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黄昏探偵は振り返らせない  作者: ぼんばん


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40/92

40.暴走マシンガン、再び

 見つかってしまったことをこれ幸いと、潔く弾丸のように話し出す彼女は、南条さんの説得により相席になることになった。

 店員さんが騒ぐなら一纏めで座れや的な視線を送ってきたもんな。

 もちろん見知らぬ女性を連れてくるとなれば、千里さんはあからさまに不機嫌そうな顔になった。


「誰この人?」

「えっと……。」

「元・黄昏探偵事務所依頼人、現・南条様のファン、園部美都子です!」

「斑目です。」

「あなたが噂の!?」


 噂? と首を傾げる。

 ああ、そう言えば事務所で顔がどうとかの話をしたな。


「事務所で「日笠、余計なこと言うな!」

「実はですね、日笠さんのお顔の好みがあなたの顔ドンピシャみたいでして! 私として歳下攻めの恋の予感、って感じでして、斑目さんは如何ですか、歳下攻め!」

「何でしたっけ、B……「だから、余計なこと言うな!」


 俺の言葉はことごとく対角にいる南条さんに止められ、園部さんは制御を失った機械のように暴走している。千里さんは何かを理解したようで難しげな顔をしている。

 騒がしい場に千里さんは石を投じた。


「園部さん、はっきり言いますけど解釈違いです。俺は歳上攻めしか認めません。」

「なっ……!」


 よく分からないけど、園部さんを黙らせた。凄い。南条さんも目を白黒させている。


「私は公式を応援する人間なので、解釈違いのジャンルは手を出しません。……お幸せに。」

「はい、ありがとうございます。」


 マジで何が起きたんだ。

 いや、親指立てられても何を成し遂げたのか分からないけど。


「で、真紘と南条さん。この人何なの。」

「あ、えっと買い物依存症のせいでポイント借金しそうだって相談でうちに来たんです。で、色々試したんですけど解決が難しくて、なら恋愛とか結婚とかして依存の対象を移すかって話になったんです。」

「それで何で南条様?」

「外見の好みとかが合うかなぁって、先生がかわたれ事務所を紹介しました。」


 要は面倒事を押し付けただけだ。


「それで紹介通り来たはいいがな……。」

「はい、私が南条様に一目惚れしました!」


 あぁ〜。先生の狙い通りかぁ。

 あの時の先生はさっきの千里さんと同じ、光のない目だったもんなぁ。匙投げたし。


「何回か告白させていただいたんですが、南条様のお眼鏡に適わず。ですが、私には南条様以外の人は考えられなかったのでファンになりました! 時に仕事をする彼を見守り、ファンレターを送り、事務所の周りのゴミ拾いもしております!」

「……ストーカーと慈善事業の間か。」


 隣の俺にしか聞こえない程度にぼそっと呟いた。

 確かに、ストーカーってほどは付き纏ってないし、慈善事業にしては重すぎるか。少し過剰な追っかけって感じ?


 首を捻る俺を他所に、きゃあきゃあ言う園部さん。静観する千里さん。そして、南条さんは居心地悪そうにしながら頭を掻いている。

 そういえば紹介した後、南条さんから先生に何度か電話が入ってたけどこの辺のクレームだったのかな。


「で、ファンのあなたがどうしてここに? 申し訳ないが、俺たちも大切な話をしていたんだが。」

「あっ、そうですよね! すみません。」


 しゅん、と分かりやすく肩をすくめた。


「もちろん、普段だったらついていくなんてしませんが、日笠くんが斑目さんと2人乗りで来たからちょっと気になって……じゃなかった。純粋に日笠くんにお話があったんですよ!」


 おや、雲行きが変わったな。

 南条様、じゃなかった。南条さんと千里さんもそれを感じ取ったらしい、2人は黙った。


「先生とか雪花さんじゃなくて? 俺にですか?」

「そう、君に。というか雪花さんのことなんだけどね。」

「雪花さんの?」

「うん。東雲さんと日笠くん、最近別の仕事か雪花さんが1人で働いてること多かったでしょ?」

「そっすね。」


 曰く、園部さんが西区に行ったときのことらしい。

 あの地区には商店街、その他にも少しコアな店があったり文化人にとっては嬉しいお店もちょこちょこ並んでいる。

 園部さんはよく分からないけど、趣味でよくその店に出入りしていたらしい。漫画やアニメ、恋愛ドラマ、小説、その他にも様々。

 その時にたまたま見かけた話らしい。


「まぁ、あの子美人だったし。商店街で男の人に話しかけられてて仕事か、それかナンパかな〜って思ったんだけど明らかに顔色が悪かったのよ。だから、友達のフリして声かけたら男の人が逃げちゃってね。」

「……女性がそれは危ないんじゃないか?」

「あっ、ありがたきお言葉……! 推しからの心配……!」

「おし?」


 すぐに脱線する。何かクネクネしながらドン引きの南条さんに迫ってるし。


「千里さん、おしって?」

「推し、ね。ファン活動する対象のこと。」

「……Bなんとかは?」

「BLね。商業出版向けの同性愛、いわゆるボーイズラブの略。」

「は!?」


 思わぬ言葉に俺はギョッとした。え、俺もしかして千里さんの顔が好きだって言ったことを同性愛って勘違いされてたのか? それで応援されてたわけ?


「ごめんなさい、俺そんなつもりじゃ……。」

「何で俺が振られたみたいになってるの?」


 俺たちがそんなくだらない話をしていると、園部さん達も園部さん達で落ち着いたらしく戻ってきた。


「何か、あのクールな雪花さんがあんな露骨に怯えるなんて、って私気になって時々様子を見てたの。そしたらあの男、雪花さんのこと尾けてるんですよ!?

 絶対あれはストーカーです!」


 園部さんは怒り気味に拳を握る。

 ただ、先程絡まれた南条さんは冷静だった。


「他にも証拠があるのか? それとももう警察に?」

「警察は本人から被害届出てないからって。それに重篤な犯罪であればポイント減点もあるし、度が過ぎれば地獄行きが決まるって言ってました。」


 そもそもこの国は地獄行きのせいで罪を犯す人は少ない。それもあってか、目立たない軽犯罪はちょこちょこある、って先生も言ってたな。

 園部さんは拳を強く握った。


「お節介って分かっているんですが……。例え本人が訴えてなくてなくても、雪花さんのあの表情、放っておいてはいけないと思うんです。同じ職場ですし、日笠くんどうにかできませんか?」

「俺は……。」


 今、距離を置かれている状況で、しかもただでさえ他人に頼ることのない雪花さんが俺なんかを頼ってくれるだろうか。

 すると、南条さんが笑った。


「なら、俺が言い訳を準備しよう。それにこの状況を作ったのは俺の配慮が足りなかったことは間違いないからな。依頼として受けてくれないか。」

「え?」

「……なるほど。」


 目を丸くする俺の隣で千里さんは納得したように頷いた。


「真紘、依頼として受ければ東雲さんに連絡がいく。そうすればあの人は上手く動く。」

「ああ、ポイントは俺が払おう。」

「そんな、言い出しっぺは私です! 私が、」


 慌てた園部さんに南条さんが微笑みかけた。


「いや、君は勇気を絞って見つけてくれただけで十分だ。あとは俺たちに任せてくれ。せっかくポイントだって溜まってきているんだから、それは自分のために使ってくれ。」

「推しの笑顔〜〜! はぁい!!」


 おおう、あっさり陥落した。

 でも、今の感じとても南条様って感じだった。告白の前後もこれで落としたんだな。


 ポイントっていえば、先生はいつぞや雪花さんに経営が下手だとか雪花さんには優先して報酬を渡していたって言っていた。やっとここで先生の配慮の真意を知るなんて。

 俺は首を横に振る。

 まずは目の前の雪花さんストーカー男をどうにかしないと。そんでもって仲直り!


 俺は勢いよく頬を叩いて切り替えた。


「なら、俺の方から依頼かけますよ。そうすれば断れません。」

「ああ、頼んだ。……にしても。」


 ん、なんだろう。

 2人とも何故か悪い顔をしている。


「こーんな悪い大人2人を味方にするなんて、さすが東雲が目にかけてるだけある、なぁ?」

「そうですね。」


 おや、もしかして。

 固まる俺の正面で、珍しく園部さんが常識的なリアクションをした。


「えーと、厄介なお2人に可愛がられてるのね。」

「頼りにはなるんすけどね。」


 はは、と乾いた笑いしか出てこなかった。

【おまけ話】

 斑目さんは博識ですが、興味のない部分はまさに浅く広くのタイプです。他の3人は各分野に特化しています。

 真紘は調べるより先に聞いてしまうタイプなので反射で聞いて時々後悔します。

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