、はい……!師匠、ありがとうございます…………!!』
『お前は未だに迷い続けているようだが、旅に出たいのなら旅のいろはをしっかりと学べ。そして生き延びる術をしっかり身に着けるんだ。いいな?』
『っ!!…………はい!』
――――――――――――――――――――…………
出現させた「ルルキウェル」を見ながら師匠と過ごした当時のことを思い出していた。
あれから2年が経った。師匠はどうしているのだろう。
師匠がどこに向かうのかは聞かなかった。聞いても教えてくれなさそうだったし。お互い定住している訳でもないので手紙を出すことも難しいだろう。そもそもあの人手紙なんて書くような人だろうか……?
師匠―――イヨルは私にとって数少ない心を開くことができた人の一人だった。
初めて師匠と共に依頼をこなした時、ほとんど何も出来なかった私を他の人達のように見下し嘲笑するようなことはしなかった。この人はある意味で私のありのままを受け入れてくれる人なんだと思った。
私は師匠に色々な事を話した。聞いて欲しかったのだ。大好きな母のこと、妹達のこと、何もできずバカにされてきたこと、そして夢のこと、彼女はただ静かに私の話を聞いてくれていた。
夢の話をした翌日から修行はより厳しくなった気がするが、彼女の態度が少しだけ柔らかくなったような気がした。
尊敬する師のことを思い出し暗くなっていた気持ちに少しだけ日が差す。
気持ちを切り替え、武器を収納し部屋を出る。
「まずは冒険者ギルドで依頼を見繕おう。討伐依頼は……内容しだいかな。時間掛かって修行する時間を減らしちゃうようなことはしたくないし……。いや、でも昨日は結局依頼受けられなかったからな…………。昨日の分まで稼がないとか。」
師匠と別れてから1年後、私はようやく一人で討伐依頼を達成することができた。
内容は近隣の村へ続く道中で「はぐれゴブリン」が1体目撃されたためそれを討伐せよ、というものだ。
街から近いため魔物がめったに出没しない上、仮にいたとしてもこの「はぐれゴブリン」程度のEランクの魔物しか出没しない。並みの冒険者であれば簡単に達成できる依頼である。
以前通っていた学園では、学生が課外実習で冒険者ギルドの依頼を受けるためには学内の訓練場にて捕獲されたEランクの魔物を1対1で倒すという試験を通過する必要があった。
高等部の普通の学生であればそれほど難しくもない試験で、優秀な学生であれば中等部の時点で通過することができるのだが、私は結局卒業するまで試験を通過することはできなかった。
私は20歳にしてようやくその試験とほぼ同じレベルの依頼を苦労しながらも達成することができた。
こみ上げる嬉しさと共に、自分が学園内でいかに落ちこぼれであったかを改めて実感し色んな感情が籠った涙を流した。
―――
(あれから少しずつEランクの色んな魔物を討伐できるようになったけど、さすがに一つ上のDランクの魔物はまだ厳しいかなぁ…………。群れで動く魔物が出てくるし、オークは基本単体で動くらしいけど昔の依頼の記憶がちょっとトラウマになってるし……。)
宿屋を出て冒険者ギルドへ向かいながら今日は何の依頼を受けるか考えを巡らせる。
アルガード王国の王都アルガルディアからそれほど離れていないこの街ムーゲルは王都アルガルディアと魔工都エルムディアを経由する場所に位置しており人口も多く毎日外からもたくさんの人が街を訪れる非常に賑わいのある街であった。
早朝であるにもかかわらず今も大通りには多くの馬車や人が行きかっていた。
(結構早い時間だし、あの子と鉢合わせることはないよね…………たぶん。)
すれ違う人達の顔をチラチラと確認にしながら、寝起きから気分を暗く落とす原因たる人物の特徴に合う人がいやしないかと探したくもないものをついつい探してしまう。
(ここ王都からそんな離れてないし、あの子ももう高等部になったし、課外実習でここまで来るのも別におかしいことじゃあないか…………。というかあの子ならこの近辺よりも危険な場所でも何も問題ないだろうし。さすがに私を探しに来た―――なんてことはないと信じたい。)
昨日冒険者ギルドにて依頼書が張られたボードを眺め依頼を吟味していたところ、後ろ側に立っていた二人組の冒険者の会話が耳に入ってきた。
『そういえば聞いたか?一昨日あたりからあの"剣姫"のエルネ・ランフォールがこの街に滞在してるらしいぜ。』
『ほんとうか?あの稀代の天才三姉妹と噂の?一番上の子だっけ?』
『そうそう。噂通りの白金色の髪のめちゃくちゃ綺麗な女の子がでっけえ大剣背負って昨日ここに来てたらしい。』
『へぇ~。一目見てみたいもんだな~。でもその姉妹たちってまだ学生だろ?何しに来たんだ?』
『その子が通ってるアルガルディア魔法学園の課外実習ってやつなんじゃねえの?たまに学生ぽい奴らが依頼を受けに来てるの見かけるぜ。』
『なるほどねぇ。――――――――』
『―――――――』
彼らの会話は途中から耳に入らなくなり、頭が真っ白になった。
昨日は結局依頼を受けることもなく逃げるように冒険者ギルドを出て一日中宿の自室に閉じこもってしまった。
どうやら数日前からセラ達姉妹の次女―――エルネがこの街に訪れているらしかった。
実際に私がエルネを見た訳でもないし、彼らの話が事実だと確定した訳でもない。あくまでも噂話程度の会話ではあるが、二人組の冒険者が話した人物の特徴を考えればその人物が自分の妹であると、嫌でも信じざるをえない。大剣背負った金髪美少女なんて珍しい上にめちゃくちゃ目立つ存在がそう何人もいるわけがない。
「はぁ…………あの家から逃げだした手前、絶対に会いたくない…………というか会うわけにはいかない。」
ついつい口から気持ちがこぼれ出てしまう。
(卒業した後もうちょっと離れた場所に行くべきだったかなぁ……。いやそれだと師匠とも出会えなかったわけだし。)
あの子がいなくなるまで宿屋に籠っていたいぐらいだけど、なけなしの所持金が消えていくだけなのでそういうわけにもいかない。
(あ、フードかぶっておこ………………。)
顔を隠すようにフードを深めにかぶり、冒険者ギルドのある建物へ向けて心なしか重たく感じる足を動かした。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
更新はスローペースだと思うのでふと思い出した時にでも読んでいただけると嬉しいです。