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黄昏探偵は振り返らせない  作者: ぼんばん


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82/92

82.警戒

 東雲と薄石の関係が次第に明らかになります。その先に待つのは一体どんな答えか。

 ゆっくりではありますが、数日おきに更新継続します。よろしくお願いします。

 さて、俺達のやるべき仕事は幾つかあった。

 まずは南条さんへの協力要請。これは今日かわたれ事務所へ行く俺が伝えることになった。

 次に彩明さんが先生のことをどれだけ知っており、こちらに来る前の2人の関係を聞くこと、これは今晩3人で食事を摂る時に聞くことになった。雪花さんが千里さんの動画を見終わってすぐ誘ったところ、ノリノリで鍋! とリクエストがあったそうだ。彩明さん、お鍋大好きである。


 その上で明日先生に相談する。十中八九彼の死因に関わることになる。俺たちとしても対応に悩むところである。

 ただ、情報を集めた上で何ができるのか。

 いずれにせよ羽柴を捕らえ、施設ー場合によっては他地区ーに収容するしかないのだろうが。


 俺はない知識でアイデアを絞りつつ、言い知れぬ不安感に思わずため息をついた。

 さて、今日も走って出勤である。




「よお日笠! 思ったより元気そうだな!」

「南条さんも、千里さんの時以来ですね。」


 つまりは数日ぶりってことだ。さほど経ってない。

 今日の俺は甦りに関する案件ではなく、軽犯罪を犯した故人に対する支援である。以前から思っていたが、彼は体格や戦闘力ゆえか、そういった事案の担当が多い。

 丸々1日を費やすため、南条さんの車で移動する予定だ。


「今日は付き合わせて悪いな。」

「いえ、でも結構重要そうな案件が多いですよね。事務所の人でなくてよかったんですか?」


 俺が質問すると、ハンドルを切りつつなんとも言えない顔のまま、あー、と小さくつぶやいた。

 何でだろう、俺が返答を待っていると南条さんは予想だにしない答えを教えてくれた。


「実はな、近いうちに黄昏探偵事務所に戻るんだ。」

「えっ、そうなんすか!?」

「ああ。元々は戸張のことを調べるために転籍したようなものだからな。そうしたらお前とは同僚だ。」


 そっか、それは素直に嬉しい。うちの事務所は晴間さんがいた頃はもう少し人数がいたようであるし。

 ただ、俺の甦りの件は彼の耳には入っていないらしく、明らかに楽しげな彼にはとても言い難い雰囲気だ。


「諸々の件終わったから新規の人員募集もするだろう。喜べ、お前も先輩だ!」


 やべー、薬のこと絶対言えねえじゃん。

 大柄に笑う彼の横で、俺は別の件で内心汗だくだくであった。


 今回の訪問もそれに関することが目的だったらしい。南条さんを懇意にしている相談者達に転籍のことを話し、利用先を黄昏探偵事務所へ変更するか、担当者を変更するか、そういったことを確認していた。

 もちろん通常の相談や経過確認も行っていたが、優しく、時に厳しくを使い分けられる南条さんの話術の凄さを改めて思い知らされた。先生と組んだらまたいいコンビなんだろうな。


 結果としては半々。

 南条さん個人と付き合いたいという人もいれば、かわたれ事務所のネームバリューを信頼している人、また南条さんと組んだ人への信頼を持つ人もいた。

 もちろん、同席した俺への不信感を示す人もいたが、意外にもそれは少なかった。


 仕事後、車に乗り一息つく。

 本当は昼に話そうと思ったけどそれどころではなかった。

 俺が助手席のシートに寄りかかり息を吐くと、右頬に冷たい物がくっつけられた。情けない声を出すと、南条さんは笑いながら乗り込んだ。


「ご苦労さん。お陰で早く終わったぜ。」

「いえ、南条さんこそお疲れ様です。飲み物もありがとうございます。」

「いーってことよ。直帰だったな? 家まで送るか?」

「その前に相談が。」


 少し声が上ずってしまった上、早口になってしまったが、南条さんはしっかり聞き取ってくれたらしい。

 コーヒーを開けた彼はいつもの余裕のある声音で尋ねてきた。


「深刻そうだな?」

「はい、実は昨日ーー。」


 昨晩確認した千里さんからの情報をなるべく詳細に話した。はじめは驚いた顔であったが、次第に剣呑さを帯びたものに変わっていく。

 俺が一通り話し終えた頃には眉間の皺が深く刻まれていた。


「なるほど。薄石に告げなかったことや中途半端に警察に伝えなかったのは賢い判断だろう。1番良くない事態は薄石にとっての何らかのトリガーを引いて予想しない動きをされることだからな。にしても、斑目、仕事が嫌いとか嘘だろう。」

「そっすね。」

「ま、それもお前らのためだろうがな。」


 そう言いながら南条さんは俺の頭を撫でた。

 確かにはじめの頃はサボってる印象が強かーーいや、実際にサボっている。あの人、金森くんの時もサボってた。

 意味が分からず俺が首を捻っていると、南条さんは笑っていた。しかし、すぐに真剣な顔に戻った。


「ちなみにこの後の予定は?」

「この後は雪花さんと彩明さんと合流して鍋食べにいく予定です。前に彩明さんが先生のことを覚えているようなこと言ってたんで確認してから、先生に相談した方がいいかなってなったんす。」

「……そうか。」


 南条さんは少し考えるような様子を見せた。

 そして指を立てて話し出した。


「確認したいんだが、分かる範囲でいい。薄石は誰かを家に招いたことがあるか?」


 前に戸張のごたごたがあったときに人が家に来たのははじめてと言っていた気がする。


「多分ないと思います。あー、何か点検の人とか出入りしてたら分からないっすけど。」

「安心しろ、この世界は点検作業なんてなくても設備維持可能だ。」

「あとは家の鍵を紛失したりマスターキーで開けられたりとか?」

「それもない。基本的に鍵は落としても何故か手元に帰ってくる。持ち主が近くにいないと使うことはできないからな。」

「え、そうなんすか? 前に千里さんが俺に鍵渡して先に入らせようとしてましたけど。」


 初めて会ったとき、あの人無防備に渡そうとしていたが。南条さんは目を丸くした後、なぜか腹を抱えて笑い出した。


「斑目も知らないことあるんだな! 本人が不在で使える例だと罪人の保証人やその同事務所の人間に限る。ま、それは置いておいて、早急に東雲に言うべきだな。」

「え、言っていいんですか?」


 俺は露骨に動揺してしまった。

 自分が死因を知ってしまったときのことを重ねてしまうこともあり、伝えることに対してはどうしたって抵抗があった。

 動揺を隠すことをしないまま俺は続けた。


「先生だって、もしかしたら自分が「日笠。」


 南条さんの鋭い視線が俺を捉えた。

 怒っているわけではないが、静かで圧を感じる。

 そして、南条さんは落ち着いた表情で俺と目を合わせた。


「東雲は、例え羽柴に命を奪われてた過去があったとしても、怯むようなタマじゃない。」


 そうだ、先生は凶器を持っている相手にも自分より一回り大きい人間にも一切怯まないような人物だった。

 俺は自分の考えを振り切るように頭を振った。


「まぁ、お前達から伝え難いのは事実。俺がこの後伝えよう。あとは警察にも伝える。俺が信頼できる筋に相談する。」

「分かりました。雪花さんにはスマホから伝えます。彩明さんには?」

「……それはさっき話した通り、伝えなくていい。知られないよう気をつけるんだぞ。俺達もすぐに動けるなら今日中にでも動く。」

「はい。」


 盗聴器への配慮や警察と先生への相談のタイミングについての助言をもらえたのはありがたかった。俺は素直に頷いた。




 約束より少し早い時間。南条さんに送ってもらった後、雪花さんと彩明さんと合流すべく彼女のマンションの出入り口で待っている。一度着替えてから行きたいと彼女から言われたのだ。

 ちょうど帰る時間のようで人の出入りが多い。羽柴らしき人はいないが。

 しかしながら、俺は千里さんの家によく出入りしていたせいか声をかけられる。世間話もするし、人によってはお菓子をくれる。


「こんにちは。」

「お疲れ様です。」


 知らない人に声をかけられ、俺は会釈をした。今の人は千里さんみたいにほぼ手ぶらのまま仕事に行っているらしい。あんまり見ない人もいるけどやっぱり入れ替わりもそれなりにあるんだな。何だか違和感がある。

 俺がそんなことを考えていると、彩明さんがオートロックの中から小走りでやってきた。


「お待たせ、真紘くん。雪花ちゃんは?」

「待ってないっすよ。雪花さんはそろそろ来るとーー、あ、来ましたよ。」

「久しぶりー!」


 彩明さんが大きな声で呼ぶと雪花さんも小さく手を振りながらやってきた。

 彼女はすでにスマホを見てくれたらしく、目が合うと小さく頷いた。


「店、いくつか見繕ってきたんだけど。」

「あたしも調べたんだけど、雪花ちゃんのオススメ行きたいな!」


 俺も大きく首を縦に振る。

 彼女の不運(ギフト)を考えると、正直今のタイミングで出会すことだってあり得る。余計なリスクは負いたくない。


「なら、ここ行こう。」

「そうだね! 真紘くんもいいかな?」

「もちろんっす!」


 ここからそう遠くない店を選び、俺たちは徒歩で店に向かう。

 ただ、この時俺はとてつもない胸騒ぎがしていた。まさか、この一連の行動の中に解決の糸口があったなど、この時の俺に知る由はなかった。

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