8話
「ぅ~ん……」
やがて可愛らしい声が聞こえてきました。眠り姫がようやくお目覚めのようです。
それに気付いた女性は、心配の化身みたいな凄い形相で詰め寄ります。
「大丈夫か?! どこも悪くないか?!」
彼女が庇っていたおかげか、少女に大きな外傷はありませんでしたが、確かに目に見えない部分を負傷しているかもしれません。確認は大切です。
でも流石に近すぎると思います。おでこくっつきそうです。瞳の奥から悪いところでも覗けたりするのでしょうか。
「……ここって?」
「集落の裏手を進んだ先だ。そこのが助けてくれた」
目線でわたしのことを差しました。
そこのですか。確かにまだお互い名乗っていないのでいいですけど。
少女と目が合いました。どうも。
「──天使?」
「…………っ! この子貰ってもいいですか?!」
「駄目に決まっている!」
女性に一喝されてしまいました。怖い怖い。
わたしのことを一目見て『天使』だなんてこの子は世の中というのをわかっていますね。お持ち帰りしたい。非常に気に入りました。
いえ、やっぱり気に入りません。死んでいなければ天使には会えません。確かにわたしは天使のように美しい存在ですが、死なれては困ります。
「残念ながら天使ではありません、わたしはホワイトと申します。以後お見知りおきを」
「てことはアタシいきてるんだ……そうだ! ジル姉みんなは?!」
「みんなは……ワタシたち逃すため誇りと共に立ち向かっていった」
ジル姉というらしい女性は『死んだ』とは言いませんでした。
──あくまで果敢に挑んでいった、と。
「たすけなきゃ! コンココンゼンでしょ?!」
コンコ……? 知らない単語が出てきましたね。部族特有の言葉かなにかでしょうか。
女性は頷きました。
「もちろんだ。だがその前にやることある」
こちらを向くと、女性は言いました。
「お前ホワイト言ったな。つまり葬儀屋。ならば頼みたいことある」
「そこは知っているんですね」
葬儀屋と、葬儀屋の名前が色になっているということはご存じでしたか。意外。
仕事の話ならば、無下にするわけにはいきません。わたしは姿勢を正しました。
「伺いましょう。ただし、有料になりますよ」
「金はない」
「でしたらお引き受けすることはできません」
すでに息絶えている動物とは違います。
そこを譲歩するつもりは微塵もないわたしだったのでした。