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22.初・地区外

 誤字報告ありがとうございます!


 ちょっと長めのエピソードになります。

 そして今回の話は今後の話にも大きく関わるキーワードがたくさん出てきます。ちなみに最後の方は真紘や特定の登場人物の目線ではありません。

 よろしくお願いします!

 僕は、この時踏みとどまれなかったことを、彼の忠告が守れなかったことを、いつか後悔する日が来る。

 目の前の感情と、消えた命と、褪せない思い出に振り回されて。今この瞬間の大切なことに気づけなかったんだ。


 そして、探偵は振り返ろうとしていた。





「えっ、地区外の仕事についていっていいんですか!?」

「うん、だいぶ慣れたし、不測の事態にも落ち着いて対応できるようになってきたしね。」


 や、やったー! ついに助手としてランクアップした気分だ。

 俺が窓際で天に向けて両拳を突き上げていると、雪花さんが背後で冷たい視線を向けていた。今の俺は気にならない。


「今回の仕事は、志島さんの手伝い。地区外での『パンドラの鍵』保有者や【半生人】の確認だよ。あとは移住希望者の手続きとかだね。」

「……それって俺が行って戦力になります?」

「むしろ僕たちより君の方が動きやすい地区だと思うよ。」


 俺は意味が分からず、首を傾げる。

 渡された資料を見ていると、雪花さんが納得したようにああ、と頷いた。


「ここ、未成年が多い地区なんだよね。」

「そう。だから、対象によっては、志島さんとか僕が行くと警戒されることがあるんだけど、君は比較的馴染みやすいと思うよ。」


 なるほど。警察官とか大人に夜出歩いてて声をかけられるあのドキドキ感ということか。納得した。

 でも、そこまで心配する必要はあるだろうか。


「2人とも馴染みはしないっすけど、警戒まではされないと思うんすけどねぇ。」

「普通は多感な年頃なんだよ、アンタみたいに肝っ玉こさえてる人ばかりじゃないの。」

「褒めてます?」


 雪花さんは首を縦に振っているけど絶対嘘だろ。でも、と彼女は誤魔化すためか話を続けた。


「アンタも不思議だよね。同年代の人と話すのあまり見たことないし、同年代と会えるかもって言われて全然喜んでないし。」


 俺は雪花さんの言った意味が分からなかった。何でそんなことを言うのだろう。

 だから、思ったことを口にした。


「はじめは友だち欲しいって思ってたっすけど、今は周りに尊敬できる人たちも、一緒に過ごして楽しい人たちもいるんですから別にいいっすよ。同年代だからと言って仲良くなれるとも限らないですし、別に数いりゃいいってわけでもねーし。」

「……アンタ、結構そういう所ドライだよね。」


 別に普通のことだと思うが。

 何が楽しくって大して気の合わない人たちとつるまなきゃいけないんだ。同級生とか、それこそ仕事仲間なら別として。

 なぜか、先生は嬉しそうにクスクス笑っていた。




 その日の午後、先生に言われて俺は役所に向かった。

 というのも、地区外に向かうために通行証をバージョンアップしなければならないということ、また午後から仕事が入ってしまった先生の代わりに同行する志島さんが地区外のことについて教えてくれるからだった。


 今まさに志島さんの説明を受けている。

 正直座学とかは苦手だったから、カウンターの一角で何かの手続きみたいにやってもらえるのはありがたかった。志島さんもこまめに分からない箇所の確認をしてくれるから助かる。

 俺が噛み砕くのに時間がかかっても嫌な顔1つしないし。


 まず、地区外、といっても突如お国柄が変わるとか、異常に【半生人】が増えるとかそういうわけではないらしい。イメージ的には県庁の人が市役所に行くような感じだ。近くの八百屋の夫婦さんも、仕入れに行くと言っていたが、そんな大きく変わることはないって言ってたな。


 次に今回の遠征の目的。

 各地区の【半生人】の出入りの人数を確認し、神様が送ってくる故人や【半生人】の生活区域を調整するそうだ。神様も気まぐれで時々偏るものだから、それは神官さんの命令で役所の人が調査するらしい。神官がやればいいじゃん。

 千里さん達が前に話していた感じだと、物品の修理を神様便よろしく依頼すると時々神官が来るらしいが、チクチク文句を言うそうだ。小姑か。


「何かお役所仕事も大変なんすねぇ。」

「まぁね。ただ、サボっても最悪神官殿がどうにかしてくれるから、ストライキすればいいかもしれないな。」

「あの人、すげー高圧的じゃないっすか。俺苦手です。」


 ハッ、そう言えば神様はここを見ているわけだから、神官にもこの悪口は聞こえてしまっただろうか。

 俺は慌てて口を塞いだが、無駄らしく志島さんは笑っていた。


 しかし、一息つくと真剣な顔に切り替わっていた。


「さて、ここからは大事なことになる。調査をするにあたって出会うだろう人種についてだ。」

「人種?」


 白人とか黒人とか? いやでもこのご時世、そんな気にすることか?

 志島さんの声は僅かに緊張を帯びていた。



「……それは、【罪人】だ。」



 罪人。

 聞いたことはあったが、ここで出るとは思わない言葉に俺は固まってしまった。


「……【罪人】、この国で言うならば地獄行きの者。死してなお天の輪を与えられず、業の証を肉体に刻まれている。つまりは、【罪人】は頭の上の輪がなく、肉体には黒く蔦のように刻まれた刺青があるんだ。」


 今まで見たことがない。そんな人、そう易々と会えるのだろうか。


「その刺青はこの世界で慈善や救援を行うことで小さくなり、それが消えた時、天の輪を与えられ、魂の成仏が認められる。だが、ポイントを稼ぐことをやめたり、反対に罪を重ねたりすれば、肌を覆う黒い蔦が増えて全身を覆った時、地獄に行くこととなる。」


 あくまでも事象の説明。

 それなのに、何故だか言い知れぬ違和感が襲ってくるのは気のせいか。

 俺はそれを頭の隅に押しやりながら質問をした。


「……【罪人】はどうやって判断されるんすか? 例えば借りパクとかカウントされるんですか?」

「いや、違う。【罪人】になる基準は2つ、1つ目は【半生人】と故人ともに生前実刑判決相当の罪を犯している。2つ目は黄泉の国で故人であり、かつ罪を犯す。」

「この国での罪って具体的には?」

「基本的には殺人を除くすべての実刑判決を伴うであろう罪、といっても神様の匙加減という部分はあるがね。」

「え、殺人は除く?」


 なぜ、これ以上がないであろう罪が除かれるのか。

 ただ、俺の疑問に答えた志島さんの言葉は酷く残酷で変え難い事実であった。


「私たちはすでに魂であり、死んでいるに等しいからだよ。」


 うわ、頭を急に殴られた気分。

 そうだ、今までたくさん見てきたではないか。自分の人生を終えた人、後遺症を抱えながらも甦ることを選んだ人、自分のように死の淵を彷徨う人。

 駄目だ、変に考えすぎても俺の場合は上手くいかない。俺が頬を何度か叩いて視線を上げると、志島さんと目が合った。


「……例外はあるがね。」

「例外?」


 志島さんは小さく微笑むだけで答えてはくれなかった。





 真紘が帰った後、斑目はコーヒーを持って志島のデスクを訪ねた。まるで書類を置きにきただけのように、何事もないような空気で。

 ある程度の役職がついている志島のデスクは他の山から少し離れており、声を潜めれば、ほとんど他の人たちには聞こえない。


「いいんですか、真紘にあの事件のことを匂わせて。」

「また、君は……どこで聞いていた?」


 志島はデスクの下を覗き込んでいた。

 しかし、そんな所に盗聴器があるわけがない。そもそもの勉強会(仮)は別の場所で行われていた。

 斑目は口には出さないが、その胸ポケットのスマホは飾りか、と呆れていた。それをハッキングして操作するなど朝飯前だ。

 早々に諦めたらしい志島は斑目に向けて微笑んだ。


「日笠くんは、自分の置かれている状況を早めに知った方がいい。東雲くんは恐らく日笠くんと彼の共通点に薄々気づいているだろうし。」

「薄々どころか、東雲さんは、今回の地区外での仕事で確認するつもりでしょ。」

「まぁ、彼と日笠くん、よく似ているからね。」

「似ているだけで別人です。東雲さんも、雪花も、たぶんどこかで重ねてるんでしょうけど、気に食わない。」


 不機嫌そうに呟く斑目を志島は見つめてしまった。この捻くれ者が珍しく単純に1人の友人を心配している、そんな様子を初めて見たからだ。


「志島さんも、今回真紘がついて行くのを許可したのは気になるからですか。」

「いや。遅かれ早かれ東雲くんは日笠くんを連れて地区外に行く。なら、私も同行して東雲くんに釘を打っておく方が得策だろう。それにアレだけ脅しておけば、日笠くんも無鉄砲なことはしないだろう。存外賢い子だ。」


 人が良さそうな顔をしておいて、頭の中では色んなことを画策しているものだから恐ろしい人物である。


「俺は真紘が聞いてきたら、知ってることを全て話しますからね。」


 大して表情筋は動いていないが、言葉尻が僅かに強い。志島はすぐに斑目が自分を試していることに気がついた。志島は特にそれに関して言及することはない。

 つまりは斑目の思うようにやれという合図だ。


「意外だな。君が首を突っ込むなんて。そんなに日笠くんが気に入っているんだな。」

「気に入ってますよ。いい奴だし。それに何となくほっとけないだけです、アンタと同じでね。」


 地区外は気をつけて、それだけ言うと、斑目はいつもと変わらない表情でサボりに向かった。ほんの少しだけ空いた間、何かを含んでいたが、彼は口を割らないだろう。

 やれやれ、彼の洞察力は侮れない。

 志島は背後の窓から暮れゆく空を見ながら、目を細めるばかりであった。

【罪人】のシステムのまとめです。

故人の場合…

①生前実刑を伴う罪を犯していない→ふつうに天の輪が貰える(これが殆ど)

② 生前実刑を伴う罪を犯した→天の輪は貰えず業の証が刻まれる(刺青を隠せば【半生人】に見える)

③①+黄泉の国で罪を犯した→地獄の刑を少しお試しした後、②と同じ見かけになる。


①は無事成仏できるが、②③は罪を重ね続けるまたは長期に渡って証を刻んだままだと地獄行き。


【半生人】の場合…

① 生前実刑を伴う罪を犯していない→天の輪はない。亡くなれば天の輪が貰える。

② 生前実刑を伴う罪を犯した→業の証が刻まれる。善行を重ねれば消えるし、あったとしても普通に甦りできる。亡くなっても見かけはそのまま。

③①+黄泉の国で罪を犯した→亡くなった後、業の証を刻まれる。


【半生人】の場合は地獄直通はありません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんか超重要そうな人物がいるっぽい。例外はあるがね、とかもしかして生きた人物が黄泉にいるのか? どうなんだろう。 最初の部分もかなり意味深。どのタイミングで、誰の出来事なんだろう。昔の東…
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