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黄昏探偵は振り返らせない  作者: ぼんばん


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64/92

64.作戦会議

 更新遅くなりました! 引き続きよろしくお願いします!

 ちなみにシリアスな話が続きます。


 次回は東雲視点の話になります。

 正直なところ、あれから役所は大騒ぎだ。

 『パンドラの鍵』を強制的に出現させる薬を盛られるという害を被った人は3人、実際のところもっと多く摂取しているであろうが、あの場には役所職員がほとんどだったためか故人が多かったのだ。

 ただその対応とパニックに陥った人たち、また事情を知らない移動販売車の店員達が責められるという地獄のような状況になった。


 俺らはあの後、千里さんの部屋で待機となった。雪花さんは彩明さんに付き添う形で泊まったらしい。

 千里さんも、いつも以上に口数が少なく、どこか落ち込んでいるように見えた。というのも、4人のランチの中で唯一千里さんの飲み物だけに薬が盛られていたことが判明したからだ。

 俺が口にせずとも、明らかな狙い撃ちであり彼も自分が狙われたことはすぐに察していた。自立心の強い千里さんのことだ、足を引っ張ったとか思ってそう。


「チッ。」

「うお。」


 前言撤回。シンプルに苛ついていただけだった。




 翌日。雪花さんに伝えられた通り、早朝から4人で警察署に向かうことになる。今回は千里さんの運転で車で向かうことになった。人轢くんじゃないってくらい凄い目つきをしていたけど、超安全運転で少し笑った。


「アンタ、ひっどい顔してるくせに安全運転だよね。」

「うっさい。」


 あああ、雪花さん。わざわざ言わないで。

 俺は冷や汗が出たけど、後部座席で彩明さんは笑っていた。もしかしたら雪花さんは彩明さんに気を遣ったのかもしれないと車から降りる時に気付かされた。


 警察署に到着すると、他の協力してくれる探偵事務所の方々、そして東雲先生と南条さんが既に到着していた。というか、詰めていたのか、目元に薄らと隈ができていた。勝手に動いてはいけないと分かっていたが、何もできないことが申し訳なかった。

 俺がそんなことを思っていると東雲先生はなぜか眉を八の字にして声をかけてくれた。


「役所での騒ぎ、聞いたよ。大変だったね。斑目くんも。」

「俺は別に……。」

「俺も真紘に助けられたから困ってないですよ。腹は立ちますけど。」

「はは。」


 らしいなと言わんばかりに目を細めた。

 それから間も無く会議が始まった。今回の作戦チームのリーダーさんが1番に開口する。


「今回の標的は、戸張半宵、城之内奏、恰幅の良い中年男性の3名だ! 各標的の特徴は記載の通りだ。」


 俺も先生や雪花さんに倣って資料を見た。警察があれから調査をしてくれたのか、俺が知っている情報よりもだいぶ分厚くなっており、正直驚いた。


「戸張は、証言により『ギフト』を持っている。裏付け調査の結果、能力は『洗脳』で間違いない。被害者は把握している限りでも二桁に及ぶ!」


 資料を見てみると、俺も心当たりがあるものがちらほら。

 晴間さんや加地さんの件はもちろん、加えて藤堂さんの時の人工波を作る機械の誤作動。甲さんへ薬を盛り、地区内外の違法な行き来、さらに驚くことに俺が1番はじめに関わった木原さんの『パンドラの鍵』出現もまた関わっている可能性があるらしい。

 思わず口元を抑えてしまった。


「次に城之内、彼女は自称『ギフト』持ちであるが、実際には所持していない。戸張の『洗脳』により、自身が選ばれた人間であり『魅了』持ちと錯覚しているようだ。」

「……。」


 隣に座る雪花さんは何も言わずに己の唇に触れた。何か思うところがあったのだろうか。


「彼女に関しては場所も割れている。南区にある繁華街、そこの花街で働いており様々な人物を誑かしていると聞く。彼女に関しては今夜、捕獲して戸張ともう1人の情報を掴む。我々警察も私と、探偵事務所は南条さんを中心として動く。」

「雪花さんは城之内さんの捕獲にまわるんすね。」

「うん。意外だった?」

「まぁ正直。」


 俺が小声で答えると、雪花さんもまた小声で理由を語る。


「『ギフト』を持たないにも関わらず人心掌握に長ける、ある意味で恐ろしい事実だよ。そんな人間を相手するのなんて、アイツを超える罪を犯している人間が妥当でしょ。」

「そんな……。」

「止めても無駄だから。」


 雪花さんが別の世界がいかに険しい世界を生きてきたか、それを思い知らされた気がした。同時に彼女がいかに晴間さんの仇打ちに賭けているかを。


 他の班は周辺地区の大規模捜索、そして俺たちの警護に割かれる。

 ただ、俺としては手厚すぎる警護は正直迷惑だ。先日、戸張からされた提案のことを考えるとな。


 作戦そっちのけで俺がうんうん悩んでいると不意に俺の名前が呼ばれた。


「はい!」

「君は先日も戸張と接触したと聞いた。何か情報は得ていないかい?」

「……。」


 たぶん雪花さんが報告したな。

 ふと雪花さんを見てみるが視線は合わない。しかし、先生と千里さんとは目が合った。

 俺の意図を察してくれと願うばかりだ。


「アイツはまだ甦りを早める薬を持っていることを仄めかした上で、今回の事件の狙いが俺と彩明さんと仲のいい千里さんだったってことを明かしてきました。

 ……その後挑発に乗りかけたところで雪花さんが来てそれで助かりましたけど。」

「……それだけか?」

「それだけですよ? それ以上に得た情報はありません。」


 あくまでも2人に違和感を感じてもらうため、丁寧に言ってみるとなぜか周りにジロジロと観察される。

 何だこの視線。

 隣の南条さんが俺の挙動不審さをどう捉えたのか、苦笑いしながら小声で言われた。


「お前、『洗脳』されてんじゃねえかって疑われているんだよ。」

「ぉん!?」


 やべ、変な声出た。

 知人が全員揃って哀れむような顔をしている。いやよくよく見たら他の人達も妙な表情を浮かべている。


「……疑った私が悪かった。」

「そもそも『洗脳』されていたら、ここまで穴のある演技はしませんよ。」


 先生、フォローがあんまりフォローになってないです。俺のせいではあるんだけれども。

 リーダーさんがため息混じりに俺に注意をする。


「くれぐれも作戦中、妙なことをしないように。」

「う、はい。」

「大丈夫ですよ。そのために僕は警護班にまわったんですから。」

「そうそう、こんな暴れ馬乗りこなせるのは東雲くらいだぜ。」

「ちょっと南条さん。」


 会議の緊張感がいい意味で少しだけ緩んだ。

 そして、俺は意図が先生に伝わったであろうことを確信した。あとは千里さんに止められなければいいが。

 俺はなるべく顔に出ないように気をつけながら内心で安堵の息を漏らした。





 それから警察の人たちが慌ただしく出ていく中、黄昏探偵事務所と役所組、加えて南条さんで待っていた。このタイミングで出ていくと邪魔になりそうだもんな。

 ーーなんて呑気に考えていたのは俺と、強いて言えば彩明さんだけだろう。

 なぜか、残りのメンバーは口を閉ざしていた。


 はじめはこの張り詰めた空気に耐えられず、俺と彩明さんは雑談をしていたが、次第に話題が消えていく。

 警察の人たちが出切ったところで、先生が口を開いた。その声音はいつも通り穏やかで、どこか悲しげだった。


「ごめんね、日笠くん、薄石さん。変な空気にしちゃって。」

「いえ……。」


 彩明さんは肩を竦めた。俺は恐る恐る尋ねた。


「何か、このメンバーで共有しておく必要があるってことですよね?」

「……うん。」


 ああ、この顔知っている。

 前に先生と事務所で飲んだ時に、彼の話をした時に見た表情だ。


「……晴間さんのことですね。」


 先生が頷いた。

 雪花さんも、千里さんも、南条さんもみんな覚悟が決まった顔をしていた。

 俺と彩明さんは視線を交えた。俺たちも聞かなくてはならないと。


「聞かせてください。みんなが見てきたこと、戸張がやったこと。」

「うん。待たせてごめんね。」




 始まりはあの日。

 僕が初めて来たこの世界は生前に比べ酷く眩しい世界だったことを覚えている。

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