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悪役令嬢RTA [2]

 心地の良いまどろみから、ふと意識が浮上した。ひどく懐かしい夢を見た、そんな感覚が心に残っている。

 ここではないどこかで、配信というものをしていた彼女はやはり自分の前世か何かなんだろうなとすとんと納得がいったような、そんな感覚がある。


「もしここが、前世で言うゲームと同じ世界なら」


 夢を思い出す。RTA内では、通常プレイした際には起こらない不可能を可能にすることもある。


「エンディングの後に、悪役令嬢が出現するバグ……」


 前世でこの世界を愛した有志たちがたどり着いた結論。あのゲームで唯一悪役令嬢がエンドロールの後に出現するのはそこだ。


「……再現、できるかしら」


 RTA走者として駆け抜けたこの世界と、実際にこの世界に生きているのでは勝手が違う。

 コマンド入力やクリックを駆使すればよかっただけのあの時と生身でコマンドを再現する難易度は天と地ほどに差がある。


「とりあえず、思いだしたチャートを書き起こして……」


 0.01%でも成功する望みがあるのならば、それにかけてみよう。

 再走の望みはないから、保険に保険を重ねて。リーヴィアは思い出せる限りの記憶をノートへと書き出す。


……………………

 月に照らされ、リーヴィアが机に突っ伏している。何か作業をしていて、力尽きてしまったようだった。


「……なんだこれ」


 ルキフェは穏やかな顔つきで眠るリーヴィアの傍に開かれた書きかけのノートをめくる。どうやら、このノートに何かを書き込んでいて疲れてしまったようだった。


 半分ほどのページが埋まったノートはどこもかしこもびっしりと書き込みがしてあり、時折何かを解説するような図が描かれていた。ルキフェは書かれたノートの内容を理解しようとするが、どのページをめくっても、彼女のノートには見慣れない文字列が並んでいる。


「……古代文字でも暗号でもないこれは一体?」


 出来すぎるほどに完璧で素晴らしい妹だ、自作の文字を作ったのかもしれない。

 ……だとしたら困るな、レヴィの考えていることや計画がわからない。

 それでは困る。彼女の計画することすべてを知っていなくては手助けができない。


「おや、淑女の部屋に堂々と家探しに夜這いとは……お兄様でも言い逃れはできないんじゃあないかな」


 ふと、聞きなれた声で耳慣れない言葉がかすめる。妹の声で、淡白な話し方をするのは誰だ。ノートから顔を上げ、声の主を探す。


「……貴様、レヴィの身体を乗っ取った悪霊の類か?」


 声は間違いなく、妹が発したものだ。しかし、普段の彼女が決して発することのない男のような口調だった。


「あはは、御冗談を。ちゃんと貴方の妹ですよお兄様」


 そういってお道化た口調で笑うこいつは、誰だ。僕の妹に何をした。


「どういうことだ、説明しろ」


⋰⋰中略:様子のおかしいリーヴィアと少し会話をしてから


「何と言ったらいいんですかね。私は貴方の愛する妹さんの分裂した魂と言いますか、前世の人格といいますか」


「ふむ、ならばレヴィの一部ではあるのか」


 説明が難しいんですよねえ、と妹であって妹ではない彼女は言う。

 リーヴィアの前世であり、魂としてはリーヴィアの一部ではあるもののレヴィとして生きたわけではないからリーヴィアとも言い切れないという非常にややこしい状態だそうな。


「何故、お前は目覚めたんだ。そもそも、お前の状態の時の記憶はレヴィに引き継がれるのか?」


 今のこの慇懃無礼な態度は決して本来のレヴィに見せられたものではない。記憶が共有であるならば何かしらの方法で今晩のことを忘却させなければ。レヴィに見限られてしまうのではないか。


「おおこわいこわい。せっかくお兄様も綺麗な顔をしてらっしゃるんですからそんな表情しないでくださいな。リーヴィアちゃんが見たら泣いちゃうぞ?」


「そもそも、(リーヴィア)として生まれ変わったときは私としての前世の記憶はなかったはずだ。それを呼び起こして理を曲げたのは君のほうだろう? お兄様」


「分からないとは言わせない。繰り返す前に目の前で(リーヴィア)の首が落とされた後、世界を滅ぼしつくした君が願ったんじゃあないか、もう一度妹との生活を! 今度こそ彼女が死なない世界を! 何をしたっていい、彼女があの時以降を幸福に生き永らえる世界を! とね」


「君のそのけったいな執念が、私という存在を呼び起こしてしまったんだ」


「ははっ、なるほど。僕の願いの結果が君、ということか」


「この国は、彼女を犠牲に成り立っているんだ。君の妹、つまり私も含めてなんだが───を必ず特定の日に死なせることで彼女の中に蓄積された血の契約の完遂と魔力の開放がなされる。神を呪う前にこの国の王家を呪うべきだろうね」


「ああ、それを知っているから、あの時殿下はレヴィをためらいなく殺したというんだね?」


 ならば、王家など生かしておけない。妹を供物に、国を富ませようというのならこんな国は滅びてしまえ。一人の犠牲で万民が助かるとして、犠牲になると分かっていて万民のためにと最愛の人を差し出す道理はない。何千回繰り返したやり直しは、全て王家が原因だったというのか。


「まあ、そういうことだね。話が早くて助かるけれど、その殺気をしまってくれないか? 体が震えて仕方がない」


「……ああ。僕の願いが君を呼び寄せたことは分かった。所で、君はどうやってレヴィが死ぬのを回避するつもりなんだい」


「お兄様、まずは聞くけれど───ゲームってものを知っているか?」


 RTA、ゲームの中での王子と『ヒロイン』の話。なぜ兄の願いで前世の記憶が保持されたままなのか。妹がやろうとしているのは前世の記憶を利用した生存計画。ノートの文字は架空言語じゃなくて前世で使っていた文字。妹の側は自分の考えや感情や今起こったことは抜けないが前世の知識を夢として見ている。妹の考えることや感じたことなどは前世側の人格に筒抜けである。今こうやって話している記憶は妹側には伝わらない等々。


「なるほど、君はレヴィの考えることもこのノートの文字も読めるから僕と計画を共有できるということか。レヴィに秘密裡で死なないように救うための共謀者、そういうことだね?」


「そういうこと。せいぜい死なないように頑張りましょうねお兄様」


 この時、前世の人格(わたし)は言えなかった。兄であるルキフェもゲームの攻略キャラであるということを。


 隠し事をし始めたリーヴィアに向けた執着心を邪念だと『ヒロイン』に浄化され、あまつさえ邪念のもとはリーヴィアだと言われてしまうことを。洗脳に近い手法でリーヴィアへの執念が浄化され、ただの優しい年上のお兄さんキャラになってしまうなんて、バットエンドでは妹が居なくなった世界に絶望し『ヒロイン』を妹に見立てて監禁する終わり方だっただなんて、口が裂けても言えない。別のルートではリーヴィアが目の前で殺されたことに絶望して魔王となり、『ヒロイン』たちが倒しきれなければ世界征服を完遂する男だ。


 どうにかして、味方に引き入れたままで居たいなと私は打算に満ちた考えを巡らせる。それにリーヴィアは純粋な味方としてこの双子の片割れを慕っている。彼女の夢を壊してはいけないだろう。


「無論だ。たとえ国が滅びようと、今度こそ僕はレヴィを守るんだ」

そう決意した彼の瞳は冷たく昏く凪いでいた。


⋰⋰中略:リーヴィアがチャートを発動するために奔走する。ルキフェはその裏でゲームで起きていることと現実にどの程度乖離があるのかなどを調べてリーヴィアよりも先に障害を消そうとしている。

⋰⋰中略:『ヒロイン』が順調に話を進め、ルキフェのイベントを起こす場面


「私は、貴方を止めなくちゃあいけません。だって、魂から黒い靄が消えていないのだから。お願いです、私に貴方を救わせてください。貴方は悪に囚われているのです」


 レヴィ曰くこの物語の主役だと言う少女が、曇りのない瞳でこちらを見据える。

 清く正しい人類を救済する高潔な魂とやらには反吐が出る。レヴィを敵視する人間の何が正義なのだろう。


「去れ。さもなくば殺す」


 うなるようににらみつけると、さすがの『ヒロイン』も怖気づいたようでびくりと身を震わせた。


「何故、何故ですか? たった1つの犠牲でこの国は救われるというのに!」


 耳障りな声で縋るように悲痛に叫ぶこの女は、微塵もわかっていない。

 この世の中で、僕が欲しいものがそのたった1つだということに。


「……………………たった、1つ?」


 悪役令嬢が唯一生き延びるルートとやらはもういいんじゃないかな。ルキフェは本気でそう思った。


 …………だって、僕がこいつらすべてを消してこの国をレヴィに捧げればいい。

 彼女がこの国の女王になって僕がそれを支えれば、この国は救えるんじゃあないだろうか。

 ヴァルガート侯爵家の血統を生贄にこの国が繁栄しているのなら、王族を生贄に国を栄えさせたっていいだろう?


「ふふふ、そうかもしれないね。だったら」

……君を犠牲にささげたっていいはずだろう?


 女にそう囁くと、彼女ははっと目を見開いた。

 自分が犠牲になることを想定していない愚かな保身思想。結局は被害に遭わなければ痛みなんてわからないのだから。


「君の愛しの王子様を捧げたっていいんだ」


 なぜ、僕からレヴィを取ろうとするの?


⋰⋰中略:リーヴィアとルキフェがいろいろと動いたことにより、本来のスケジュールが狂ったためシナリオが逸脱してしまう。ここは、王子がリーヴィアを殺そうとする場面。


「君にはすまないと思っている。王族として、この国のあり方が歪だと言うことは重々承知してる。だが、背に腹は代えられないんだ」


 王子は、痛ましいものを見るように、申し訳なさそうに、剣の切っ先をリーヴィアへと向ける。

 窓もなく、逃げ場のない部屋の中でこれでは死んでしまうだろうなとぼんやり思う。


「この国が栄えるためなら、確かに仕方がないかもしれませんわ」


 そういってあきらめたように笑うと、王子はほっとしたようで顔から険が抜ける。

だからと言って死にたいわけじゃないんですがね。と思うものの国が滅びるのはさすがに困る。


 それに、記憶の通りであればここは殺される時に特定のコマンドを打つことでエンディングの後に呼び出されるはずだ。


……だが、本当にこの世界はゲームの世界なのだろうか?

リーヴィアはこの土壇場で思ってしまった。


 この世界から転生した人間があのゲームを作っていた場合、これは現実であって死んだ瞬間にもう蘇ることはできないだろう。


「ああ、だから済まない。死んでくれ」


 王族の持つ剣に、私の血と魂を吸わせることで盟約が完了する。

 また100年の栄華をこの国は誇るのだろう。それはなんだか、とても癪だ。


 ───犠牲になることを承知の上で、私を生んだ両親はどんな気持ちだったのだろう。

 どんな心持ちで、国の犠牲となる娘を育ててきたのだろう。


 思い返される両親や兄たちとの思い出は常に笑顔にあふれていた。

 ……こんな風に、国に使いつぶされて本当に納得できるのか?

 思考が停止したように、国に従うだけで本当にいいのか?


「……ごめんなさい、殿下」


 否、そんなはずはないだろう。私の記憶には将来の幸福を願う両親の言葉があるのだから。

 ———さあ、始めよう。私の生存する世界を。

 脳内で、玲瓏とした声が響く。声は、一度目の私(リーヴィア)のようだった。


 悪役令嬢と、諸悪の根源と呼んでくる王家の側が悪いのだ。彼らが悪役と呼ぶのならば喜んでその役を演じてあげようじゃないか。正直、国が滅びるのは忍びないが、国民が恨むのなら呪いをかけた過去の王家を恨んでほしい。


 もう、自分を犠牲にして世界を幸せにするなんて嫌だ。いくら、ゲームのようにコマンドを打ったって、必ず犠牲になり、何度も死ぬ恐怖を味わい、正気を保っていられないほどに痛い思いをしないといけないのに。


「なに、を」

「お兄様、助けてくださいませ」


 そっと呼ぶのは、最愛の家族。

 彼がいれば、もうなんだって怖くはない。私の片割れ、生涯唯一といっていいほどの味方。


「…………レヴィに何をしようとした?」


 部屋の温度が、一気に冷え込むようだった。ジワリと溶け出るように宙から現れた兄は蔑んだ目で王子を見つめる。


 私を背にかばうように降り立った兄の手から赤い何かが投げられ、王子の足元に転がる。


「──────っ! アーテ!」


 悲痛な声とともに、王子がそっと赤い何か———いや『ヒロイン』の首を拾い上げた。

 苦悶にゆがんだ彼女の表情が、兄と彼女の話し合いが決して穏やかではなかったことを物語っている。


「お兄様? いったい何をなさったの?」


 なぜ、あの子は首だけになってしまったのか、と兄に問いかける。

 兄は静かに頷くと、至極当然だと言わんばかりに答えた。


「レヴィの呪いを肩代わりしてもらおうと思ったのに、負荷に耐えられずに失敗しちゃったんだ」


 だから次は、あいつで試そうね。と兄は王子を指さした。


「ああ、哀れな王太子殿下。貴方は貴方の先祖に呪われるのです」


 朗々とした声と共に紡がれる魔法陣はきらきらと輝き、王子を拘束する。

 兄の声が止まるとともに、王子の胸に魔法陣は吸い込まれていった。


「さあ、自分の胸をその剣で貫くといいさ。君が犠牲になることでこの国が栄えるのだから安いものだろう?」


 酷薄に笑う兄は興味なさげに王子を一瞥し、背を向けた。


「まあ、この国が滅びたって僕らには関係がない。さあ、帰ろう?」

 王子に吐き捨てるように言うと、兄は私に甘く笑いかける。

 幾度も繰り返し、私を苦しめた呪いは、こうしてあっさりと王子の身に跳ね返っていった。


⋰⋰中略:王子の身に呪いが降りかかった事で、宝剣に刻まれた過去の記憶が見えるようになる。


 脳の中を記憶の奔流があふれる。切り刻まれる記憶、胸を貫かれる記憶、焼け落ちたがれきにつぶされる記憶。

 どの記憶もこときれる前の記憶は、見慣れた宝剣が胸を貫くものだった。


「な、んで」


 つぶやく声は自分のものではない。この記憶は、誰のものだ?


「でんか……どうし、て」

 縋るようにつぶやくその声は、間違えようがない彼女(リーヴィア)のものだった。


 ……この記憶は、いったい何だ?

 王子には分からなかった。


 ルキフェから返された呪いは、宮廷術師たちにもなすすべはなく。術師たちには、王国最良の魔導名家と名高いヴァルガート侯爵家にふさわしい出来ですな、と苦笑いされた。


「この呪いはもう、完遂するまで止まりますまい」

 術師たちは憐れむようにそう言うと、静かに部屋を去った。

 残された侍女たちは、ただ悲しそうに涙を流しながら私の世話をしている。


⋰⋰中略:王族の呪いによって、国が亡びるか、王子の犠牲で助かるかの瀬戸際。


 最期に見たのは、父王の酷薄な瞳だった。

 いつも期待していると笑っていたその瞳には、ひとかけらの温かさもない。


「ちち、うえ」


 胸を貫く宝剣が、どくりと熱を持つ。

 あぁ、王家(わたしたち)は一体どれだけの罪を背負って、この王冠を戴いていたのだろう。


「案ずるな。この国はこれで安泰だ」


 最期に聞いた父の声はひどくつまらなさそうなものだった。



この後は、国の混乱が平定されてリーヴィアが穏やかに暮らす描写を書く予定でした。


読んでいただきまして、ありがとうございます。

悪役令嬢RTAの書き散らしはこれにて終了でございます。


内容が気に入った方や、続きを楽しみにしている方などお気軽に感想をいただければと思います。

また、少しでも面白い、興味深かったと思う方は、ぜひブックマークや評価を頂けますと今後の執筆の励みとなります。

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