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黄昏探偵は振り返らせない  作者: ぼんばん


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48.真紘の商店街リレー

 ほのぼの回です。よろしくお願いします。

「えぇ、あの後喧嘩になっちゃったんすか?」

「そうそう。あの2人こそ子どもだね。」


 俺は午前中、初めて1人で仕事をこなした。

 と言っても、かわたれ事務所の故人の事案で体力要員が必要であったため呼ばれただけだ。内容自体は人探しで俺の得意分野、すぐに見つけて時間より早く帰ってきた。

 南条さんには先生から連絡がいってたのか、頭が千切れるんじゃないかってくらい褒められた。


 千里さんからは連絡が来た。

 電話先の声は少し疲れている気がしたけど、それよりも明らかに俺の声を聞いて安堵したような様子だった。何だかんだ面倒見がいいなって笑ってたら速攻で切られた。


 で、肝心の雪花さんは直接謝ることを試みたそうだが、虫の居所が悪かったのか、謝ってる暇あるなら事案をこなしてくれと受け取ってもらえなかったらしい。加えていつもの毒を吐いたもんだから、決して大らかでない雪花さんは「アイツ嫌い」と憤慨していた。

 この2人は水と油、どっちにしろこんな感じなんだろうなと思った。

 先生は、その話を先程帰ってきた雪花さんに直接聞いたらしく苦笑いしていた。


「じゃあ、午後はよろしくね。」

「分かりました! じゃあ今から買い出しも済ませて、14時に帰ってきて、役所と他事務所からの依頼整理ですね。」

「うん。明後日以降の候補をあげてもらえると助かるかな。」


 はじめての事務仕事。

 まぁ、正直デスクワークっていうのは苦手意識があったんだけど、先生が俺が思いの外顔が広いことを認識して新しく振ってきたのだ。色々と可能性を見たいって言われたらそりゃやるしかないだろう。


「じゃあ行ってきます!」

「いってらっしゃい。」


 俺は買い物用のカードを手に取り、意気揚々と出て行った。

 ここからは、短い時間であるが、わらしべ長者もどきとなった俺の話である。




「ん、何だこれ。」


 俺はいつもの商店街に行く途中、あるものを拾った。俺には無縁だが見たことがある。先生や千里さんが持っているいわゆる免許証だ。千里さんはスマホでデータ管理にしていたが、先生はカードで持ってたな。

 え、これないと困るんじゃ。

 俺はカードに書いてある住所と名前を確認した。どうやら目的地までそう遠くなさそうだ。どっちにしろ事務所に届くかもしれないし、俺が届けてしまおう。


 向かった先は、商店街の一角にあるお菓子屋さん。

 ああ、俺、黄泉の国に来たばかりの時に珍しく美味そうって思った店だ。その時はポイントが全然無かったから買えなかったんだよな。


「こんにちは〜。」

「いらっしゃいませ。」


 落ち着いた、いや、落ち込んだ店主の声がした。店員の人が目を吊り上げている。察するに免許証を落として仕事に支障を出して怒られてたんじゃないか?


「あの、これ、向こうの通りで拾ったんすけど。」

「えっ、拾ってくれたの!?」

「うわ、店長良かったですね! 悪用されてなくて!」


 免許証は車やバイクとかとリンクさせることができ、それを持っていると、車自体を拝借できてしまうらしい。何とガバガバなセキュリティか。


「ありがとうございます! お礼に好きなの持っていってください!」

「え、いいんすか!? じゃあ焼き菓子のお勧めを3人分。」

「何個でも持っていってよ!」


 日持ちするものを、と思って頼んだら倍入れられた。


「店長、お礼もいいですけど今から配達行かないと!」

「そうだね、急がないと!」

「先払いされてるんですから遅れるなんて許されないですよ! 特に時間に厳しいお得意先が多いんですから!」


 受け取っている時、つい伝票が目に入ってしまう。

 あ、俺が行くお使い先の1つ。コーヒーショップじゃん。


「俺、今からそこの店行きますよ。余程、多くなければ届けますけど。」

「え、5kgくらいありますよ。」


 距離もそんなにないし。


「大丈夫っす。」


 店長さんと店員さん達は顔を見合わせた。

 余程急ぎだったのか、声を揃えてよろしくお願いします! と頭を下げられた。



 次に向かったのは馴染みの店。

 はじめはオーナーが驚いていたけど、事情を話したら礼を言われた。どうやらはじめから店員で急な成仏の人が出たらしく、遅くなるかもしれないと連絡があったそうだが、今日に限ってクッキーの売れ行きがいいようで気を揉んでいたようだ。


「あれ、そっちの袋は?」

「お礼でもらったマドレーヌです。三人分って言ったんですけどたくさん包まれたんで食べます?」

「……ならコーヒー1杯奢ろう。」


 ラッキー。甘いものがそんなに得意でない俺としてはコーヒーのお供はありがたかった。

 でも、そんな心配の必要もなく、口にしてみるとふんわりとした控えめな甘みが口の中で広がった。これなら何個か食べれそうだ。あ、でもコーヒーとも合う。

 オーナーさんも新しく納品依頼するかと悩んでいた。

 俺たちが食べていると、この国ではあまり見ない幼い子がいた。小学生くらいだろうか、自分より歳下の子を見ると忍びない。頭には輪が浮かんでいる。


「どうしたんすか?」

「ママの付き添い。」


 指を差した方には同じく輪っかを携えていた。もしかしたら事故だろうか。いや、そんなことを考えるのも不躾か。

 ふと子どもを見ると、俺が食べているマドレーヌをじっと見つめている。ああ、このくらいの子なら甘いものも好きか。


「よかったら食べる? ママの分も。」

「いいの!?」

「うん。」


 やったー! と喜んで、子どもは疑いなく口にする。その声で母親が気づいたらしく、買い物を済ませて慌ててこちらに来た。


「すみません! そこって人気の洋菓子屋の……。」

「大丈夫ですよ。色々あってお礼に貰ったやつなんで。貰いすぎて困ってたところです。」

「そんな……せめてお礼を、あ。」


 母親は鞄から何やら箱を出した。それこそ高そうなやつだけど。恐る恐る見てみると万年筆が入っていた。


「え、めっちゃ高そうじゃないっすか?」

「いいのよ。私たち使わないし、お兄さん探偵事務所の人でしょ?」

「え、知ってるんですか?」

「いつも事務所周り掃除してるからよく知ってるわ。」


 思ったより顔知られてるのか。探偵向かないんじゃないか、これ。


「いや、でも流石にこれ貰ってマドレーヌ2個はあれなんで、もっと貰ってください!」

「なら、もう1個!」

「よし来た!」


 遠慮なく言ってもらえると俺も気が楽だ。俺はキラキラと目を輝かせた少年と物々交換を済ませた。




 コーヒー豆とマドレーヌを持って向かった先は文具屋。事務用品が安価でしかも使いやすい商品がたくさんある穴場だ。

 店主さんは70代の優しそうなお爺さんで、俺が行くと孫が来たみたいに嬉しそうにしてくれる。


「こんにちは。いつものお願いします。」

「こんにちは、真紘くん。今日も大荷物だね。」

「いつもの遣いですよ。そういえば色々あってマドレーヌ貰ったんですけど食べます?」

「いいのかい?」


 店主さんとは時々朝のランニング後に公園でストレッチをしていると会うことがある。話を聞いていると甘いもの好きなようだから喜んでくれると思った。

 それにしても洋菓子屋さん、入れすぎでは?


 俺がそんなことを思っていると代わりに飴をくれた。俺が好きなレモン味だ。

 それを口に放りながら、目下気になっていたことを尋ねた。


「そういえば元気ないですけど、何かありました?」

「ああ……実はね、お気に入りの万年筆が壊れてしまってね。」


 普段の俺なら聞かないワードがよく出てくる日だな。

 彼は文具店の店主の名に恥じぬ文具への拘りがあり、以前依頼人だった園部さんのように編集作業などにも関わっているそうだ。

 これも偶然か、俺は先程もらった万年筆を差し出した。


「これは?」

「なんか巡り巡って俺の元に来た物です。使わないですし、俺には価値が分からないので良ければ……。」

「おお、これはこの辺で取り扱ってない他地区の物だな。」


 俺から受け取った万年筆をまじまじと見つめると、何度か握り込む。何だろう、気に入ったのかな?


「真紘くん、よければなんだが……。」

「気に入ってくれたならどうぞ。万年筆も価値が分かる人に使ってもらえた方が幸せでしょうし。」

「なんと! いいのか! ああ……でもタダで貰うのは忍びない。」

「別にいいですよ。」


 店主さんは慌てて何かを探す。

 そして、あった! と大声を出すと、納品とともにある紙を1枚渡してきた。俺は金を払いつつ、渡された紙に目を向けた。何やら券のようだが。


「これは?」

「商店街の抽選券さ。1等には何やら豪華商品があるらしいんだが、見た時に私は興味がなかったから忘れてしまっていたよ。」


 店主さん、興味あるのすげー限られてるからあまり参考にならない。でも、変に高価な物渡される前にこれもらった方が気楽かな。


「じゃあ遠慮なくいただきます! ありがとうございます。」

「こちらこそありがとう。」


 礼を言われるのは悪い気分ではない。俺は鼻歌混じりに店を後にした。




 俺は言われた通り、抽選会場に向かう。寄り道しても時間には間に合いそうだ。ちょうど人がはけたタイミングで並べたし。

 景品一覧をみると、1等は地区外温泉旅館への1泊2日旅行4名様招待券、2等は自動の掃除機、3等は小さめの冷蔵庫、4等は商品引換券、そして5等は好きな日用雑貨品。商品引換券もらってウェアかダンベルを買えないだろうか。

 そんなことを考えていると俺の番だ。


「お、日笠くんも来たのか。まだ全部残ってるよ。」

「ぜひ4等を。」

「相変わらず欲がないね〜。」

「何言ってんすか、俺はダンベルをいただきますよ。」


 担当の人がダンベル、と呟いている間に持ち手を掴み勢いよく回した。ものすごい勢いで小さい玉が出てきた。

 何色かな。4等はピンクだっけか。


 担当の人が拾った玉は赤だ。何等だろう、と顔を上げた瞬間だった。


「お、大当たり〜!」

「え?」


 周りの歓声と拍手に包まれる。

 俺は慌てて表を見た。赤、赤、……って。


「1等!?」

「日頃の行いがいいんだねぇ。ほら、事務所の人たちとでも行ってきな。」

「旅行券!?」


 いやいやいや。こんなことってあるか?

 落とし物拾って、マドレーヌ貰って、万年筆と交換して、抽選券と交換して、最終的に旅行券になるなんて。


「おめでとう!」

「あ、ありがとうっす……。」


 俺は呆然としながら、ふらふらと事務所に帰った。

 先生とはすれ違いになってしまったため、俺はとりあえずそのまま切り替えて仕事をした。

 その結果、旅行券を忘れて、翌日2人に何これと言及されることになるのだが、その説明は酷く辿々しいものになってしまったのは言うまでもない。

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