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厄病女神と謎の組織の概要

 かつて我が大学にはいくつか謎の組織があった。

 一つは、誰が呼んだか青春倶楽部という糞恥ずかしい名前のサークルである。

 大学のサークルの多くは真面目に文化活動に打ち込み、スポーツに汗を流し、同好の者と語らう集まりではあるが、しかし、中には少々趣を異にするものがある。例えば、ある政治主義や宗教に勧誘する目的を持っている組織などもあるにはあるが、それは、まぁ、さて置くとして、最も多いのは異性との出会い知り合い性春を謳歌しようという不健全にして不真面目極まりない目的を持つものである。この手のサークルとは中々に多く、建前は真面目ぶっていても実際の活動ときたら、親睦を深めるという名目のコンパばかりというサークルなど、どこの大学にも腐るほどある。いっそのこと腐ればいい。

 この青春倶楽部の主目的も前述のような不真面目な活動であったのだが、この倶楽部が他者と一線を画するのは、ズバリ、この主目的を全面に押し出し、様々なイベントを企画したことである。当然至極不健全不真面目ということで、大学当局と大いに反目した。

 さて、二つ目の組織とは、人間写真部という組織である。活動内容は人間を撮るだけである。一見、何も後ろめたいことなどないように思えるが、この組織も不健全不真面目極まりない。

 この人間写真部の人間が撮影するのは所謂美人とか綺麗とかかわいいとか云われる娘っこやカッコいいとかハンサムとかイケメンとか云われる野郎である。彼らはそれら外見に恵まれた連中の写真を本人の許可も得ずに撮影し、その写真を影で売り飛ばすという肖像権をコケにするような非合法活動を繰り広げていた連中である。その盗撮活動は度々問題となり、やはり、大学当局に迫害された。

 他には、代文屋という組織がある。昔、識字率が低かった頃に、手紙や書類を代筆する職業の人がいたらしいが、それとは全くもって関係がないものの、少々似ている活動をしている連中である。

 彼らが代わりに書くのは、普通の手紙や書類ではなく、多くの大学生の悩みであるレポートや論文である。これを彼らは様々な過去の論文やレポートをあちこちから切り取ったり編集したりして巧妙に独自のレポートや文章を作り出し、本人の筆跡を真似て書き上げるのである。勿論、有料である。

 それと同じように恋文の代書も手がけており、彼らの作り出した恋文は一万ものカップルを作りあげたとかいう嘘だか本当だか分からない伝説が実しやかに語られているものである。当然、こちらも有料である。

 学生の本分は勉学である。その大学生が自己で作成すべきレポートや論文を金の力で他人に作成依頼するなど言語道断である。当然、こちらも大学当局の弾圧を受ける。

 この他にも、何の意味があるのか分からないが、無意味矢鱈滅多に大学の不正やらサークルの醜聞やら何やら、スキャンダルっぽい秘密を探り出そうと躍起になる目付会や、貧乏学生やサークルに低利で金を貸し付けてくれるが、様々な方法で債権を強引に回収してくる勘定所や冬は勿論春でも夏でも鍋会を主催して、通りがかりの人間に無理矢理鍋を食わせる鍋奉行所や学生たちのちょっとした苦情を受け付けて、ボランティア活動めいたことをしてみるハロー苦情とか、とにかく、よく分からない組織がたくさんあって、いずれも、まぁ、活動がどうにも学生相応しからぬとか不健全極まりない等の理由で大学当局から不遇を囲っていた。

 これらの組織はいずれも大学当局から目を付けられており、度重なる規制や取締りにより活動は非常に困難になっていた。

 そこで、彼らは団結し、結集し、組織化することによって、大学当局に対抗し、生き残りを図ったのだ。

 こうして、誕生したのが、俺の所属する組織、通称「倶楽部」である。というのも、成立の経緯がいくつもの組織の合同であった為、どいつもこいつもが自己の組織の名称に固執した結果、よくある合併した銀行のように「〇〇××△△銀行」とかになりかけたものの、合同した組織の数が大小合わせて一〇近かった為、その案は破棄され、結局、名称は「ナントカ倶楽部」にするということしか決まらず、とりあえず、名前に関する件は後回しにして、合同を行ったという。その後、名前を決める件は延々と先送りにされ、合同から二〇年ほど経った今も「倶楽部」のままなのである。

 いい加減といえば、いい加減ではあり、学生の組織ゆえにルーズでてきとーなところおあるものの、二〇年といえば、下手に歴史がある為、長年の間に培われていった規則や受け継がれてきた慣習などがごちゃごちゃと定まっており、至極厄介極まりなかったりもする。

 この倶楽部の肝心な活動目的はというと、これが実際よくわからない。なんとなく、なんにもやっていないような気もするし、何でもやっているような気もする。倶楽部内のそれぞれのグループや個人が勝手気ままに活動しているかと思えば、全体で行動するときもあり、結局のところ、何故、何のために、どうして、こんなヘンテコな組織があるのか俺含め組織に入っている連中もよくわからないのだ。ただ、なんとなく、面白そうだから、入ってみて、面白いと思った活動をしているに過ぎないのである。そのくせ、組織の決まりがどうたらこうたら慣習があーだこーだとのたまっているのだから、一体、俺たちは何をしたいんだろか?

 さて、その倶楽部は元々が小組織の集まりであった為、その倶楽部の中にいくつかの部署が並立する形になっている。元々の小組織は倶楽部の中で重なる組織と合わせられたり改組されたりしていき、現在は大きく分けて七つの部署が存在する。

 まず、かつての青春倶楽部の影響を強く残すグループがある。ここは更に面倒なことに、グループとしてはまとまっているのだが、グループをまとめて呼ぶ名前が存在しない。これまた、おそらく、設立時に云々したせいであろうが、便宜的にそこの責任者である幹事長の所とか幹事とか呼ばれている。ここは、倶楽部内での行事を一手に行っている部署であり、年に何度もある旅行会や宴会などを企画運営している。また、何故か、かつての鍋奉行所がこの中に生き残っていて、たまに大学構内で鍋をやっている姿が見受けられる。

 次に勝手方がある。ここは倶楽部の金勘定を司る部署であり、かつての勘定所のように金の貸付と取り立ても行っている。

 公事方は組織内の規則を定めたり、秩序を維持する組織であり、あんまりにも羽目を外した奴にお灸を据えるのが仕事である。ただし、何故だかお節介なことに組織外の人間であっても秩序を乱しているとかお灸を据えないといけないと判断すると勝手にお仕置きしに行く正義の味方ぶった迷惑な連中である。

 大目付はこれまた、正式なグループの名称がないのだが、基本的に責任者である大目付の名がグループ名の代わりのように使われている。活動は組織内の監査であるが、これまた、昔の組織の流れで、関係ないところの情報も収集しようとする癖がある。ちなみに、当代の大目付が俺である。

 人間写真部と代文屋は前述したとおりの組織であり、今も脈々と倶楽部の中に生き延びている。

 最後に雑務所があるが、これは、倶楽部内の他の部署がやらないざっぱ仕事を押し付けられているところである。

 これが、我が倶楽部の実態である。


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