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黄昏探偵は振り返らせない  作者: ぼんばん


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49/92

49.薄石彩明、襲来

 新キャラ登場です!

 そろそろ折り返した気がします。

「はー、アンタ勘だけじゃなくて運もいいんだね。」

「それ、何回目っすか。」


 商店街での奇跡のわらしべ事件の翌日、【半生人】の事案を片付けた後、先生が処理をしている間、俺と雪花さんは待つため役所のロビーへ向かっていた。

 今回の事案は、病気による昏睡。彼は過去の記憶の世界を確認して、現世窓を見た上で甦りを即決した。確認する前は後遺症が嫌だと言っていたが、身体的には問題がなく、高次脳機能障害? というやつが残るかもって話を聞いたら動ければいいとあっさり受け入れていた。それを見送った帰りである。


「で、旅行いつ行けますかね!」

「事務所が休みの日ならいいんじゃない?」

「千里さんか南条さん来てくれますかね。」

「南条は予定が合えば来ると思うけど、アイツは嫌がりそう。」

「デスヨネー。」


 スポーツセンターに付き合ってくれるんだからチャンスはありそうだ。でも、遠出嫌いそうだよな。


「じゃあ南条さん誘ってみます?」

「そうだ、「キャアアアア!」


 雪花さんが頷きかけた時だった。

 階段の方から物凄い音と悲鳴が聞こえた。


 俺と雪花さんは言葉を交わすまでもなく走り出した。もちろん俺の方が先に辿り着くのだが、目の前の光景を見て開いた口が塞がらなかった。

 大した距離でなかったから雪花さんもすぐに追いついた。


「どうし……うわ。」


 目の前には散乱してしまった大量の資料、そしてその中央に倒れるのはミルクティー色のセミロングを乱し、床に突っ伏している女性。

 俺は資料を踏まないようにかき分けつつ女性に近づいて肩を揺らした。


「あの、大丈夫っすか……。」

「うう、はい。ありがとうございます。」


 真っ赤な額と鼻の先が目に入ったが、まん丸な目をした可愛い系の女性で、珍しく若い人のように見えた。

 俺に倣って彼女に近寄った雪花さんはいつのまに濡らしてきたのか、自分のハンカチを彼女に差し出した。


「顔真っ赤だよ。これ使って。」

「ありがとうございます……。資料は、あ。」


 彼女の声はワントーン低くなる。明らかに彼女には絶望感が漂う。雪花さんはやれやれと思ってそうだが、声には乗せず淡々と俺に声をかけた。


「資料、集めるの手伝うよ。ほら、日笠。」

「はいっす。あ、えと、順番直せます?」

「ごめんなさい……私数日前に受かったばかりで資料とかまだ十分に把握してなくて。」


 真っ青な彼女は肩を落とす。だけど、雪花さんは想定していたのか、俺に向けて言った。


「なら、日笠。斑目呼びな。アイツなら1から10まで、全部資料の順番とかも把握してるでしょ。」

「え、今仕事中じゃ……。」

「どうせサボってるし、監視カメラとかで見てるでしょ。アンタが言えばアイツは渋々来るから。」


 本当か? 俺は資料を集める片手間、半信半疑で千里さんに電話した。




「カメラ越しで見るより悲惨だね。」

「来てくれたんすか!?」

「ほら。日笠がいえば来るじゃん。」

「してやったりみたいな顔やめてくんない。」


 雪花さんと千里さんは出会い頭からメンチを切り合ってる。この2人のこんにちはみたいなもんだもんな。見慣れた。

 俺の横で女の人が慌てている。


「止めなくていいんですか?」

「大丈夫っす。千里さん。」

「何? もしかして資料ぶちまけて、順番が分からなくなったとか?」

「当たりです。」


 さすが察するのが早い。まぁ状況見ればある程度は推理できるか。

 千里さんは、資料集めをしている女の人を見ると、少し呆れたように尋ねた。


「薄石もよくやるよね。何度目?」

「面目ない……。」

「自分の力過信しすぎ。その量運べるわけないでしょ。」

「気に入らないけど、私も同感。コイツとか暇だから使えばいいのに。」

「いえいえ、先輩の手を煩わせるわけには!」


 慌てて両手を振ると、集めていた資料が再び落下する。いや、学ばないなこの人。2人も呆れて頭を抱えたり眉間を抑えたりしている。


「とりあえずそこの会議室に運んで。手伝うから。」

「分かりました!」


 返事はいいがまた持ちすぎだ。両手が塞がったら扉も開けられないだろうに。俺は慌てて追い抜かし、扉を開けてからその書類を奪った。


「持ちすぎです。ドア開けられないじゃないっすか。」

「あ、そうか! ごめんね。えーと……。」

「日笠です。向こうが俺の先輩の雪花さん。」

「2人とも先輩後輩なんですね! あたしは薄石です。よろしくお願いします。」


 それから薄石さんはなんとなく危なっかしくて俺はほぼつきっきりで手伝った。

 書類をあらかた集めたところで、書類の順番やまとめ方について千里さんが薄石さんにレクチャーすると驚くことに彼女はテキパキとまとめ始めた。先ほどまでのドジっぷりが嘘のようだ。

 俺と雪花さんは目を白黒させてしまう。


「3人ともありがとうございました!」

「どういたしまして。」

「別に構わないよ。」

「もう昼だし、食堂で食べていく? 東雲さんも来てるんでしょ?」


 薄石さんの礼には片手でさらりと流した千里さんは珍しい誘いをしてきた。薄石さんは嬉しそうに顔を綻ばせていたが、雪花さんは明らかに警戒の色を強めた。


「アンタ、何企んでるの?」

「何って、ただ3人と薄石さんの顔合わせを済ませておきたかっただけだよ。」

「わざとらしい。」


 再び睨み合う2人を見て薄石さんがこっそり俺に耳打ちしてくる。


「あの2人、仲悪いんですか?」

「険悪に仲良しです。」

「えぇ、どっち……?」


 でも、俺が意図したことさえ伝わったのか、おかしそうに笑う。


「ふふ、こっちに来てから自分と同世代の人ってあまりいなかったから嬉しいな。……あ、ごめんなさい、敬語!」

「いや、むしろとってもらっていいっすよ。俺17なんで。」

「えぇ!? 嘘、落ち着いてるね!」


 思わぬ評価に俺は照れ臭くなり、頭を掻く。周りが大人だからそんな風に考えたことはなかったけど、そう言われると嬉しい。


「あたしこんなバタバタしてるのに21歳だよ? 3つ歳取ったら斑目さんと同じ。想像つかないよ〜。」

「一生無理。」

「ひどいです!」

「というか、薄石は雪花より歳上なの? 信じられない。」

「え、歳下なの!? 信じられない!」


 いつのまにか戯れが終わったらしい2人がこちらに合流してくる。雪花さんも千里さんよろしく信じられないものを見るような目で彼女を見つめていた。




 先生にメッセージを送り、俺たちは先に席に着く。

 4人で色々注文したらデカ盛りが来た。薄石さんのだった。見ていた千里さんが胸焼けを起こしていた。この人色々と規格外だな。


「では、改めまして。薄石彩明(うすいしあやめ)です。この前の試験で合格して相談課に所属しています。元大学生で【半生人】です。」

「俺は日笠真紘っす。【半生人】で、たぶん高校生なんすけどよく覚えてないっす。今は黄昏探偵事務所の助手です。よろしくお願いします。」


 チラリと雪花さんを見ると彼女は驚くべき自己紹介を始めた。


「……霧崎雪花。同じく黄昏探偵事務所の職員。一応隠れているけど、【罪人】。」


 薄石さんは目を丸くして固まった。

 俺はびっくりして割り箸を折った。千里さんも一瞬固まったけどすぐにコーヒーを飲み始めた。

 だけど、薄石さんのリアクションもまた予想外だった。


「そっか! でも、霧崎さんはいい人そう! 仲良くしてね。」

「……うん。」

「雪花ちゃんって呼んでいい? 歳の近い女の子なんて滅多にいないからお休みの日とか遊ぼう? あ、でもそういうの嫌いかな……?」

「……嫌じゃない。」

「良かった!」


 【罪人】なんてことを一切気にせず、ただの女の子同士という感じで接している。

 雪花さんもはじめは辿々しかったけど、眩しすぎる薄石さんの笑顔に絆されたのか、正面からぐいぐい来る薄石さんに表情を緩めていた。

 これが女の子同士のパワーか。

 千里さんも同じことを考えていたのか、ぼそりと溢す。


「園部さんもだけど凄いね。」

「そっすねぇ……。」

「真紘も大概だよ?」


 え? 俺そっち側に分類されるのか?

 千里さんが座っている方に顔を向けると、ちょうど食堂の出入り口の方に先生が入ってきたのが見えた。


「あ、先生! こっちっす!」


 俺の声に3人が振り向く。



 だが、ここで誰もが予想だにしないことが起きる。



 千里さんの隣に座っていた薄石さんが勢いよく立ち上がったのだ。さすがの2人も肩を震わせていた。

 そして、彼女はショックを受けたような、呆然としながら先生を見つめていた。

 一方で、先生は身に覚えがないのか、彼女のリアクションを不思議そうにしながら見つめている。そして、手に持っていたお盆を置きながら尋ねた。


「どうしましたか?」

「……あの、覚えてませんか。」


 思わぬ言葉に俺と雪花さんは視線を交えた。依頼人として来たのか、いや知らないと。千里さんを見てみると、彼も小さく首を横に振った。


「どこかでお会いしましたっけ……?」

「以前家の鍵を拾ってもらったり……。あ、あといろいろと相談に乗ってもらって、助けてもらいました!」

「……?」


 先生は明らかに覚えていないようだけど。薄石さんはあれ? と困惑したように首を傾げる。

 単純に人違いだろうか。この世界で覚えてない場合、というとシンプルに先生が忘れているのかもしれないが、この人に限ってそれはないだろう。

 つまり、先生が意識障害に陥るきっかけに関わりがあるということか。


 いや〜、でも第一印象、この人は無害そうだしなぁ。

 俺、そういうのは外さないことが多いんだけどどうなんだろう。


 なぜか先生は俺を一瞥してから、薄石さんに微笑みかけた。


「ごめんなさい、今の僕には覚えがないんです。」

「そう……ですか。」


 薄石さんはしゅん、と落ち込んだが、すぐに笑顔を見せて先生に尋ねた。


「分かりました。急に変なことを言ってごめんなさい。私は薄石彩明です。役所の相談課に勤めることになりました。」

「僕は東雲標です。この2人と探偵をしています。これからよろしくお願いします。」

「はい!」


 タメ語で大丈夫です、と朗らかに笑う彼女に先生も警戒はしていないのか笑顔で応じる。

 良かった、変にギスギスしなくて。


「東雲、悪い奴だね。」

「え?」


 自分たちの食事に戻ってしまう雪花さんと千里さんの方を見る。すると、雪花さんは俺の方を見て、2人に聞こえないようこっそり耳打ちしてきた。


「アイツ、アンタが警戒しているかで、薄石との付き合い方を決めたんだよ。」

「え、センサーってことです?」


 俺が尋ねると雪花さんは頷いた。

 頼りにはされてる、のか? 俺は何となく腑に落ちないまま、少し冷めた豚丼を口に運ぶのであった。

【登場人物】

薄石彩明(うすいしあやめ)

21歳、大学生、162cm

性格:お人好し、ポジティブ、天然

ミルクティー色に髪を染めており、パッチリとした可愛い系の顔。困っている人がいたら放っておけない、高齢者子供に好かれるタイプだが、あざといと言われ同性の友人が少ないのが悩み。ここ半年くらいの記憶が朧げ。運の振り幅が激しく、よくトラブルを引き連れてくる。  


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