9話
申し訳ないですが、きっぱりとお断りさせていただきました。
葬儀屋という業界はどちらかと言えば安定している職業です。人間はいずれ必ず死ぬものですから、暇な時間はあっても仕事がなくなることは基本的にありません。
ところがどっこい、わたしの場合は旅をしているので安定などありません。皆無です。
なので収入はわたしにとっての命綱。報酬の無い仕事は極力受けたくないのです。
「金はないが、金になる物ある」
「詳しく」
手の平くるりん。お金が無くても、金目の物があるなら話は別です。
「事が済んだら集落にある物全部やる。好きな物を好きなだけ持っていけ」
「……例えば?」
悪くない条件に思えますが、これで頷くのは早計というもの。もう少し詳しく──
「宝石沢山ある。この辺よく取れる」
「引き受けましょう。その仕事、このホワイトにお任せを」
この樹海はほぼ未開の地。それはそれは資源に富んでいることでしょう。事実、二人は宝石があしらわれたブレスレットをつけています。即決でした。
仕事の内容までは詳しく聞かなくてもわかります。わたしが葬儀屋とわかってから依頼を持ち掛けてきたのですから、魔物に立ち向かって討ち死にした仲間を弔ってほしいというものでしょう。
「……ジル姉、なんのはなししてるの? どうしてかってにあげちゃうの?!」
ずっと眠っていた少女は話についてこれず、疑問の声を上げました。
「マグ……これは族長としての決定。従え」
族長だったんだこの人。一番偉い人じゃないですか。だから仲間の人たちは逃がそうとしたのかもしれません。
そしてこの少女はマグという名前らしいです。当然、そんな説明で納得できるはずがありませんよね。眉間に皺が寄っています。
「ジル姉のバカちん! もういいアタシひとりでたすけにいくから!」
病み上がりなのに走り出そうとする少女の腕を掴み、女性は力ずくで引き止めました。
「駄目。もう暗いし危険」
一理あります。ここがいくら過ごし慣れた土地だからといって、暗い森の中を少女一人で行動させるのはいささか危険でしょう。なにが起こるかわかりません。
「でもここしゅうらくのちかくなんでしょ?! マモノはおいはらったんだよきっと!」
一理あります。集落とやらの詳しい場所はわたしにはわかりませんが、女性の発言から察するにここからさほど遠くない位置にあるはずです。大量の魔物に襲われて全滅したというのなら、すでにここまで魔物が来ていてもおかしくありません。
わたしはそっと手を上げました。
「集落まで行ってみるに一票」
女性の驚愕する表情と、少女の嬉しそうな表情を同時に見れました。