表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

その他

ファンタジー世界の主人公ですが、『作者ガチャ』に外れたのでまだまだクリアーできそうにありません。

作者: てこ/ひかり

「……最後に教えてくれ魔王。一体どうしてお前はこんな酷いことを……?」

「フン……」


 首筋に突きつけられた剣の切っ先から、つう……と一筋の赤い血が滴り落ちる。魔王は観念したように目を瞑ると、手に持っていた魔法の杖を投げ出した。勇者は、つい先ほど決着がついたばかりの宿敵をじっと見下ろし、静かに問いかけた。


「お前も昔は、愛と正義を信じる戦士だったと聞く。それなのに何故、世界を滅ぼすなんて、180°考え方が変わってしまったんだ?」

「貴様には分かるまい。ワシは……ワシは……」

 

 そう言うと魔王は、悔しそうに歯ぎしりし、勇者の真っ直ぐな瞳から視線を逸らした。


「ワシは『作者ガチャ』に失敗したのじゃ!」

「サクシャ……?」


 聞きなれない言葉に、勇者は思わず首をひねった。サクシャ? ガチャ? 魔王は一体、何のことを言っているんだろう? もしや、強大な力を誇っていた魔王の、さらにその後ろに黒幕がいるとでも言うのだろうか!?


「そりゃワシだって最初は冒険少年だったさ! 見果てぬ夢に、胸焦がれておったわ! だけどワシの作者は……!」

「詳しく聞かせてもらおうか」

「ワシが生まれた時、作者は14歳。初めての創作活動に興奮覚めやらぬ様子で、目をキラキラと輝かせておった。最初は『正統派ファンタジー小説』じゃったのだが……」

「…………」

「じゃが売れなかった」

「何?」

「そりゃそうじゃ。同じような設定の、もっと面白い作品がたくさんあるし……ネットで公開されたものの、注目度は皆無に等しく、閲覧数も一日に一人か二人いればいい方じゃった」

 魔王は目を細め、訥々と語り始めた。


「最初は『毎日更新する!』などと意気込んでおったんじゃがのう。全然人気が出なくて焦ったのか、あろうことか作者は、途中から一話完結型のギャグ&コメディに方向転換したのじゃ!」

「さっきから何の話をしているんだ?」

「それからは地獄じゃった……。ワシは世界を救う屈強な戦士として生まれたはずなのに。その日以来、足元にバナナの皮が突如出現し、全身の骨が砕け散るまで転倒させられたり……何もない空間から巨大な金だらいが降って来ては、ワシは脳震盪を起こし病院に運ばれた……」

「ダライ……? それは何と言う攻撃魔法なんだ?」

「ある時、『驚き』を表現するために、ワシの両目は勢い良く前方へと飛んでいき、それでワシは失明した……」

「何と……酷い……」

「常にオーバーリアクションを求められ……大して辛くもない料理で口から火が吹けるようになったり……そうして徐々にワシは人間の道から外れていったのだ……」

「それで魔王は、口から火を吹くのか……」


 魔王が再び勇者を見上げた。本来両目があったその窪みには、なるほど今では真っ赤な魔眼が埋め込まれている。勇者は息を飲んだ。衝撃的な話だった。魔王はそのサクシャとやらに体を操られ、弄ばれていたのだ。目玉をくり抜くとは、サクシャとは、何と言う悪逆非道な人物であろうか!


「それでウケたらまだ良いんじゃが……閲覧数は相変わらず伸びなかった」

「何だって!? そこまで……そこまで体を酷使して、何の効果もなかったと言うのか!?」

「そのせいで作者はやる気をなくし……全然続きを書かなくなってしまった。最初は『一日3000字書く!』なんて言っておったのに……」

「バカな……自分で始めて置いて、嫌になったからって勝手に投げ出すだと!?」

「じゃがワシは、内心ホッとしてもおった。『これでもう、無茶苦茶な話に巻き込まれないで済む』……。喜びのあまり、無防備の状態で宇宙空間までジャンプさせられたり、石化したり、落雷を浴びたりしなくて済む。そう思っておったのじゃが……ある日……ある日……」


 魔王はわなわなと震え出した。


「あろうことか作者は、ワシをほったらかしにして新連載を始めておったのじゃ!」

「シン……?」

「しかもそれが、そこそこ人気が出ておった! 作者はそっちに夢中で、ワシの方は忘れ去られたかのように……その様子を見て、ワシは作者に復讐を、この世界を必ず滅ぼしてやると誓ったのじゃ!」

「なるほど。魔王もそれなりに苦労していたんだな……」


 勇者は剣を収め、腰に手をやった。


「しかし……話を聞く限り、一番悪いのはサクシャじゃないか?」

「何?」

「だってそうだろう? そのサクシャとやらが、どこか遠いところから攻撃魔法を使い、君を困らせ、嘲笑っていたんだ。真に倒すべきは、サクシャだ!」

「勇者……貴様……」

「一緒にサクシャを倒そう、魔王」

 勇者は魔王に手を差し出し、穏やかな、しかし力強い笑みを浮かべた。


「勇者と魔王が手をとりあえば、きっとどんな的だって倒せるハズさ! 今こそ手を取り合おうじゃないか!」

「し、しかし……アイツはこの世界ではなく、何処か別の並行世界に……」

「きっと大丈夫! さあ!」


 勇者の圧に押され、魔王は疑りながらも、ゆっくりと彼の手を握り返した。


「ワシのために戦ってくれると言うのか……勇者ともあろう者が……」

「勇者だからこそ、さ。卑劣な行為は見逃せない! ちくしょう、サクシャの奴め! 話は全て聞かせてもらったぞ!」


 魔王に肩を貸し、勇者は持ち前の闘志を漲らせた。


「見てろよ! たとえどんな世界に逃げようとも……この世界を捨て、別の世界に渡

ることになったって、きっとお前を見つけ出して、成敗してやるからな!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] はじめましてm(_ _)m これは素晴らしいエターナルストーリー(笑) サクシャとのファイトに出版社との戦いと無限の展開が膨らみます(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ